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インドネシア中銀、驚きの後に納得の据え置き
梅澤 利文
2023/11/24

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概要

前回の金融政策決定会合でのサプライズ利上げから一転、インドネシア中銀は政策金利を据え置きました。足元のルピアの上昇、米国の追加利上げ観測の後退、インフレ率の低下などが背景とみられます。もっとも、インフレ率の低下もルピア安となれば上昇に転じる懸念もあるなど、課題も残されています。したがって、利下げはまだ先の話で、当面は引き締め姿勢を前面に据え置きを続けるとみています。




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インドネシア中銀、今回の会合では市場予想通りに政策金利を据え置き

インドネシア中央銀行は2023年11月23日、政策金利である7日物リバースレポ金利を大半の市場予想通り6.0%に据え置く決定を発表しました(図表1参照)。インドネシア中銀は前回(10月19日)の会合で市場予想の据え置きに反し、9ヵ月ぶりの利上げに踏み切り市場を驚かせました。通貨ルピア安を懸念しての利上げでした。今回の声明文では、足元の為替動向が安定しているとの判断を示しました。

インドネシア中銀のペリー総裁は会合後の記者会見でも為替は中銀の安定化政策に沿ってコントロールされていると強調しました。通貨安による輸入品の物価上昇にも落ち着きが見られます。

インドネシア中銀が政策運営をするうえで重視するのはルピアの動向

インドネシア中銀が10月の会合でサプライズ利上げを実施したのは、ルピア安への懸念があったため、というのは図表1にみられる通りです。今回インドネシア中銀が政策金利の据え置きを決定した要因を振り返ると、ルピアの動向が金融政策を大きく左右していることが浮かび上がります。

インドネシアのインフレ率を消費者物価指数(CPI)でみると10月は前年同月比2.6%上昇し、食品など変動の多い項目を除いたコアCPIは1.9%上昇となっています(図表2参照)。インドネシア中銀の23年のインフレ目標である3%±1%に収まっています。仮に通貨安を放置すれば時間差を伴って輸入物価の上昇がCPIを押し上げる懸念もあっただけに、10月は通貨安抑制のため利上げを決定した一方で、足元のルピアの動きが落ち着いていることが、政策金利据え置きの要因と思われます。

また、ルピアの動向を左右する要因として米国の金融政策の影響があります。10月頃までに発表された米国の経済指標は堅調で、米連邦準備制度理事会(FRB)の年内追加利上げ観測などが米国金利を押し上げました。その結果、インドネシアなど新興国通貨は全般に弱含む展開でした。しかし、今月に発表された米国の経済指標は米国経済の強さが一時的であったことを示唆する内容とみられます。FRBは政策金利を当面据え置くも、追加利上げの可能性は大きく後退したとみられます。インドネシア中銀は前回の会合ではFRBの利上げを意識した可能性はありますが、当面はFRBの据え置きを前提とした政策運営にシフトしたものと思われます。

インドネシアのインフレ率や国際収支にもルピアが影響を与える可能性も

次に、経済指標から据え置きの背景を振り返ると、10月のCPIが2.6%上昇と落ち着いていることなども据え置きを支持する要因とみられます。ただし、CPIのうち、食料品価格は10月が前年同月比5.5%上昇と課題も残されています。インドネシア政府は食品輸入により供給を増やし国内食品価格を抑える政策を進めています。CPIの低下は食品輸入などの政策支援により押し下げられている面もある点に注意は必要であるとともに、ルピア安を放置することは輸入を増やすという政策との整合性という点から都合が悪いこともうかがえます。

インドネシアの経常収支が7-9月期に改善したことも政策金利を据え置いた要因と思われます。インドネシアの国際収支を経常収支と資本収支から見ると、7-9月期はともに赤字幅が縮小し改善方向です(図表3参照)。7-9月期の経常赤字は9億ドルと、4-6月期の22億ドルから赤字幅が縮小しました。資本収支も同様の傾向となっています。

インドネシア中銀は声明文で、これらの動向を踏まえ国際収支の赤字幅は7-9月期に前四半期に比べ縮小したと評価しています。数字の上で改善は明らかで、経常収支の改善なども政策金利を据え置いた要因として考えられます。

ただし、経常収支の大半を占める貿易収支の改善は消費の落ち込みによる輸入の減少が見かけの数字を改善させた面もあると見られます。

最後に、インドネシア中銀の声明文では少し触れられただけですが、今後を占ううえで重要となりそうなインドネシアの24年の大統領選挙について簡単に述べます。最近の世論調査などから、有力候補を2人選ぶとすれば、ガンジャル前中部ジャワ州知事とプラボウォ国防相が挙げられます。憲法で3選が禁止されているため、2期目のジョコ大統領は出馬できませんが、ジョコ大統領の息子を副大統領候補としているプラボウォ氏の支持率がガンジャル氏を上回っているようです。プラボウォ氏がジョコ政権の路線を引き継ぐなら、安定感は期待できそうです。しかし、市場ではバラマキ的な政策となることを懸念する声もあり、資本収支への影響が気になるところです。大統領選に加え、インフレや米国の金融政策など、これまで述べてきた様々な要因を踏まえれば、インドネシア中銀は引き締め姿勢を前面に出しながら、当面政策金利を据え置く可能性が高いように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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