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インド金融政策プレビュー、経済指標は概ね良好
梅澤 利文
2023/12/01

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概要

インドの7-9月期実質GDP成長率は市場予想を上回りました。インフレ率の伸びは減速傾向ですが物価目標の中心値を上回っています。貿易収支は輸出を大幅に上回る輸入の回復で赤字幅が拡大しています。GDP成長率が堅調で、金融政策による景気押上げ策の必要性が低いとみられる中、通貨ルピー安の引き金となる恐れがある政策金利の引き下げに当面は慎重になると思われます。




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インドの7-9月期実質GDP成長率は、市場予想を上回った

インド政府が2023年11月30日に発表した7-9月期の実質GDP(国内総生産)の成長率は前年同期比で7.6%増と、市場予想の6.8%増を上回りましたが、堅調であった前期の7.8%増は下回りました(図表1参照)。各産業の付加価値を積み上げた粗付加価値(GVA)成長率は7.4%増でした。

需要別にみると政府支出が前年同期比12.4%増、総固定資本形成が11.0%増と成長押上げ要因となりました。一方、前期の成長を支えた個人消費は3.1%増と、前期の6.0%から伸びは減速しました。セクター別にみると、製造業は13.9%増、電気・ガス・水道も10.1%増と堅調でした。一方で、小売り・ホテル・運輸・通信は4.3%増にとどまりました。

インドのインフレ率は物価目標上限(6%)を下回っている

インド準備銀行(中央銀行)は12月8日に金融政策決定会合の開催を予定しています。市場では、インド中銀が政策金利(レポ金利)を6.5%で据え置くと予想しています。インドの経済指標を振り返ると、次回会合以降も政策金利の据え置きが想定されます。

まず、インフレ率を消費者物価指数(CPI)でみると、10月は前年同月比で4.87%上昇と、9月を下回り(図表2参照)、インド中銀の物価目標上限である6%を下回っています。しかし、インド中銀のダス総裁は前回の会合で、物価目標は4%と繰り返し強調しています。インフレ率が物価目標の上限を下回った程度では利下げに転ずるなど金融緩和を開始する考えはないようです。CPIを項目別にみても、構成比率で45.9%を占める食品等は前年同月比で10月に6.2%上昇しました。生活に直結する項目でもあり、政治的にも重要であることから、インド中銀は金融引き締めを緩める状況にはないようです。

次に、景気動向ですが7-9月期のGDP成長率は堅調で、金融政策で景気を下支えする必要性は足元では低いように思われます。

ただし、成長率の内容に4-6月期と変化がありました。前期は消費などが成長をけん引した一方で、7-9月期は製造業などが成長率を押し上げました。セクター別の伸び率をみると、消費を代表する小売り・ホテル・運輸・通信セクターは7-9月期が前年同期比で4.3%増と、前期の9.2%増から低下しました。一方製造業は13.9%増と、前期の4.7%増を大幅に上回りました。

消費は、小売り・ホテル・運輸・通信セクターの22年7-9月期の成長率が15.6%増と大幅な伸びであったことの反動で23年7-9月期の伸びが鈍った面もあり、消費は依然底堅いとみています。

一方、製造業が急回復した背景には補助金や公的部門の投資活動が押し上げたことと、製品の原料調達から消費活動までに至るサプライチェーン全体を、グローバルに最適化するグローバルサプライチェーンの再構築でインドが主要拠点となりつつあることも、製造業を押し上げた可能性があります。グローバルサプライチェーンの再構築は息の長いテーマであり、これがインドの製造業をどの程度押し上げているか、今後の展開に注目しています。

インドの輸入は旺盛な内需を背景に拡大傾向で、貿易収支は悪化

インドの外需を貿易統計から振り返ります。インドの10月の輸出は前年比6.2%増と、前月のマイナス2.6%からプラスに転じました(図表3参照)。輸入も12.3%増と、前月のマイナス15.0%から急回復しました。結果として10月の貿易収支は314.6億ドルと大幅な赤字となりました。

輸出品目をみると、機械、医薬品、電気機器などが10月も堅調な伸びを示しました。製造業などが輸出を下支えしています。ただし、10月の輸出額は全体で約336億ドルと、輸入の約650億ドルを下回っています。インドは中国に比べ、全産業に占める製造業の比率が低いことが懸念されています。インドのモディ政権は「自立したインド」をスローガンに、GDPに占める製造業の比率を25%とすることを目標としていますが、足元では15%近辺で、長期的な課題は残されています。

輸入は10月に、原油や電気機器、機械、金の輸入額が前年比で伸び、急回復しました。内需の堅調さが輸入増加の背景とみられます。輸入インフレの悪化や輸入額を抑えるためにもルピー安は回避したいところです。インド中銀はこまめに為替介入を実施してルピー安を抑えています。もっとも、インドへの直接投資や証券投資による資金流入による国際収支の改善が、ルピー相場をある程度は下支えしているようです。

インドは足元での地方選挙、来年の国政選挙と、経済以外にも為替の変動要因があります。一方仮にインドが米国に先行して利下げを実施すれば大きなルピー安要因となるとみられます。インフレ率が物価目標の上限を下回ったとしても利下げは考えられず、当面の据え置きが見込まれます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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