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中国の新たな不動産市場支援策への期待と不安
梅澤 利文
2024/05/24

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概要

中国政府は不動産問題への対応策として、地方政府が売れ残り住宅を買い取り、安価な住宅に転換する方針を示しました。また、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げや、国有企業による住宅購入への支援などの措置も発表しました。今回、不動産問題解決に向け従来より明確な方針が示されたことから期待は高まっています。しかし、具体的な取り組みはこれからで、解決までの道は長いと思われます。




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中国当局は不動産問題への対応を本格化させる動きへ

中国政府は5月17日、何立峰(ハァ・リーファン)副首相を議長にテレビ会議を開催し、不動産不況をめぐる解決策の一環として国内で売れ残っている住宅を買い取る方針を示しました(図表1参照)。買い取る主体は地方政府などで、買い取り後に安価な住宅に転換して提供する計画です。

同会議後、中国人民銀行(中央銀行)は低迷する不動産需要を喚起するため、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発表しました。さらに、人民銀は国有企業による売れ残り住宅購入を支援するため、3000億元(約6兆5000億円)相当の低利資金を供給する全国的なプログラムを設けることを発表しました。

4月の政治局会議で、延期されていた3中全会の7月開催が決定された

中国の不動産株指数は、4月終わりから急上昇する局面がありました(図表2参照)。大手不動産会社の債務不履行(デフォルト)懸念は残るものの、中国当局の不動産問題への対応策に対する期待が主な押し上げ要因とみられます。特に4月末の中央政治局会議で示された次の2点が市場の期待を高めたと見られます。

1点目は第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)を7月に開催することが決められたことです。3中全会は共産党の重要会議と位置付けられ、主要な経済政策の方針が決定されることが多いことで知られています。ただ、23年秋の開催予定から延期されていました。不動産政策の支援方針が、定まっていなかったことなどが延期の背景と思われます。7月開催が決定したということで、不動産市場支援策への期待が高まっています。

2点目は、予約販売されたが未完成となっている住宅の引き渡しを確実にすることが地方政府に求められたことです。中国では住宅投資などで完成前に売買契約を結ぶ予約販売が今でも主流で、完成後に販売する方式の割合は少ないのが現状です。日本で住宅を購入する場合、事前に頭金を支払い、住宅ローンの返済は物件の引き渡し後に始まるのが通例です。中国では竣工前に頭金とともに、住宅ローンの返済を始める、予約販売の方式が主流です。この方式の欠点は中国政府が不動産規制を強化した時に露呈しました。規制で資金繰りが苦しくなった不動産業者が、住宅を未完成のまま放置するケースが相次いだからです(以後、未完成住宅問題)。住宅建設が確約できないなら住宅ローンを払わないと、抗議する市民の姿が報道されているのをご覧になった方も多いかと思います。未完成住宅問題で浮かび上がったのは中国の住宅販売方式では住宅購入者がリスクを負うということでした。

中国国家統計局によると、新築住宅販売面積に対する予約販売の割合はピークの21年には9割近くにまで上昇しました。足元低下しましたが、それでも7割超で高止まりしています。住宅完成後に引き渡す「完成後販売」へのニーズは強いものの、不動産開発業者は資金を早く回収できること、そのため業者のコストが低いことなどから、予約販売が減少するペースは緩やかとなっています。

未完成住宅問題の解決に向けた重要な一歩を踏み出したが、道は長い

未完成住宅問題で放置された住宅は、数百万戸とも数千万戸とも言われていますが、放置された住宅の購入者以外にも新規の住宅購入者のセンチメントにも悪影響が及ぶと想定されます。米中対立など解決策が難しい問題も残される中、中国の消費者センチメントは悪化していると見られます。資金需要は中国経済のセンチメントを測る重要な指標ですが、社会融資規模で資金需要を見ると、4月は前年同月比で8.3%増と、急速な悪化が懸念された3月の8.7%増をさらに下回りました(図表3参照)。筆者は、中国の消費活動が軟調なのは消費者センチメントの悪化が背景と見ています。センチメントが悪化した経済では利下げなどが効きにくいという傾向も見られます。そのため、不動産会社の債務不履行に並んで深刻な問題である未完成住宅問題の解決が求められます。

中国当局は昨年も未完成住宅問題解決の意向を示しましたが、進展は限定的でした。今回、地方政府が未完成の住宅を買い取るなど踏み込んだ方針が示されました。これを受け市場で不動産株が上昇しましたが、早くも息切れが見られます。理由は具体策としてまだまだ課題が残されているからと思われます。そもそもどの地方政府が、どの程度購入するのか?中央政府でなく何故財務基盤に不安がある地方政府なのか? など疑問は尽きないうえ、全体像の把握もこれからです。また、人民銀が示した売れ残り住宅購入の融資額3000億元は規模が小さいと見られます。中国当局は今後、未完成住宅問題の対象物件を精査して対応を具体化すると思われます。精査の過程で未完成住宅の規模など、問題の全体像が把握されるものと思われます。今回、中国当局は問題解決に向け待ち望まれた一歩を踏み出しました。しかし、解決には相当の困難を伴いそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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