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- インド総選挙を終えた後のインド中銀の出方
インド中央銀行は6月7日の会合で政策金利を市場予想通り6.5%で据え置きました。8回連続の据え置きです。一方、インドの総選挙を受け、モディ氏が3期目の首相に就任しましたが、与党のBJPは単独過半数を割り込むなど事前の予想を下回る結果となったことから国内の景気回復を重視した財政政策などが想定されます。インド中銀はインフレの持続的な安定を重視した政策運営を維持すると見ています。
インド中銀、市場予想通り据え置きながら、利下げ支持が増えた
インド準備銀行(中央銀行)は6月7日に終了した金融政策委員会で市場予想通り政策金利(レポ金利)を6.5%で据え置くことを決定しました(図表1参照)。据え置きは8会合連続です。
インド中銀の金融政策委員会は6名のメンバーで構成されています。メンバーの内訳は3名がダス総裁を含むインド中銀から、残り3名は外部委員となっています。今回の据え置きの決定は4人が賛成し、外部委員の2人が0.25%の利下げを支持しました。前回の金融政策委員会(4月)では5人が据え置きを支持していたことから、今回は緩和を支持する投票が(外部委員から)増えたこととなります。
総選挙の結果が明らかとなるも、インド中銀は新政権の政策に言及せず
インドでは6月4日に総選挙の一斉開票が始まり、与党・インド人民党(BJP)を含む与党連合が過半数を確保したことを受け、同党のモディ氏は9日、3期目の首相に就任しました。ただし、大方の市場予想(与党の大勝)と異なり、BJPは単独で過半数を確保できなかったことは報道の通りです。 BJPは連立を組む地域政党に配慮せざるを得ないと共に、苦戦の背景と見られる国内の経済格差や高水準の若者の失業率への取り組みが求められます(図表2参照)。
インド中銀の金融政策委員会は総選挙の結果がほぼ判明した7日に開催されました。声明文や記者会見で選挙の結果について言及することは、ほぼありませんでした。記者会見で選挙結果を受け、財政支出が拡大する可能性を問われた際にも、ダス総裁は財政政策について述べるのは適当でないとして、金融政策の中でコメントすることは差し控えました。
モディ氏が3期目の首相に就任したのは9日と、モディ政権の政策運営に関したテーマを話題とするには早過ぎるタイミングでした。ただし、今回の総選挙で浮かび上がったインド経済の課題や問題点はインド中銀の政策に影響を及ぼす可能性も考えられます。
インド中銀は物価の持続的な安定を重視し、利下げを急がない姿勢だろう
インドの総選挙期間中の世論調査でモディ政権の課題(失敗)として失業と物価などが指摘されました(他にはコロナ対策などが指摘された)。
まず、失業率の問題を2つの点に絞ります。1点目は図表2にあるように若年層の失業率が、特に高学歴層で高いことです。この背景に様々な理由が考えられますが、長期的な背景として機械化などにより、農業部門で労働力の必要性が低下したことが挙げられます。インドの90年代の農業部門の就業者割合は7割弱でした。これが2018年には50%を下回るなど低下傾向です。失業者が地方に多いのはこれが理由と思われます。このような中、若年層は都市に向かい、一部は大学に入学する動きがみられました。インドの大学生の数は急増していますが、学歴と企業の求めるスキルのギャップを失業者増加の背景と指摘する声見あるようです。
2点目の問題は、そもそもインドの労働統計が未整備なことです。図表2を(ご参考)としたのは、使いやすいデータがインド政府に乏しく、国際労働機関を使う必要があったからで、情報提供は不十分と思われます。先進国の中央銀行は金融政策の判断に失業率を重要視するだけに、データの整備が待たれます。なお、インド中銀の調査書では、各種調査の失業率を利用しているようです。そのためインド中銀はある程度の幅を持って失業率の分析をしているように見受けられます。
次に、インドの総選挙で争点となった物価について記者会見で「最後の1マイル」の難しさを訴えました。インドの消費者物価指数(CPI)は4月が前年同月比4.8%で、物価目標(4%±2%)の範囲には収まっていますが、中心値の4%までには距離が残ります(図表3参照)。インド中銀は今回、24年度(24年4月~25年3月)のインフレ見通しを前回(4月)の委員会と同じ4.5%に据え置きました。しかし食品価格の上昇に懸念を示しており、例年に比べ雨量が多いと見込まれているモンスーン期の天候に期待を寄せています。商品価格上昇等への懸念も示唆しており、ダス総裁は物価上昇の抑制を重視する姿勢にも見られます。
今回、インド中銀は24年度のGDP(国内総生産)成長率の見通しを7.0%から7.2%に上方修正しました。インドの製造業、サービス業購買担当者景気指数(PMI)は60前後と高水準ながら、足元頭打ち傾向であることからやや意外感もありますが、政策金利の据え置きに賛成したインド中銀メンバーにとっては支援材料と見られます。
選挙を受け、モディ政権は国内重視の経済・財政政策運営が想定される中、インド中銀はインフレの持続的な安定を重視し、利下げを急がないスタンスで金融政策を運営すると見ています。
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