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中国主要経済指標から浮き彫りとなった問題点
梅澤 利文
2024/06/19

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概要

中国国家統計局が発表した5月の主要経済指標によると、工業生産と固定資産投資は市場予想を下回りましたが、小売売上高は市場予想を上回りました。中国経済は特定の製造業に対する当局の支援策や、消費イベントで下支えされている面が見られます。とりわけ中国の製造業への支援は過剰生産の温床とみられており、米中対立の火種となっています。中国の成長は、その中身の判断が重要です。




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中国5月の主要経済指標:小売売上高は市場予想を上回った

中国国家統計局は6月17日に、5月の主要経済指標を発表しました。工業生産と固定資産投資は市場予想を下回りましたが、百貨店やスーパーの売り上げ、インターネット販売を合計した小売売上高は市場予想を上回りました。

工業生産は前年同月比5.6%増と、市場予想の6.2%増、前月の6.7%増を下回りました(図表1参照)。一方で小売売上高は3.7%増と、市場予想の3.0%増、前月の2.3%増を上回りました。娯楽用品、化粧品、通信用品、家電が2桁の伸びとなりました。また、小売売上では外食を含む食料品も5.0%増と堅調でした。この背景として24年5月は労働節の連休が5月1日〜5日と前年より1日多かったことが挙げられます。

IMFは中国の不動産対策などを評価して24年の成長見通しを引き上げた

国際通貨基金(IMF)は5月29日に公表した中国経済に関する審査報告で、24年の成長率見通しを5.0%とし、4月に公表した世界経済見通しから0.4%ポイント引き上げました。IMFは成長率を引き上げた背景として、24年1-3月期のGDP(国内総生産)成長率が想定以上に強かったこと、最近の中国当局の景気支援策、とりわけ不動産問題への対応策を指摘しています。

一方、IMFは中国の成長見通しには下方リスクがあるとも述べており、主な要因として不動産問題の長期化と、米中分断リスクを挙げています。

5月の主要経済指標の中で固定資産投資を見ると、5月は(年初来)前年同期比で4.0%増と、前月の4.2%を下回りました(図表2参照)。IMFの指摘を踏まえると、固定資産投資の構成指数のうち、次の2点が懸念されます。

1点目は不動産投資の回復が遅れ、問題が長期化することです。5月の不動産投資は前年同期比10.1%減と、前月の9.8%減を下回り、下落基調が続いています。中国政府は5月17日に未完成となっている住宅を地方政府に買い取らせるなどの不動産関連の支援策を発表しました。その効果は5月のデータには見られません。もっとも今回の不動産関連支援策において未完成住宅を買い取る方針の方向性は正しいと思われます。しかしながら、具体策はこれからで、買取を支援する融資の規模も不十分です。長期的取り組みといえども、具体的で大規模な支援が必要です。さしあたって次の注目点は7月に予定される第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)です。6年前の3中全会は政府機構改革が主題となりましたが、7月の3中全会では経済政策が主題となる見通しで、筆者は大いに注目しています。

2点目は製造業の伸びの持続性です。5月の製造業投資は前年同期比9.6%増と、前月の9.7%増を下回ったとはいえ水準は高く、インフラ投資と並んで固定資産投資の押し上げ要因です。しかし、中国の製造業投資の伸びは、中国当局が産業高度化や電気自動車普及等、特定分野に資本を重点配分する政策に支えられています。これについてIMFは、資本配分のゆがみによる経済の効率性の低下や、中国の過剰生産能力への懸念を表明しています。過剰生産は米国との貿易摩擦を悪化させることが懸念されるからです。IMFの提言によると、中国は経済成長の優先順位をインフラ投資や製造業投資に置きすぎており、今後は消費への優先順位を高めるべきと指摘しています。

中国の成長率は数字だけでなく、その内容の精査が求められる

中国の5月の小売売上高は市場予想を上回るなど底堅さを見せました。中国の消費では電子商取引(EC)の利用が増えており、消費の動向を見るうえで参照していますが、5月のECを通じた取引は(年初来)前年同期比で12.4%増と、前月の11.5%増を上回り、高水準を維持しています(図表3参照)。ただし、小売売上の品目を見ると、5月に化粧品は前年同月比18.7%増と、前月の2.7%減から急増しています。5月に設定されたECイベントが押し上げた可能性もありそうです。

中国の消費は先に指摘した労働節の連休の日数要因やECイベントなどで押し上げられた面もありそうです。中国の消費者マインドの回復による小売売上高の回復とは言い難い面もあります。消費をけん引する傾向がある若年層の失業率(学生を除いたベース)は5月が14.7%と、依然15%前後の高水準にとどまっていることなどが理由です。また、不動産問題の解決も道半ばで、5月の数字から消費回復と判断するのは時期尚早と考えます。

IMFが製造業への資本配分の重点投資を警告した矢先に、5月の工業生産が前月を下回ったのは、数字の上では良い兆候のようにも見えます。しかし内容を見ると、新エネルギー車や産業AI機器など重点投資で問題となっている分野で2桁の伸びを維持している一方、建設活動の停滞からセメントは前年同月比8.2%減となるなど、その他の分野の不振が工業生産の下押し要因となりました。中国の5月の工業生産は伸びが鈍化し、消費は回復ですが、望ましい姿からは程遠いと見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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