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インドネシア中銀、政策金利据え置きとその背景
梅澤 利文
2024/06/25

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概要

インドネシア中央銀行は6月の金融政策決定会合で、政策金利を6.25%で据え置きました。ルピア安懸念はあるものの、インフレ率の安定、経常赤字が今後縮小する見込みであること、そして資本流入などが据え置きを決定した理由です。インドネシア中銀はルピアが安定すれば利下げを視野に入れている可能性もありますが、FRBの政策変更や次期大統領の財政政策などの不安材料も残されています。




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インドネシア中銀、市場予想通り政策金利の据え置きを決定

インドネシア中央銀行は6月20日に終えた金融政策決定会合で、市場予想通り政策金利(7日物リバースレポ金利)を6.25%で据え置くことを決定しました(図表1参照)。据え置きは2会合連続となります。インドネシア中銀のペリー総裁は会見で政策金利を据え置いた理由として、足元のインフレ率の安定などを挙げています。

インドネシア中銀は4月の会合で政策金利を0.25%引き上げた後、5月と今回の会合では政策金利を据え置きました。市場の一部には4月に利上げをした時よりも、通貨ルピアが安値圏にあることから、今回の会合での利上げ予想をするとの見方もありました。

ルピア安ながら、良好なインフレ見通しと経常収支改善期待で据え置き

インドネシア中銀は伝統的にインフレ目標を達成するため、ルピア安抑制を重視した政策運営を行ってきました。利上げを決定した4月の会合に比べ、足元はルピア安となっていることからすれば今回の会合で利上げを選択するのは自然なようにも思われます。しかし、インドネシア中銀はルピア安を容認し、政策金利を据え置きました。その主な背景は次の3点です。

1点目はインフレ率がおおむね減速傾向にあり、インフレ目標の範囲で推移していることです(図表2参照)。インドネシアの5月消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.84%上昇し、変動が大きいエネルギーと生鮮食品を除いたコアCPIは1.93%上昇と、共にインフレ目標の範囲(2.5%±1%)に収まっています。CPIの変動要因となっていた食料品価格は、食料生産回復などを背景に、4月の前年同月比9.63%上昇から、5月は8.14%上昇に伸びが鈍化したとインドネシア中銀は指摘しています。

コアCPIについては、その動向を左右する期待インフレ率が安定的に推移する見通しであるとインドネシア中銀は説明しています。コアインフレ率も含め物価は目標の範囲で推移すると見込んでいます。

2点目は経常赤字縮小への期待です。インドネシアの1-3月期経常収支は22億ドルの赤字で、前期の経常赤字11億ドルから赤字額が拡大しました(図表3参照)。このデータが発表された5月後半、経常赤字拡大が嫌気されルピア安が進行しました。しかし、インドネシア中銀は5月の貿易統計で財輸出が大幅な黒字であったことなどを背景に、4-6月期の経常収支では赤字額が縮小する見込みであると述べています。また、インドネシア中銀は24年の経常赤字対GDP(国内総生産)比率は0.1%~0.9%の範囲に収まると見込み、ルピア安要因とは考えていないようです。

3点目は資本流入への期待です。インドネシア中銀は自国通貨防衛を目的に23年9月にプロ向けに「インドネシア銀行ルピア証券」(SRBI)と呼ばれる短期証券の発行を開始しました。SRBI全体の保有残高は6月14日時点で約666.5兆ルピア(約6.5兆円)と増加傾向です。特にSRBIのうち非居住者の保有残高は179.9兆ルピアと増加しており、海外からSRBI投資を通じて資金が流入しているとインドネシア中銀は説明しています。インドネシア中銀は今後もSRBIなどを活用して資本流入を確保する構えです。

ルピアにとっては、財政政策への不安が重荷となっているようだ

インドネシア中銀は足元のルピア安はこれまで指摘した要因から一時的と判断し、政策金利を据え置くと共に、実質金利の高さからルピアが安定すれば利下げも視野に入れていると思われます。

ただし、ルピアには次の懸念も残ります。

まずは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ開始時期の後ずれです。インドネシア中銀はFRBの利下げ開始を24年終盤と見込んでいます。

次に、SRBIがインドネシアから資金流出へと転じるリスクです。これはルピア安要因となる可能性もあり、利下げをためらわせるかもしれません。

おそらく、最大の懸念は次期大統領に就くプラボウォ国防相の財政政策と思われます。現在のインドネシアの財政状況は健全です。24年の債務残高対GDP比率は40%弱と推定され一般的には健全な水準です。インドネシア財政の健全さに一役買っているのが財務制限(天井)で、債務残高対GDP比率は60%、財政赤字対GDP比率は3%までとされています。プラボウォ次期大統領は当選前から、債務残高対GDP比率を任期(29年)までに50%に引き上げると述べています。この数字自体驚きはありませんが、選挙公約などから判断して歳出はばらまきの性格が強い内容と思われます。より問題なのは債務残高対GDP比率を50%とするには財政赤字対GDP比率が3%で収まらない可能性もあることから、財政規律が揺らぐ事も懸念されます。プラボウォ次期大統領の政策が明確となるのはこれからですが、インドネシア中銀は今後の行方を注意深く見守っていると思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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