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ジャクソンホール会議直前の注目点
梅澤 利文
2024/08/21

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概要

米国の利下げ開始を先取りするかのように、先進国の多くが利下げを開始、もしくは追加利下げを行っています。米国経済に目を移すとインフレ鈍化は基本的に続いており、視線は米国の景気に注がれています。特に米労働市場が注目され、市場は通常は関心が高いとはいえない非農業部門就業者数の年次ベンチマーク改定にまで注目するなど、ジャクソンホール会議を前に緊張感が高まっています。




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スウェーデンの中央銀行は市場予想通り追加利下げを決定

スウェーデンのリクスバンク(中央銀行)は8月20日に市場予想通り政策金利を0.25%引き下げて3.5%にすると発表しました(図表1参照)。利下げは5月以来、2会合ぶりです。リクスバンクは「インフレ見通しが変わらなければ、今年さらに2〜3回の追加利下げの可能性がある」と表明しました。前回会合(6月)のトーンに比べ、利下げペースを速める考えを示しました。

世界的にインフレが鈍化傾向となる中、スイス中銀は早くも3月21日に利下げを開始し、6月20日に追加利下げを実施しました。カナダ中銀は6月に利下げを開始し、7月に追加利下げを実施しました。英国中銀は8月に利下げを開始しました。

米国の利下げ観測は、他の先進国の金融政策に微妙な影響を与えている

米10年国債利回りは24年年初から4月頃まで上昇傾向でした(図表2参照)。1-3月期の米消費者物価指数(CPI)が再加速の兆しを見せたこと、雇用統計が堅調であったことなどが背景です。しかし、その後物価は減速傾向に転じ、雇用統計も市場予想を下回ることが多くなり、国債利回りは低下傾向に転じました。このような中、市場は9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利下げ開始を織り込んでいます。

図表1でみたように多くの先進国や、ユーロ圏(図表1にはありませんが)はすでに利下げを開始しています。これら各国、地域が利下げを決定したのは自国のインフレ率低下などが背景です。インフレ鈍化が早かったことと、通貨高が懸念されたスイスは3月に早々に利下げを開始しました。

一方、米国の利下げ開始が近いとの観測も、各国の利下げを後押しする要因とみられます。米国が利下げをすることが考えられない時期に利下げを始める国は、対ドルで通貨安に直面するリスクがあります。物価が落ち着き始めた国が仮に早すぎる利下げ判断をした場合、輸入インフレで物価高再燃となる恐れもあります。

ユーロなど主要通貨に対するドルの総合的な強さを示すドル指数の足元の動向をみると、米国債利回りの低下に伴いドル指数は低下傾向です。米国以外の先進国が利下げにより自国通貨安となる可能性は低い環境であると思われます。

米国以外の多くの先進国が利下げ方向であることは、米国に利下げを促す作用もありそうです。仮に米国が「孤高の据え置き」を続ければ、ドル高進行の可能性があります。過度なドル高は米国の景気回復を遅らせる恐れもあります。金融政策は各国中央銀行が自国の物価動向から判断してはいるはずですが、為替を通じてお互いに影響しあっている面もあり全く無関係とはならず、他の先進国の利下げは米国にも影響を与えそうです。

インフレが鈍化傾向な中、パウエル議長の景気認識が注目されよう

今週の市場の最大の関心事は、ジャクソンホール会議における米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の発言内容でしょう。9月利下げ開始の可能性についてどこまで突っ込んだ話があるかが注目されます。また、景気認識も重要です。インフレが主役の座を降りつつある中で、景気認識は追加利下げのシナリオにも影響を与えそうです。

労働市場についてはすでに公表された雇用統計に加え、21日(日本時間午後11時)に米労働省が発表する雇用統計の年次ベンチマーク改定が注目されています。非農業部門就業者数の24年3月までの1年間の修正分が発表さる予定です(図表3参照)。23年は30,6万人分下方修正されました。23年3月までの1年間の雇用の伸びは月平均で約33.7万人増でした。しかし30.6万人分の下方修正により、月平均の伸びは約31.2万人程度が「本来」の数字とみられます。雇用統計の事業所調査は速報性を重視してサンプリング調査で雇用者数を推定しています。一方で、年次ベンチマーク改定では労働者の95%程度をカバーする「四半期雇用・賃金調査」のデータを参照するため、速報性はないものの、高い精度で推定されます。ただし、雇用統計の事業所調査は新規事業の立ち上げによる採用増加や、反対に事業が閉鎖された場合の雇用減が反映されにくい面もあります。そこで、当初は暫定値として推定し、年次ベンチマーク改定で精度を高めるようです。

21日に発表の年次ベンチマーク改定値では24年3月までの1年間の修正分が発表されます。この期間における米就業者数の伸びは290万人でしたので月平均では約24.2万人増で、かなり堅調な伸びであったとみられます。しかし、6月に公表された「四半期雇用・賃金調査」データなどから判断すると、今回の年次ベンチマーク改定では昨年のように下方修正される公算が高いとみられ、市場予想の中には過度な下方修正も見られます。この数字の発表を受けたパウエル議長の米労働市場に対する認識には注目が必要です。市場はハト派(金融緩和を選好)発言を期待しているようにも見えますが、思い込みには注意も必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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