- Article Title
- ブラジル中銀が再び利上げに転じるとみられる背景
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17-18日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催します。多くの国がFOMCに合わせて金融政策決定会合を予定し、据え置きや利下げが予想される中、ブラジルは利上げが予想されています。ブラジルのインフレ率は足元安定しているものの、労働市場の堅調さに加え、ブラジル政権の財政規律を遵守する姿勢に疑問があり、ブラジル中銀は緩和に慎重な構えです。
FOMC後に、多くの国で金融政策決定会合が予定されている
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17-18日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催します。多くの国がFOMCに合わせて金融政策決定会合を予定しています(図表1参照)。アジア時間に会合結果を発表するインドネシアを除けば、図表1に示した国々はFOMCの後に、会合結果を発表することになります。
図表1の「市場予想」は、9月に会合を行う国々の金融政策の市場予想です。これを見ると多くの国で据え置きか利下げが予想されています。据え置きといっても、英国は7月末に利下げを開始しており、インドネシアやノルウェーも年内に利下げを開始するとみられます。そうした中、金融政策が周回遅れとなっている日本を除けば、利上げが予想されているブラジルは方向が異なっています。
ブラジルはインフレ率に落ち着きはみられるが、利上げが見込まれる
図表1は主にFOMC直後に金融政策決定会合の開催を予定している国を示しましたが、メキシコ(9月26日)やインド(10月9日)なども会合を控えています。メキシコは利下げ、インドはおそらく年内利下げ開始が見込まれており、米国の利下げは通貨の安定という観点から金融政策に大なり小なり影響を与えたと思われます。
一方で、市場はブラジル中銀が9月の会合で政策金利を10.75%へ引き上げると予想しています(図表2参照)。ブラジルは利下げ開始が23年8月と他国に比べ先行していたことから、利上げに転じる機運が高まったという面はありそうです。
しかし、ブラジルのインフレ率はこの1年ほど4%前後で推移しています(図表3参照)。ブラジル中銀の物価目標の範囲(1.5%~4.5%)に概ね収まっています。もっとも、期待インフレ率は5%前後とやや懸念される状況です。それでも、ブラジルの実質金利は過去の平均(過去10年平均で4.6%程度)と比べても高いことから、ブラジルの実質金利はほぼ間違いなく景気抑制的な領域にあるとみられます。
また、ブラジルの中立金利(名目ベース、景気を冷やしもせず、過熱し過ぎもしない理論上の金利水準)は4.75%程度であると思われ、足元の政策金利の10.5%は景気抑制的水準とみられます。
それにもかかわらず、ブラジル中銀が利上げを支持するとみる要因として、財政不安などを背景としたレアル安、不思議なまでに堅調な労働市場、インフレ見通しの悪化、成長率の上方修正などが挙げられます。
ブラジル経済は財政政策の支援などを受け比較的堅調
ブラジルは財政政策による支援もあり、内需を中心に景気は底堅く、4-6月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比で3.3%増と、前期の2.5%増を上回りました。旺盛な内需を反映して輸入が拡大(前年同期比14.8%増)し、純輸出の寄与がない中でのプラス成長は、3.3%という数字よりも実感はより力強い成長とみられます。そうした中、ブラジルの7月の失業率は6.8%でした。コロナ禍や、15年~16年ごろの新興国経済の混乱期の失業率を大幅に下回っています(図表4参照)。
その結果、賃金はサービス部門を中心に高止まりしており、潜在的なインフレ懸念となっています。ブラジル中銀は前回(7月末)の会合で、インフレ予想を24年は4.2%、25年は3.6%とし、6月会合時の4.0%、3.4%から各々上方修正しました。労働市場の強さなどを反映したインフレ懸念が利上げの1つの要因とみられます。定量的に示すのは難しいですが、景気押上げには財政政策が一役買っているようです。
レアル安もインフレ要因と思われます。図表1でレアルの動きをみると7月から8月にかけてレアルは上下に変動が大きくなっています。左派のルラ政権の財政政策にレアルは右往左往しています。ルラ政権は7月には財政支出削減や、財政規律順守の姿勢を見せたものの、8月末に提出された25年度予算案は現状維持を示唆する内容でした。足元では給付金(ガス代の補助)拡大を模索するなど、市場への影響を見守りながら、財政拡大をうかがう姿勢とみられます。予算案が承認される年末(通常)まで財政政策をめぐる混乱も想定されます。市場がブラジル中銀の利上げを短期的とみるのは、財政政策と無関係ではないかもしれません。ブラジル中銀は財政政策に注意を払う展開が続きそうです。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。