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インドネシア中銀、サプライズ利下げの背景と今後
梅澤 利文
2024/09/20

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概要

インドネシア中央銀行は9月18日に政策金利を0.25%引き下げ6.00%としました。市場では過半が据え置きを予想していましたが、米国の利下げ開始の確度などが高まったこと、通貨ルピアの安定化に加え、国内ではインフレ率の低下や、国内景気の下支えを理由に挙げています。ただし、インドネシアは利下げの蓋然性が強いともみられず、今後の利下げは緩やかなペースにとどまる可能性もあるとみています。




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インドネシア中銀、市場予想の据え置きに反して利下げを決定

インドネシア中央銀行は9月18日、政策金利(7日物リバースレポ金利、BIレート)を0.25%引き下げ、6.00%とすることを発表しました(図表1参照)。市場では大半が据え置きを予想していました。インドネシア中銀は利下げを決定した理由として、インフレ率の低下、通貨ルピアの安定化(ルピア高)、国内景気の下支え、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測、などを指摘しています。

アジア時間に利下げを発表したインドネシア中銀はFRBの利下げ直前に利下げを決定したこととなります。市場は大半が、インドネシア中銀の利下げは10月以降の金融政策決定会合(毎月開催)になると見込んでいました。

インドネシア中銀はルピアの安定に向け米金融政策の動向を注視

アジアの中央銀行は、自国通貨とドルとの感応度が高いことなどから米国の金融政策に歩調を合わせることが多く、全般に据え置き姿勢でした。こうした中、フィリピン中銀が8月に利下げを決定したのに続き、今回インドネシアが利下げを決定しました。9月月初に政策金利を据え置いたマレーシアや、タイ、インドなど他のアジアの国々も利下げに転じる可能性がありそうです。この想定を念頭に、インドネシア中銀の利下げを振り返ります。

まず、筆者も含め市場が据え置きを予想していた背景はインドネシア中銀が前回(8月21日)の会合で、ルピア安抑制姿勢を維持していたことが挙げられます。また、利下げが確実視されていた9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を待つのではとの考えもあったように思われます。

しかし、今回利下げに踏み切った国外要因として、米国利下げに対する確信度合いを高めたことが背景です。インドネシア中銀は記者会見でFRBの利下げについて24年は0.25%を3回(9月、11月、12月、前回までは2回を予想していた)を見込んでいました。25年は4回の利下げを予想している(従来は3回)と述べています。その後に発表された9月のFOMCでの実際の利下げ幅は0.50%でしたが、ドットチャートでは年内残りの利下げ回数は、1回と2回で拮抗していました。インドネシア中銀が予想する米国の利下げは、9月のFOMCから数えて年内3回というのは、おおむね適切な読みであったと思われます。

今にして思えばではありますが、インドネシア中銀は最近の会合でルピア高が確認できるならという条件付きで、年内利下げ開始の可能性に言及し始めていました。改めてルピアの動きを振り返ると、対ドルでルピア高は進行しており、米国の利下げが確実視されたことは、インドネシア中銀の利下げ機運を高めたことが推察されます。

なお、インドネシア中銀の利下げ後もルピア高が続いています。これは現地通貨建てインドネシア債券の購入意欲が高まったためとみられます。現地通貨建てインドネシア国債利回りは足元低下(価格は上昇)しています。

インドネシアの国内要因:インフレ率は物価目標に収まる

次に利下げの背景となった国内要因を振り返ります。インドネシア中銀はインフレ率の低下と国内景気の下支えを利下げの背景と指摘しています。

インドネシアの消費者物価指数(CPI)は8月が前年同月比で2.12%上昇と、22年後半から23年前半までおおむね5%超で推移していたのに比べ落ち着いています。インドネシア中銀の24年の物価目標(2.5%±1%)を十分に満たす水準です。先のインフレ率上昇の背景でもあった食品CPIは8月が前年同月比で3.04%と、先月の3.63%を下回り、不安材料とは見ていないようです。声明文で、インドネシア中銀は今年から来年にかけインフレ率が物価目標の範囲に収まることに自信を見せています。インフレ率低下は利下げ決定を後押ししたとみられます。

インドネシアの国内景気も利下げを支持する要因とみられます。GDP(国内総生産)成長率は4-6月期が前年同期比で5.05%増でした(図表3参照)。インドネシア中銀は24年の経済成長率予想を4.7%~5.5%としており、現状評価として「成長率の上振れ余地がある」とみています。利下げによる景気回復には時間的なラグも伴うことから、引き締めの長期化に対する懸念があったのかもしれません。

インドネシアの金融政策の今後を占うと、緩やかな利下げペースが想定されます。影響力の大きい米国の利下げも「急がない」、とFRBのパウエル議長も指摘しています。また、インドネシアの国内事情も利下げを可能とする状況ではあっても、無理に利下げを迫る状況ではないと思われるからです。必要以上に利下げを加速させ、通貨安となることがないことに、インドネシア中銀は最大限の注意を払うものと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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