- Article Title
- ブラジルレアルの変動要因と今後の展望
ブラジルレアルの過去1年の変動要因を振り返ると、主に米国とブラジルの金利差、財政政策の影響が大きいとみられます。金利差は主要な変動要因ですが、ルラ政権の財政政策が市場に与えた影響も決して小さくありません。ルラ政権の財政規律が市場で評価されたこともありますが、財政拡大姿勢も見え隠れします。高金利はレアル高要因ながら、財政政策には今後も注意が必要です。
24年後半のブラジルレアルは方向感が定まりにくい展開
ブラジルの通貨レアル(対ドル)は夏から方向感が定まりにくい展開となっています(図表1参照)。図表1で局面①と示した8月月初はレアル高が進行しました。月初に発表された米雇用統計が悪化したことで米国の金利低下期待が高まったため、それがレアル高要因となりました。
局面②ではブラジル中央銀行が利上げを実施したことがレアル高要因となりました。しかし、①、②の局面ともレアル高は長続きしませんでした。
10月は米国の利下げペース鈍化観測を背景に、レアル安傾向に転じましたが、24日の為替市場ではブラジルのアダジ財務相が安定的な財政運営をするとの発言からレアル高となりました。
レアルの主要な変動要因は米国との金利差だが政治要因の影響も大きい
局面①、②と10月のレアル安傾向は主にブラジルと米国の金利差の変化をレアルの変動要因として説明しました。米国の利下げや反対にブラジルの利上げは金利差縮小によるレアル高要因です。一方で、米国の利下げペースの鈍化観測はレアル安要因でした。また、24年前半はブラジル中銀が断続的に利下げを行っていたことが、レアル安の主な要因となりました。
レアルの動向を占ううえで、金利や米国との金利差は主要な変動要因ですが、財政政策など政治もレアルに影響を与えています。
まず、ブラジルの財政状況を(総)債務残高対GDP(国内総生産)比率で確認すると(図表2参照)、現在のルラ政権が発足した23年1月頃を起点に同比率は上昇しています。ボルソナロ前政権(19年1月~22年12月)では、コロナ禍の局面を除けば、債務残高対GDP比率は抑制されていました。新型コロナを風邪のようなものと表現するなど「話題」に富んだ政権でしたが、財政については堅実な運営が行われていた面もあったようです。
ブラジルは17年以降、連邦政府の歳出の伸び率を前年のインフレ率以下に抑制することなどを基本とする財政規律策を導入しました。しかし、コロナ禍で財政規律は大幅に緩和されました。
ルラ政権のアダジ財務相は新政権発足後の23年3月に、①歳出の伸びを、過去1年の歳入増加率の一定限度内に制限する、②年度ごとの基礎的財政収支(プライマリーバランス)の目標値の設定などを財政規律を再び明確化しました。
市場のルラ政権の財政政策に対する評価は揺れ動いています。左派政権ながら財政規律を明確化したこと、財政規律を守る姿勢を示したことなどが評価され、それがレアル高の要因となったこともあります。7月月初には来年の予算で歳出規模を259億レアル(対GDP比で約0.2%)削減する方針を示し、市場はレアル高で反応しました。
一方で、基礎的財政収支の目標(24年は対GDP比でマイナス0.1%、25年は均衡など)達成に向けた財政支出削減は不十分とみられ、ルラ政権の財政運営に不安感も残ります。
ブラジルの統一地方選挙で財政悪化懸念の兆しが見られた
ブラジルの財政悪化懸念の新たな材料は、市長や市議会議員を選出する統一地方選挙にみられます。第1回投票は10月6日に行われ、決選投票(どの候補者も過半数を獲得できなかった52都市)が実施予定ですが、第1回投票では、ボルソナロ前大統領が所属する自由党や中道政党が票を伸ばした一方で、ルラ大統領の労働者党は苦戦しています。サンパウロ市長選挙などで決選投票が行われるため最終的な結果は今後を待つ必要はありますが、ルラ政権に厳しい結果となりそうです。
統一地方選挙の結果はルラ政権は財政規律を守るというよりは、バラマキ政策の方向に向かう恐れがあります。選挙の結果を受けルラ政権はさっそく所得税の免税措置を発表しました。この発表を受けレアル安が進行しました。10月のレアル安は米国の利下げ見通しの後退以外に、財政規律をめぐる不透明感も要因として挙げられます。
24日の市場でレアル高に転じたのは、財政規律の維持に前向きなアダジ財務相の発言を好感したとことを当レポートの最初に紹介しましたが、レアル高は小幅で、市場のブラジル財政の悪化懸念を解消するには程遠いと思われます。
24日に発表された10月のブラジルの消費者物価指数(IPCA-15)は前年同月比4.47%上昇と前月の4.12%上昇を上回ったうえ、ブラジル中銀の物価目標(3%±1.5%)の上限ともなるたため、当面利上げ姿勢を維持しそうです。金利差は、米国次第ながら、レアル高要因として働きそうです。したがってレアルの動向を占ううえでは政治、とりわけ財政政策への注目度が今後も高まりそうです。
レアルは高金利を背景に基本的には底堅さを回復するとみています。しかし、財政政策が思わぬ押し下げ要因となる点には注意が必要です。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。