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- ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす
ECBは12月12日の政策理事会で、市場予想通り0.25%の利下げを決定しました。ユーロ圏の景気回復が鈍いことから大幅な利下げも検討されましたが見送られました。ハト派的な声明文や、ECBスタッフの経済見通しから、利下げが継続される公算は高いものの、ユーロ安への懸念、ユーロ圏成長率が国により異なること、サービス価格などインフレに高止まり懸念もあり、大幅利下げには慎重なようです。
ECBは市場予想通り0.25%の利下げを全会一致で決定した
欧州中央銀行(ECB)は12月12日の政策理事会で、市場予想通り0.25%の利下げを決定し(図表1参照)、事実上政策金利としている中銀預金金利を3.25%から3.00%へ引き下げました。利下げは3会合連続となります。ユーロ圏の景気回復が鈍く、物価だけでなく景気の安定にも配慮したことが利下げの要因で、全会一致での決定ながら大幅利下げの検討を求める意見もあったようです。
声明文では政策金利を「十分に制約的な」水準にとどめるという従来からの表現を削除したことからハト派(金融緩和を選好)と見られましたが、その後の記者会見でインフレ懸念にも配慮が示されドイツ(独)国債利回りは会見後に上昇しました。
ECBスタッフの経済見通しではユーロ圏の成長見通しが下方修正された
12月の理事会ではECBスタッフによる、四半期毎の経済見通しが発表されました(図表2参照)。特にGDP(国内総生産)成長率は24年から26年まですべて前回(9月見通し)から下方修正されており、ユーロ圏景気への配慮が利下げの背景であったことがうかがえます。
インフレ見通しでは消費者物価指数(CPI、HICP)指標は24年、25年が下方修正された一方で、エネルギーなど価格変動の大きい項目を除いたコアHICPは26年のみ下方修正されました。下方修正の主な要因は石油価格や電力価格など主にエネルギー価格下落でした。経済見通しを作成する際の原油価格の前提条件を見ると、25年は7%超引き下げられており影響がうかがえます。
反対に予測の前提には価格の押し上げ要因も見られ、主なものとしてユーロ安や金利低下などが挙げられています。
今回のECB理事会の声明文で注目された政策金利を「十分に制約的な」水準にとどめるという表現の削除は、極端なハト派姿勢を示したというよりも、経済成長見通しの悪化や、これまでに政策金利を合計1%引き下げたことを反映させて表現を調整したという面がありそうです。この点についてラガルド総裁は記者会見で同様の説明をしたうえで、新たな表現は同じ声明文の「インフレ率が中期目標の2%に持続的に安定することを確実にする」が今後の政策運営方針であると指摘しています。
一方、ラガルド総裁はインフレリスクについて、数か月前の「上方リスク」から足元では「両方向」と表現を変更しています。物価の実態は基本低下傾向ながら、時々反転(上昇)するリスクもあるというニュアンスに近いと筆者は見ています。
ラガルド総裁は今後の金融政策運営について、「データ次第」、「会合ごとに決定」という決まり文句を繰り返しました。これまでの議論を踏まえると、今後の金融政策運営は、インフレ再加速にはデータを確認して注意を怠らないとしても、基本的には、中立金利(景気を刺激も冷やしもしない金利の水準を指す概念)を目安に徐々に金利を引き下げる方針であると筆者は想定しています。
ECBはユーロ安などを懸念して、ハト派的ながら大幅利下げには慎重
ECBが利下げを続ける点については、市場も当然ながら見込んでおり、一部では0.5%という大幅な利下げ幅も見込まれています。ECBでも検討はされたようですが、結局0.25%に落ち着きました。この背景として考えられる要因は次の通りです。
まず、テクニカルな理由として大幅利下げは中立金利(上限)に急速に近づいてしまうことです。ユーロ圏の中立金利は過去のペーパーなどから1.75%~2.5%程度とみなされます。ただし、ラガルド総裁も今回の記者会見で指摘したようにECBが中立金利に対する考え方を明確にするのはこれからです。市場は(筆者も)中立金利の下限(2%)近辺を「中立金利」とみなし、現利下げサイクルの最終レートとしているようですが、中立金利の説明が不十分なうちに政策金利が中立金利の上限に近づくのは、好ましくないように思われます。
次に、大幅な利下げが懸念されるより重要な理由として過度なユーロ安進行が挙げられます。ECBスタッフの予想で、25年のユーロの想定レートは現状よりユーロ高水準です。さらなるユーロ安はインフレ再加速という望ましくない状況を生み出す恐れがあることをECBは懸念しているようです。
ユーロ圏の景況感が強弱まちまちなことも大幅利下げを難しくさせた可能性があります。ユーロ圏と主な国のGDP成長率を見ると、ユーロ圏は7-9月期が前年同期比0.9%増と軟調で、大幅利下げが検討される理由となりそうです(図表3参照)。しかし、ユーロ圏の成長率が低いのは政治が混乱しているドイツとフランスの成長率が低いことが主因です。反対にスペインは3.4%増、ギリシャが2.4%増など堅調な成長を維持している国もあります。加重平均でGDP成長率を算出することと、その数字で政策運営してよいかは別問題と思われます。
最後にインフレ率です。ユーロ圏のインフレ率は11月が前年同月比2.3%と物価目標を上回っているうえ、サービスは下がりにくく、3.9%と高止まりしています。ECBは今後も物価の様子を見ながらの利下げでの対応となりそうです。
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