Article Title
12月の米CPIはインフレ鈍化傾向の継続を示唆
梅澤 利文
2025/01/16

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米労働省が発表した24年12月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.9%上昇し、市場予想と一致した一方で、コアCPIは市場予想を下回った。最近の米国経済指標が堅調なことなどから、市場予想を上振れることも懸念されたが、結果はコアCPIは市場予想を下回り、インフレ再加速懸念は後退し、物価鈍化傾向が確認された。サービス価格の伸び鈍化もあって、CPI発表後に米国債利回りは低下した。




Article Body Text

12月の米CPIは懸念されていた上振れはなく、コアCPIは予想を下回った

米労働省が1月15日に発表した24年12月の消費者物価指数(総合CPI)は前年同月比で2.9%上昇と、市場予想の2.9%上昇と一致し、前月の2.7%上昇を上回った(図表1参照)。短期的な動向を示す前月比も0.4%上昇と、市場予想と一致し、前月の0.3%上昇を上回った。

エネルギーと食品を除いたコアCPIは前年同月比で3.2%上昇し、市場予想の3.3%上昇を下回った。前月は3.3%上昇だった。前月比も0.2%上昇と、市場予想、前月(共に0.3%上昇)を下回った。12月の米CPIではコアCPIが前月比、前年同月比、共に市場予想を下回り、米国債市場ではCPI公表直後に利回りが低下した。

12月の米CPIはエネルギーが押し上げ要因に転じたが、他は概ね鈍化

米国債市場で当初、利回りが低下した主な背景はコアCPIが市場予想を下回ったためだろう。12月の総合CPIの市場予想(前月比0.4%上昇)からは、エネルギー価格上昇などを背景に11月を上回ることが見込まれていたようだ。そのうえ、米雇用統計など最近の堅調な経済指標を受け、CPIの上振れが懸念されたが、フタを開けてみるとコアCPIは市場予想を下回り、市場のインフレ再加速懸念は幾分後退したようだ。

もう少し具体的に見てみよう。総合CPIの前月比の伸びをエネルギー、食品、財、及びサービスの4項目に分類し、項目別に寄与度を示した(図表2参照)。11月に寄与度では物価にほとんど影響を与えなかったエネルギーの寄与が高まった。寒波などの影響で天然ガス価格高騰が響いた格好だ(図表3参照)。一方、エネルギーの変動要因となることが多いガソリン価格は小幅な変動だった。

食品は前月比0.3%上昇と前月の0.4%上昇を小幅ながら下回り、寄与度もやや低下した。

一方、コアCPIを構成する財とサービスはインフレを再加速させる要因とならなかった。特に、自動車など生産された物の価格をカバーする財は前月比で0.1%上昇と、11月の0.3%上昇を下回った。品目では前月押し上げ要因となった新車が12月は0.5%上昇と前月の0.6%上昇を下回った。中古車は1.2%上昇と依然高水準ながら、前月の2.0%上昇を下回った。財の他の項目を見ても衣料品は0.1%上昇、家具0.9%下落、玩具1.0%下落など伸び悩みや下落した品目も見られた。年末商戦で値引きがあったのだろうか。

サービスのインフレ圧力はやや和らいだ印象

12月の米CPIでサービスは財とともに、インフレ鈍化を示唆する内容だった。サービスの構成項目を住居費とそれ以外(非住宅サービス、スーパーコア)に二分して内容を振り返ろう。

住居費は12月が前月比0.3%上昇と、前月に一致した(図表4参照)。ただし、小数点以下第3位まで見ると、11月は0.336%であったのに対し12月0.258%であったことから横ばいよりは鈍化に近い。住居費は、これまで鈍化のペースが緩やかで、時には再加速の動きを見せた。そのため、米国のインフレ率がなかなか鈍化しない理由の1つに挙げられるが、今回の住居費の動きは落ち着きの兆しに見えなくもない。もっとも、住居費の大半を占める賃料と帰属家賃(持ち家に対して家賃を支払うとして算出)は共に前月比で0.3%上昇と前月の0.2%上昇を上回った。12月の住居費の鈍化は、他の項目である宿泊費の大幅下落が伸びを抑えた面が強い。住居費が明確に落ち着いたと判断するには、もう少し時間が必要だろう。

住居費以外のサービスの価格は0.2%上昇と比較的低水準で、前月を下回った。ただし、自動車保険は12月が0.4%上昇と前月の0.1%上昇を上回り、航空運賃は3.9%上昇と、前月の0.4%上昇を大幅に上回った。航空運賃のような例外的な品目がある一方で、病院などの医療サービス、教育サービスなどは比較的低い伸びにとどまるなどサービスのインフレ圧力はやや和らいだ印象だ。

12月の米CPIを受け、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁など3名の連銀総裁がコメントをしたがいずれもインフレは鈍化傾向との見方を示した。ただしインフレ率は物価目標を超えていることも指摘している。 12月のCPIを受けても、1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が据え置かれるとの見方に変更は不要だろう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


中国、24年の経済成長でノルマは達成したが課題も

インドネシア中銀、驚きの利下げの背景

12月の米雇用統計は労働市場の堅調さを示唆

賃金動向:毎月勤労統計と支店長会議の注目点

12月の米雇用統計プレビュー:ADPと求人件数

12月のユーロ圏インフレ指標とECBの今後の方針