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- インドネシア中銀、驚きの利下げの背景
インドネシア中央銀行は1月15日に、市場予想に反し、政策金利を0.25%引き下げ5.75%にすると発表した。インフレの落ち着きや景気下支えが理由とされるが、ルピア安が続く中での利下げは疑問視されている。中銀の声明からは、米国の政策など外部要因の不確実性にある程度方向性が見えたことも利下げの要因としているが、不確実性が解消されたのか疑問も残り、今後の金融政策に影響を及ぼしそうだ。
インドネシア中銀、市場予想の据え置きに対しサプライズとなる利下げ
インドネシア中央銀行は1月15日、市場予想の据え置きに反し、政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.25%引き下げ、5.75%にすると発表した(図表1参照)。
インドネシア中銀は24年4月まで利上げ姿勢であった。その後、政策金利を6.25%に維持したが、24年9月に利下げに転じた。理由としてインフレの落ち着き、景気下支え、ルピア高を挙げた。しかし、利下げ後はルピア安に転じたことなどから、過去3回(24年10月、11月、12月)の会合では据え置きを維持した。足元でもルピア安傾向が続いていることなどから、市場は今回も据え置きが当然と見込んでいただけに、利下げはサプライズだった。
インドネシア中銀はルピア安にもかかわらず利下げを決定
市場予想では何割程度が見込んでいるかも重要だ。今回の据え置きは、予想の分布をみるとほぼ全員が据え置きを見込んでいたと思われる。それはもっともで、発表された経済指標などから利下げの理由を見つけにくい。インドネシア中銀の前回の会合は昨年12月18日で、それから1月会合までの間に公表された主な経済指標として消費者物価指数(CPI)を見ると12月は前年同月比で1.57%上昇と、11月の1.55%上昇と変わらず、コアCPIは12月が2.26%上昇と、前月から横ばいだ。
なお、インドネシア中銀が設定する今年の物価目標は2.5%±1%で、総合CPI、コアCPI共に物価目標の範囲に収まっている。むしろ気になるのは総合CPIは12月に前月比で0.44%上昇と、短期的な変動ながら、年率なら相応に低くはない。
景気動向では1月2日に12月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が発表されたが、51.2と前月の49.6から改善している。これは利下げ要因とは考えにくい。
今回の利下げが不思議な最大の要因は図表1から明らかなように、ルピア安傾向だ。据え置きを決定した前回(12月)会合の声明文の主要な部分を確認すると、「金融政策の焦点は、米国の政策方針や各地域での地政学的緊張の高まりによって引き起こされる世界経済の不確実性の増大に対応して、ルピアの安定性を強化すること」とあり、ルピア安定の重要性を明確にしていた。そのルピアが安定してないことを最も身近に感じているのはインドネシア中銀自身ではないだろうか。年末から足元まで、インドネシア中銀は為替介入で必死にルピア安を抑制しているのだから。
利下げを決定した理由に一応の説得力はあるが、疑問も相当残る
では、インドネシア中銀が今回利下げを決定した理由は何か?声明文やペリー総裁の会見などから以下の点が考えられる。
①景気下支え:
インドネシア中銀は25年の経済成長率見通しを従来の4.8%~5.6%から、4.7%~5.5%へと引き下げた。貿易相手国の景気鈍化による輸出の不振、国内需要は中低所得層の所得や雇用に不安があることから回復が鈍い可能性を指摘している。また、投資も弱いと見込んでいる。ペリー総裁の会見からインドネシアの経済成長率の巡航速度は5%前後で、昨年10-12月期の成長率などにはこれを下回る動きが見えており、利下げを始めるタイミングと判断したようだ。
②インフレ率の低下:
インドネシアの総合CPIは12月に1.57%上昇と、物価目標の下限(1.5%)に接近している。ペリー総裁は会見で、インフレ率が物価目標の下限に接近していることも利下げを支持すると指摘している。
③不確実性に方向性:
インドネシア中銀は12月会合の声明文で、「金融政策の焦点は、米国の政策方針や各地域での地政学的緊張」と指摘し、不確実性によるルピア安懸念が、政策金利を据え置いた背景であると説明した。インドネシア中銀は1月にはこの見方を修正し、不確実性に方向性が見えたと表現している。不確実性の1つである米国の政策については、トランプ次期大統領は就任前ではあるが、方向性はおぼろげながら見え始めたと考えているようだ。米国の財政赤字拡大の規模などについて、依然不確実性はあるも目処はたっており、ルピア安への影響はある程度管理可能と考えているようだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策も不確実要因だった。昨年秋から25年の利下げ想定回数の後退に伴い米国金利が上昇し、ルピア安となる傾向がみられた。インドネシア中銀はFRBの年内の利下げ回数は1回と想定しており、不確実性はある程度織り込めたと考えているようだ。
インドネシア中銀は不確実性がなくなったわけではないと強調するが、目処がたったことで、利下げに踏み切ったようだ。
幸いなことに、インドネシア中銀が1月15日に利下げを発表した約6時間後に、米国で12月のCPIが発表され、インフレ鈍化がみられたことから米国金利は低下し、ルピア安圧力はこの点では弱まった。しかし、今回の利下げ理由である①~③には筆者のみならず市場でも疑問は残っているようだ。インドネシア中銀の声明文から、(昨年秋の据え置き路線から脱却して)利下げ路線に回帰したことはうかがえる。しかし、ルピア安を取り巻く不確実性が消えたとは思えず、利下げを続けるとするならば、ルピアの動向や米国など外部要因次第ではないかと筆者は見ている。
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