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- トランプ大統領就任式と主な市場の反応
2024年11月の米大統領選選挙で勝利したドナルド・トランプ氏が米国第47代大統領に就任した。1月20日の就任演説では「米国第一」を掲げた。就任演説に対する為替や株式市場などの反応を見ると、比較的落ち着いていた。しかし、トランプ大統領がメキシコとカナダへの関税を課する計画を発言したことで一部の市場に変動が見られた。トランプ大統領の不規則発言に左右される日々が始まったようだ。
トランプ氏が米国第47代大統領に就任、米国第1を掲げる
米国の第47代大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が1月20日(日本時間21日午前2時)に就任した。就任演説は約30分間で、8年前の18分より12分長かった。その中で、トランプ氏は米国民の利益を最優先する「米国第一」を掲げ、「黄金の時代がいま始まる」と訴えた。米国民の利益を最優先の政権運営に再びかじを切る姿勢を鮮明にした。
なお、市場の関心が高かった関税についての演説の中で具体策に言及することは控えられた(図表1参照)。不法移民対策やエネルギー政策などについての発言は、概ね想定通りの内容であった。
トランプ大統領の不規則発言にカナダとメキシコの名が挙がった
トランプ大統領の就任演説を受けた市場の初動反応を振り返る。株式、債券、為替市場の変動は日本時間21日午前に限れば、全体的には比較的落ち着いていた。就任演説からは、関税発動が見送られたことや、「全世界一律の関税」導入には言及しなかったことなどを受け、就任演説後に為替市場などに安堵感も見られた(図表2参照)。
しかし、就任演説後、一連の大統領令署名のため、ホワイトハウスの大統領執務室に戻った後、トランプ大統領はメキシコとカナダからの輸入品に最大25%の関税を2月1日までに賦課する計画と発言した。これに驚いた市場ではカナダドル、メキシコペソの安堵感による上昇が打ち消された。
なお、一律関税についてはトランプ大統領がホワイトハウスの大統領執務室で、検討する可能性はあると述べる一方で、「まだその準備ができていない」と語ったことなどが報道されたことは多少なりとも安堵感を生んだようだ。しかし、その後のカナダなどへの関税の計画の発言で市場の雰囲気は変わった。市場は初日からトランプ流に翻弄された。
もっとも、関税について日本の名前が出てこなかったこともあり、通貨市場で円は21日午前に1ドル=154円台まで円高が進行する局面も一時的ながら見られた。トランプ就任演説は総じてみれば想定の範囲内で、日銀の1月の金融政策決定会合における追加利上げを妨げる要因とは考えにくいことも円高を後押ししたのかもしれない。
次に、市場がオープンしていた日本株を中心に株式市場の動きをみると、為替市場同様、トランプ発言に一喜一憂する動きだった。関税発動の見送り観測などで日本株式は大幅に上昇した局面もあったが、カナダやメキシコへの関税計画発言で急落と乱高下する展開だった。円高進行も株式市場に悪影響を及ぼした可能性もあり、日中の変動は大きくなった(図表3参照)。
なお、米国株式市場は就任演説のあった20日は祝日のため休場であった。米国株式の動きとして参考にミニS&P500種株価指数先物の動きをみると、日本株同様、カナダやメキシコへの関税(計画)発言で下落したが、その後戻る展開だった。
中国への関税方針は就任演説から判断できず、今後の動向に注視が必要
米国債を東京時間の取引で見ると、米10年国債利回りは4.5%台と、先週末の4.6%台から低下した。米国債利回りは今月発表された24年12月の米消費者物価指数(CPI)でインフレの鈍化傾向が確認され利回りがそもそも低下しやすい地合いであった。これに加え、トランプ大統領の就任演説でインフレ要因とされた関税引き上げに慎重姿勢であったこと、石油を「掘って、掘って、掘りまくる」と強調したことから原油価格が低下したことなども利回り押し下げ要因と思われる。
関税でカナダとメキシコの名前は出たが、本命ともいえる中国はどうなるのだろう。人民元は対ドルで足元上昇傾向だ。おそらく人民元高の背景の1つは、従来の駐米大使ではなく、韓正・国家副主席を出席させたこと(習近平国家主席の参加は見送られたが)、就任式直前にはトランプ大統領と習近平国家主席が電話会談するなど友好ムードを演出したことがあげられる。また、トランプ政権で財務長官に指名された投資家のスコット・ベッセント氏の16日の米連邦議会上院での指名公聴会での発言内容も好感された可能性がある。ベッセント氏は中国が第1次トランプ政権下の20年に第1段階で合意したにもかかわらず履行しなかった農産物の購入を直ちに要求すると訴えた。購入の有無は中国に関税を課す条件となると思われるが、その場合中国への関税税率はいきなり60%という乱暴なものではなく、関税は順を追って段階的に行われる可能性もありそうだ。
もっとも、ベッセント氏は同じ公聴会で中国に対し、「経済の停滞を安価な製品の輸出に頼って乗り切ろうとしている。関税の引き上げは不公正な貿易慣行の是正のためだ」と警戒心もにじませた。
これまで見てきたように、トランプ政権の政策は不透明要因が多い。トランプ政権の言動に振り回される日々が始まったことは確かなようだ。
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