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- 米求人件数とADP雇用報告が示唆するポイント
米労働省が発表した24年12月の求人件数は市場予想を下回り、部門別では「ビジネス・専門サービス」や「医療・社会福祉サービス」などが前月を下回った。ただし、解雇件数や離職率はほぼ変わらずだった。ADPの1月の全米雇用報告では民間雇用者数が中小企業を含め改善した。中小企業の景況感は米大統領選挙後、政策への期待から大幅に改善したが、今後も期待を維持できるかに要注目だ。
12月の米求人件数は市場予想を下回るもコロナ禍前の水準を十分確保
米労働省が2月4日に発表した24年12月の求人件数は760.0万件と、市場予想の800.0万件、前月の815.6万件(速報値809.8万件から上方修正)を下回った(図表1参照)。部門別では、「ビジネス・専門サービス」の求人件数が11月に比べ22.5万件、「医療・社会福祉サービス」が18.0万件減、そして「金融・保険業」は13.6万件減と、前月を下回った。もっとも、これらの部門の求人件数は前々月(10月)に拡大していた。12月は一時的な落ち込みなのか、今後の見極めが必要だ。
解雇件数は177.1万件と、前月の180.0万件から小幅な減少にとどまった。転職など労働市場の活況度を示唆する離職率は2.0%と、前月から横ばいでこれらの指標に大きな変化はなかった。
中小企業の楽観度合い改善が非農業部門の雇用者数を押し上げか?
今週の米経済指標で最大の注目は金曜日の米雇用統計だろう。その準備として、他の雇用関連指標を振り返ると、米労働市場の底堅さという前向きな面がある一方で、多少気になる面もある。
12月の求人件数は760万件と市場予想を下回った。しかし、6か月平均と遜色ない水準であることや、コロナ禍前の水準を上回っている。求人件数は減少したものの、過去の過熱局面から正常局面に戻る過程での変動の範疇かもしれない。前月を下回ったとはいえ底堅い水準と見られそうだ。
求人件数を部門別にみると、「ビジネス・専門サービス」や「医療・社会福祉」が前月に比べ減少したことはすでに指摘したとおりだ。「ビジネス・専門サービス」に加え「娯楽・宿泊」の求人件数を1年前と比較するとほぼ同水準だ。
反対に「医療・社会福祉」に加え、「製造業」や「卸売」、「小売」、「情報産業」など比較的幅広い部門で求人件数が1年前に比べ減少している。これらのセクターの減少傾向が止まり、安定化するのかは気になるところだ。
12月の求人件数が比較的大幅に市場予想を下回ったことを気にする報道等もあるが、転職の活況度合いを示す離職率や、解雇件数にほぼ変化がないことなどを考え合わせると、求人件数に関連した統計は概ね底堅いように思われる。
次に、米民間雇用サービス会社ADPが5日に発表した1月の全米雇用報告を振り返る(図表2参照)。米民間雇用者数は18.3万人増と、市場予想の15万人増、昨年12月の17.6万人増(速報値の12.2万人増から上方修正)を上回った。トランプ大統領が就任した時期であるなど、不確実性が高まる中でも雇用は底堅い伸びを示した。事業規模別では中小企業が全体の採用のおよそ7割を占めるなど雇用の押し上げ要因だった。
米国の中小企業の景況感は大幅に改善している。全米自営業者連盟(NFIB)が1月14日に発表した24年12月の「中小企業楽観指数」は105.1と前月の101.7を大幅に上回るとともに、トランプ大統領の1期目(トランプ1.0)の高揚感で記録した水準に近付いた(図表3参照)。反対に中小企業の先行き懸念を示す「見通し不透明度指数」は86と、1986年の集計開始以来最も先行き懸念が高まった24年10月の110から急落した。NFIBの「中小企業楽観指数」などの指数は中小企業経営者に対するアンケートの回答に基づいて算出される。選挙など政治以外にも経済、天候要因などが指数の変動要因だが、昨年10月からの劇的なマインドの改善は、トランプ大統領の返り咲きが主な要因だろう。中小企業のマインドの急回復が雇用を押し上げた可能性も考えられそうだ。
1月のISM非製造業景況指数は依然50を上回るが、減速は気がかり
NFIBの「中小企業楽観指数」は昨年12月の指数で、調査期間は主に12月前半だ。カナダやメキシコへの関税発動は結局延期されたが、トランプ大統領の不規則発言で(トランプ1.0を上回る)関税への懸念が高まったのは最近ではないだろうか。5日に発表された1月の米供給管理協会(ISM)非製造業景況指数は1月が調査期間だが、52.8と前月から悪化した(図表4参照)。ISMは調査対象者の回答の一部を公表しているので参照すると、年末商戦が期待外れだったことなどがネガティブな回答の背景というものもある一方で、関税を不安視する回答も複数見られた。これまでADPや求人件数統計で、サービス部門が米労働市場の下支えだったことを見てきた。サービスを含むISM非製造業指数の今後の動向には注視が必要だろう。
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