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- インド中銀の利下げと、今後のインドの課題
インド準備銀行は2月7日に政策金利を6.50%から6.25%に引き下げた。これは2020年以来、ほぼ5年ぶりの利下げであった。インフレ鈍化と景気回復の遅れが利下げの背景にある。ただし、インド中銀は政策スタンスを「中立」に維持し、今後の方針はデータ次第とするなど政策の幅を確保した。利下げはルピー安という副作用を伴う恐れもあり、財政政策とタッグを組んだ政策運営が課題となりそうだ。
インド準備銀行、インフレが落ち着くとの見通しを背景に5年ぶりの利下げ
インド準備銀行(中央銀行)は2月7日の金融政策委員会(MPC)で、市場予想通り政策金利のレポ金利を6.50%から0.25%引き下げて6.25%にすることを決定した(図表1参照)。利下げは2020年5月以来約5年ぶりとなる。為替市場ではインド中銀の利下げを徐々に見込み始めた昨年後半からルピー安が進行しやすい展開だった。
なお、インド中銀は金融政策の方針を示唆する政策スタンスは「中立」に維持することを決めた。インド中銀は24年10月9日のMPCで政策スタンスを「緩和の縮小」から「中立」に変更することを全会一致で決定したため、将来の利下げの布石を打ったのではないかとの見方もあった。今回のMPCでは中立を維持し、政策に選択肢を残した。
インド当局にとり懸案だったインフレ、とりわけ食品価格に落ち着きも
インド中銀の利下げは経済指標から必要性が見受けられる。インフレは鈍化傾向で、景気回復も鈍いからだ。インド中銀は今回のMPCで利下げを決定したが、次回の方針はデータ次第、会合毎に決定する、ということにとどめた。ルピー安への不安が残る中で、明確な緩和姿勢を表明することは避けた。しかし、インドの経済状況から判断して、基本利下げ姿勢が続くように思われる。
インフレは鈍化傾向だ(図表2参照)。2月12日に発表された1月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で4.31%上昇と、前月の5.22%上昇を大幅に下回った。インド中銀の利下げ決定から5日ほど遅れてCPIが発表されており、今回の利下げに直接影響したわけではない。しかしインド中銀は25年1-3月期のインフレ見通しを前年同期比で4.4%上昇と前回の4.5%から引き下げている。変動は大きいが、インド中銀の見通し通りにインフレ鈍化が進んでいるようだ。
CPIの内容を見ても、「食品・飲料」が1月は前年同月比で5.68%上昇と、昨年10月の9.69%上昇と大幅に鈍化した。インドのCPIにおいて「食品・飲料」が占める割合は約45.9%と高いこと、国民生活への影響も大きいと見られることから、金融政策に一定の利下げ余地を生む可能性もあろう。
政治的にも安心材料だ。昨年4~6月行われたインドの総選挙で、楽勝ムードであった与党インド人民党(BJP)は大幅に議席数を減らした。背景は様々だが、インフレも原因の1つとみられていただけに与党にとっては一安心だろう。
次に、インドの景気は足元で勢いが落ちており、利下げは景気下支えの点で待ち望まれていた。インドの中長期的な経済成長に対する期待は残るが、24年7-9月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比5.4%増と、4-6月期の6.7%増、1-3月期の7.8%増を下回った。インフレ懸念から実質金利を大幅なプラスとする高金利政策が景気押し下げ要因の1つであろう。
インド中銀は今回の声明文などで25年度(25年4月~26年3月)の成長率見通しを6.7%とした。これまでの7.1%から下方修正したが、24年度の成長見通しである6.4%を上回ると見込んでいる。この成長見通しの背景は、インフレ再加速やルピー安懸念に配慮しながら、利下げを模索することではないだろうか。
おそらく、インドルピー安定化のカギは中長期の投資資金の回復
インド当局は昨年から利下げの下準備をしてきたと市場も筆者も見ている。昨年12月にはインフレ抑制を重視する傾向があったダス前総裁の後任に財務次官(当時)のマルホトラ氏を新総裁に指名した。ダス前総裁に続いて官僚を登用し、政権と足並みをそろえた金融政策の運営を期待しているようだ。
しかし、金融緩和偏重ではインフレ再加速や、ルピー安の恐れがある。図表1でルピーの動向を確認すると、ここ数日急激にルピー高となっているが、これは報道にもある通り為替介入の結果だ。為替介入は一時的にルピー安を抑える効果があったとしても、長続きするのか疑問も残る。
昨年後半からのルピー安には利下げ観測に加え、インドの成長に対する見直しも含まれているようだ。インドの潜在的な成長率の高さは残されていると見るが、経済規模が大きくなるにつれ、選別の目が厳しくなるのは世の常であろう。
インドは成長を確保するために、財政政策には重要な役割がある。この観点で、2月1日に発表された25年度の連邦政府予算案のポイントを簡単に振り返ろう。
25年度連邦政府予算案では財政赤字対GDP比幅を4.4%と、24年度の4.8%から赤字を縮小させ財政規律を確保する姿勢を見せた。ただし、財政健全化路線を維持するという制約の中で、歳出面では昨年の与党が伸び悩んだ選挙結果を反映させた内容となっている。象徴的なのが所得税の免税対象の拡大だ。これまで年収70万ルピー(約125万円)以下が免税対象だったのを120万ルピーまで拡大させ免税対象を広げるとしている。消費拡大を通じた景気回復が期待される。
半面、投資などが含まれる来年度の資本支出は対GDP比で3.1%と、今年度と同程度に抑えられた。インドの中長期的な成長を支えると見られるインフラ投資などを含む公共投資は前年度に比べ0.9%の伸びにとどまり、やや割を食った印象だ。
与党は政策の優先順位として、減税で政権基盤の回復を選択したのだろう。次の段階として、インドの潜在成長力の高さを活かした政策運営に期待したい。
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