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1月の全国CPI、再加速の要因と日銀の金融政策
梅澤 利文
2025/02/25

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概要

1月の日本の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で上昇した。主な押し上げ要因は生鮮食品やエネルギー価格の大幅な上昇だった。消費者が目にする品目の上昇が大きいことから、生活実感から見たインフレ率は1月のCPIを大幅に上回っており生活者目線も無視はできないだろう。ただし、日銀は基調的物価の変動を重視して利上げ継続姿勢を示している。急激な追加利上げには警戒感もあるようだ。




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日本の1月のCPIは生鮮食品などが主な押し上げ要因だった

総務省が2月21日に発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除いたコアCPIが前年同月比で3.2%上昇し、前月の3.0%上昇を上回った(図表1参照)。生活実感に近い生鮮も含む総合CPIは4.0%上昇と、前月の3.6%上昇を上回った。寄与度を見ると、食料とエネルギーが主な押し上げ要因だった。食料はキャベツ(192.5%上昇、約3倍)などを含む生鮮食品が前年同月比で21.9%上昇した。エネルギーでは電気代が18.0%、都市ガス代が9.6%上昇と高水準で推移し、全体で10.8%上昇した。

生鮮食品及びエネルギーを除いたコアコアCPIは前年同月比で2.5%上昇と、市場予想と一致するも、前月の2.4%上昇を上回った。

消費者物価と、消費者が物価から受ける実感には大きな違いがある

日本の1月のCPIを受け、日銀が注視するコアCPIは34ヵ月連続で物価目標である2%以上となった。値上がり品目を見ても、キャベツ以外にも米(前年同月比71.8%)、みかん(37%)、チョコレート(30.8%)、コーヒー豆(23.7%)など大幅に上昇した。筆者もスーパーの買い物で物価上昇を痛感するが、1月の総合CPIの主な押し上げ要因を見ると生活実感を反映した面もある。日銀が消費者の物価に対する実感だけで金融政策を決めないだろうが、基調的インフレとの違いに注目したい。

1月の総合CPIが前年に比べ変動した主な要因は生鮮食品価格の大幅な上昇、コア食料(酒類及び生鮮食品除く食料)の上昇、ガソリン価格の高騰を抑える激変緩和措置の補助縮小によるエネルギー価格の押し上げと見られる。そのほか、宿泊代(6.8%)なども上昇した。

なお、電気代やガス料金も前年に比べ上昇しているが、これは24年8月から10月の使用分に対して実施された電気・ガス料金支援が昨年末に打ち切られた時点で上昇したもので、1月の電気代やガス料金を前月比で見るとほぼ横ばいだった。

物価の基調を見る1つの目安であるサービス価格は前年同月比1.4%上昇と、前月の1.8%上昇を下回った。もっとも伸びが縮小した理由はパック旅行費の算出方法が24年1月に変更となったことにより押し上げ効果がなくなるという特殊要因による。サービスに含まれる外食や家事サービスは1月分でも堅調に伸びており、緩やかな上昇が続いている状況に変わりはないだろう。日銀が重視する基調的な物価上昇は概ね、日銀の想定通りだろう。

ただし、生活者のインフレの実感はCPIの数字を大幅に上回るようだ。日銀による生活者へのアンケート調査(生活意識に関するアンケート調査、第100回調査、調査期間:24年11月7日~12月3日)では、「1年前に比べ現在の物価は何%程度変化したと思うか」に対する回答の平均値は今回調査(12月)が17.0%と、前回調査(9月)の14.5%を上回った。消費者の物価の実感はCPIを大幅に上回っている。

消費者の物価の実感とCPIに違いがあることは珍しくない。しかし現局面での違いはやや極端だ。この理由は様々考えられるが、食品など日ごろ目にする機会が多い商品の価格上昇が影響している可能性がある。総務省が発表する、購入の頻度別に区分して物価動向を示した「年間購入頻度階級別指数」によると(図表2参照)、コメや生鮮食品、電気代など1年前に比べ大幅に価格が上昇している品目は、購入頻度が高いグループに分けられている。目にする物価の多くが大幅に上昇している、が実感に近いのだろう。

日銀が注視するコアCPIは「除く生鮮食品」と理解されている。確かに天候不順による生鮮食品価格の上昇に対し、金融政策が直接コントロールできるものではないかもしれない。また、海外と異なり、エネルギー価格はコアコアCPIで「除く」となっている。しかし、消費者の物価の実感に大きな影響を与えているのであれば、「除く」の意味は「考慮しない」ではなかろう。

また、日本は原油や天然ガスは輸入に依存している。エネルギー価格は原油先物価格などを見ても変動が大きく、また日銀が直接コントロールできるわけでもない。また輸入に依存することから為替(円安)の影響も受ける。日銀が発表する企業物価指数の構成指数である輸入物価指数で円ベースと現地通貨建てベースを比べると、これまでの円安が輸入物価を押し上げたことは明らかだ。円安再加速による悪いインフレに対し日銀は抑制策を講ずるとみられ、市場では追加利上げ観測が強まっている。このような中、日本の10年国債利回りは21日には1.45%を上回る水準にまで上昇した。問題は、どこまで上昇するかだが、その中で最近の植田総裁のコメントに市場は注目したようだ。

日銀の追加利上げ姿勢は不変だが、急激な国債利回り上昇には警戒心も

1月のCPIが発表された21日に日銀の植田総裁は衆院予算委員会の答弁で、長期金利について聞かれた際、基本は景気を反映した動きと述べる一方で、通常の動きとやや異なる形で急激に上昇する例外的な状況では「機動的に国債買い入れの増額等を実施する」と指摘した。恐らく10年国債利回りの上昇を口先でけん制したのだろう。

日銀は過度な円安を抑制するために追加利上げ姿勢を維持すると見込むが、1月のCPIを見ると再加速の主な要因は一時的な品目も多い。一方でサービス価格など基調的物価は緩やかな上昇にとどまる。利上げ姿勢は不変としても、市場が極端な利上を想定することには警戒心もあるようだ。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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