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- ドイツ総選挙の結果の解釈と今後の展望
ドイツ総選挙の投開票が終了し、事前の世論調査通りCDU・CSUが第1党、AfDが第2党となった。一方、SPDは議席を大幅に減らした。連邦議会の定数は630議席で、過半数を獲得した政党がなかったことから、今後は連立政権に向けた交渉が注目される。ドイツは景気回復が鈍く、財政政策の拡大に期待が高まるが、ドイツは厳格な財政規律でも知られている。財政拡張に向けた新政権の手腕に注目だ。
独総選挙でCDU・CSUが第1党に返り咲き、SPDは大幅に議席を減らした
ドイツ(独)総選挙が2月23日に投開票された。保守系野党のキリスト教民主・社会同盟 (CDU・CSU)が得票率(28.6%)を獲得、議席数を208議席とし第1党となった(図表1参照)。第2党となった極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は152議席と躍進した。ショルツ首相の社会民主党(SPD)は120議席と大幅に議席数を減らし、3番手に後退した。昨年まで連立政権を組んでいた自由民主党(FDP)、1月に発足した左派新党の「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」は共に得票率が5%を下回り、議席を獲得できなかった。
なお、独連邦選挙法の改正により、今回から超過議席・調整議席が廃止され、連邦議会の定数はこれまでの736議席から630議席に削減された。
独総選挙の結果は概ね世論調査通りで、事前の懸念はかろうじて後退
独総選挙前、ドイツの代表的な株価指数(DAX)は18日にピークを付けた後、選挙前日まで下落した(図表2参照)。「もしかしたら」という懸念からポジション調整した可能性もあろう。しかし、選挙結果は概ね事前の世論調査通りで懸念は後退したようだ。今後の注目は新政権の組閣や(財政)政策へと移っている。
まず、総選挙前の懸念と選挙結果を振り返ろう。
事前の世論調査で、過去、長年にわたりドイツの政権を担当してきたCDU・CSUが返り咲くことや得票率は3割程度が見込まれていた。結果は概ね世論調査通りであった。CDUのメルツ党首は総選挙前に、極右と手を組んで厳格な移民対策法を成立させようと試みたが、賛成が過半数に届かないという失態を演じた。極右政党AfDの移民反対を後押ししただけの結果となったことはCDU・CSUの支持率の伸び悩みの背景とは思われるが、総選挙では大事に至らなかった。
このような背景から総選挙前にはAfDが躍進し、与党に参加することも懸念されたが杞憂に終わりそうだ。選挙結果を振り返ると、AfDは議席数を前回から大幅に伸ばしたが、第2党にとどまった。主要政党はAfDとの連立に消極的であるため、連立与党の一角に組み込まれることはなさそうだ。
今回の総選挙は総議席数が630であることから過半数は316議席だ。CDU・CSUは208議席を確保した。これにSPDの120議席を加えて「大連立」が成立すれば328議席で、なんとか過半数は確保できる計算だ。より議席数を増やすなら、選挙前与党の一角であった緑の党を加えることも考えられる。極右政党(AfD)抜きで連立与党が形成される可能性が高まる結果だった。
なお、AfDはイデオロギーの問題もあるが、市場ではドイツの厳格すぎとも思われる緊縮財政の原因となっていた「債務ブレーキ」見直しに明確に反対している。この議席数なら債務ブレーキの見直しが進むとの期待も株式市場を安堵させたようだ。
その他の政党ではFDPと、1月に発足した左派新党のBSWが議席を獲得できなかったことも安心材料だろう。FDPはSPD、緑の党とで昨年まで連立政権の一角となっていたが、FDPは財政規律を厳格に遵守する立場であり、連立政権崩壊のきっかけともなった。債務ブレーキ条項の改革に向け不安材料が減ったとみられる。左派新党のBSWは親ロシア政党で、ウクライナ支援の障害となる恐れもあったが、議席獲得には至らなかった。
組閣にはスピード感が求めらる。財政政策について過度な期待は禁物
次に、選挙後の注目点に移ろう。市場の関心は連立政権交渉と新政権の財政政策と見られる。
連立政権はCDU・CSU を軸にSPDと2党で、または緑の党を加えて3党で構成されるのがメインシナリオのようだ。問題はスピードだ。CDUのメルツ党首は2ヵ月以内の組閣を目指すとしている。なお、報道によると、過去、ドイツの組閣に要した期間は約2ヵ月だが、大連立(左派と右派、今回はそのケース)では約3ヵ月以上かかっている。メルツ党首の発言はドイツ経済が直面する問題の多さからスピード重視の必要性を示唆したものだろう。
ドイツ経済は主要な貿易相手である中国経済の不振、自動車産業の伸び悩み、エネルギーのロシア依存からの脱却のコスト増など深刻な景気の下押し要因に直面してきた。欧州中央銀行(ECB)の利下げは景気押し上げ要因だが、それだけでは回復に不十分だろう。財政政策との組み合わせが期待されるところだがドイツはこれまで厳格な緊縮財政政策を維持してきた。その象徴が債務ブレーキ(独憲法(基本法)で定めた財政赤字を一定の規模に抑える仕組み)だ。
CDU・CSUは選挙公約で減税を訴え、SPDはインフラなど公共投資拡大を訴えており財政政策の拡大が求められている。財源確保に向け債務ブレーキ見直しは必須と見られる。しかし注意点もある。憲法で定められた債務ブレーキ改革には3分の2(630議席のうち420議席)の賛成が必要だが、CDU・CSU、SPDに緑の党を加えた連立政権では議席数が足りない。AfDの協力は期待できないことから、左派党の協力が必要な点だ。
なお、債務ブレーキ改革は、債務ブレーキを廃止するのではなく、あくまで条項の修正を目指したものとなるだろう。これまで財政規律を重視して債務ブレーキを支持してきたCDU・CSUは世論の変化を受け修正には前向きだが、政府の投資など限られた分野での拡大にとどめる模様だ。拙速に財政拡大にかじを切ればCDU・CSUの身内から反発を受けかねない。財政政策は筆者も期待しているが過度な財政拡張を期待すべきでないだろう。
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