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- 中国経済指標:市場予想を上回るが課題も残る
中国の1-2月の主要経済指標は市場予想を上回ったが、持続的な成長には課題が残る内容だった。こうした中、国務院は消費回復策や失業対策を含む計画を発表し、今後も景気下支えが必要なことを示唆した。その計画では労働市場改革が求められている。中国では公務員への就職が人気だが、労働市場に対する不安の裏返しと見られる。今後の労働市場の改善には民間企業の活性化が必要だろう。
中国の主要経済指標は概ね市場予想を上回った
中国国家統計局は3月17日に1-2月の主要経済統計を発表した。内訳をみると、消費動向を示す小売売上高は年初来前年同期比で4.0%増と、市場予想の3.8%増を上回った(図表1参照)。
工業生産は1-2月が年初来前年同期比5.9%増と、市場予想の5.3%増を上回った。
固定資産投資は年初来前年同期比で4.1%増と、市場予想の3.2%増を上回った(図表2参照)。構成指数の内訳をみると、製造業投資は1.2%増と昨年からの高水準の伸びを維持した。インフラ投資は5.6%だった。不動産投資については9.8%減と、昨年の2桁減からは脱したが、市場予想の8.5%減を下回り、期待には届かなかった。
小売売上は1~2月の消費の底堅さを示唆、問題は持続性
中国の25年年明けの主要経済統計が発表され、結果は概ね市場予想を上回った。指標の発表を受け中国株式市場を代表する株価指数は、一部指数を除いて、小幅ながら上昇した。中国の年初からの消費は、景気の底割れ回避が確認された一方で、弱さも残ることから25年の経済成長目標(5%前後)達成に向け当局のてこ入れ策も期待でき、株式市場には都合がよかったようだ。
小売売上を項目別にみると、中国当局の消費財買い替え促進策で24年後半の消費押し上げに寄与した家電製品は1-2月が前年比で10.9%増だった。24年12月の39.3%、11月の22.2%は下回ったが伸びを確保した。中国の国家発展改革委員会と財政部は今年1月月初に、「25年の大規模設備更新と消費財買い替え推進支援強化に関する通知」を公表しており、今年も自動車や家電の買い替え促進を継続が示された。
そうした中、昨年後半は減少傾向だった宝石(1-2月、年初来前年比5.4%増)、化粧品(4.4%増)、衣類(3.3%増)などに持ち直しの兆しも見られた。
飲食店収入を含む食料は4.3%増と、昨年後半の伸び(概ね2~3%で推移)を上回った。
工業生産は1-2月が6%近い伸びで、市場予想を上回った。昨年に続き電気自動車(EV)が大幅な伸びを確保したが、やや頭打ち感も見られた。また、建築資材関連の回復は今回も鈍かった。
なお、中国の小売売上や工業生産は春節(旧正月)休暇が毎年変わり、統計上のブレを回避するため、1、2月分のデータが合算で示される。単月のデータとの比較には注意が必要である。
中国の経済対策は問題点が残ることの裏返し、民間企業活用が回復の鍵
中国の、1-2月の主要経済指標は固定資産投資も含め市場予想を上回った。しかし、回復は景気対策だよりで、自律的な回復は期待し難い。中国国営新華社通信は国務院の声明として消費回復などに向けた措置の「計画」を16日に発表した。30の項目からなる計画は賃金や失業対策など労働市場の改善から、買い替え促進策の継続など消費に直接関係する項目まで幅広くカバーされている。それだけ中国経済に課題が多いということなのだろう。3月5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)で発表された1兆3000億元(24年から3000億元上積み)規模の期間が10年超の長期債について、「計画」では買い替え促進策に充てることが明記されており、今後も買い替えが主役となりそうだ。ただし、このような政策は景気の底割れ回避となっても、需要の先食いに過ぎない面もあり、成長回復につながるのか疑問も残る。
「計画」では雇用市場に関連する指摘が多く見られた。具体策は示されていないが、賃金の適正な伸びや最低賃金の制度を整備するとしている。
また、失業対策に言及している点も目を引く。2月の(調査)失業率は5.4%と、25年の失業率の目標である5.5%前後を満たしてはいるが、昨年5%程度で推移していた時に比べやや上昇している。そのうえ、中国雇用市場の実態は、失業率よりも悪化している可能性がある。その証拠が国家公務員への就職の人気化だ。昨年11月と12月に行われた25年採用の出願者は約342万人と過去最多で、前年比で38万人増えている。定員に対する倍率は平均で86倍と狭き門だ。人気職種ではさらに狭き門だ。国有企業への就職(「体制に入る」と呼ばれる)の人気は不安の裏返しだろう。
なお、事情は異なる点は多々あるが、日本で公務員人気が高まったのはバブル崩壊後の就職氷河期だった。一般職試験の申込者は当時15万人前後であった。一方、24年度の申込者は2万4240人、受験者数は約1万7500人だった(キャリアと呼ばれる総合職の変動は比較的小さいが)。申込者ベースの倍率は3.2倍で、過去最低を記録した。中国の場合、「体制に入る」などの違いはあるが、就職難局面で公務員人気が高いのは、どこも似たり寄ったりなのだろう。
中国は今年も景気対策として耐久消費財の買い替え促進策などで景気底割れ回避を図る意向だ。製造業を中心に投資活動も続けそうだ。米国の関税政策が景気下押し要因となる中、必要な政策であろう。しかし、これらの政策は持続的な成長を確保するわけではなく、民間企業の再活性化による雇用の拡大が求められる。そうした中、習近平国家主席は3月末に中国開発フォーラムで世界の企業経営者との会談を予定している。習近平氏は先月も中国の大手民間企業の起業家と会談した。中国の民の伸び悩みの背景は習近平体制での政策の影響もあっただけに、急速に舵を切っているようだ。この動きが今後どのように展開するのかを筆者は注目している。
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