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- カナダのカーニー首相、解散総選挙の波紋
カナダではトルドー首相(当時)が1月に辞任を表明し、後継のカーニー氏がカナダ首相に就任した。トルドー氏辞任の背景にはインフレ対策や移民政策への不満があった。カーニー首相は就任早々に総選挙を表明した。自由党の支持率が回復傾向となる中、秋とみられていた総選挙を前倒しした。選挙では米トランプ政権との距離感が焦点となる可能性があり、自由党と保守党の姿勢の違いが注目される。
カナダのカーニー首相、就任早々に総選挙に打って出る
カナダのトルドー首相(当時)は1月6日に首相を辞任する意向を表明した。インフレ対策などを巡り与党・自由党の支持率が低迷続きであったことから決断を迫られた(図表1参照)。トルドー氏の後継者となったマーク・カーニー氏は3月14日にカナダの24代首相に就任した。
カーニー首相は3月23日、議会下院を解散し、4月28日に総選挙を実施すると表明した。総選挙は下院が任期満了となる10月をめどに実施される予定であったが前倒しされた。議会に議席を持たないカーニー首相は早期に議会で議席を得ることを求められるが、与党・自由党の支持率が回復する中、選挙にかじを切ったと見られる。
世界的な金融危機に手腕を発揮したカーニー氏に期待が高まる
カーニー首相の経歴を振り返ると、カナダと英国(イングランド)の中央銀行総裁を歴任しており金融政策に通じている(図表2参照)。なお、イングランド銀行は300年以上の歴史の中で外国人が総裁に就いたのはカーニー氏が初めてだ。カナダ銀行(中央銀行)副総裁を経て08年に総裁就任したが、就任直後にリーマンショック(世界金融危機、08年9月)に見舞われたが、辣腕をふるい、カナダ経済への影響は比較的小幅にとどまった。2011年には金融安定理事会(FSB)議長に就任するなど、自らを「危機の男」と自認している。
トルドー前首相は2015年に首相に就任した。政権発足時には男女の閣僚数を同数にし話題となった。移民の受け入れに寛容で、性的少数者(LGBT)にも理解を示した。しかし、腐敗のもみ消し疑惑や、寛容な移民政策などで支持率は低下、19年の第2次トルドー政権、21年の第3次トルドー政権は少数与党で綱渡りの政権運営が続いた。
さらに、物価高もトルドー前首相が不人気であった原因のようだ。カナダの2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.6%と落ち着いているが、カナダ銀行は23年7月から24年6月まで政策金利を5%に維持するなど、高金利政策を余儀なくされた(図表3参照)。トルドー前首相の移民政策が住宅価格を押し上げたことは不人気の最大の理由ではないかと筆者は見ている。トルドー氏も辞意を表面する会見で移民政策の失敗を認めている。当時(25年1月)の政党支持率を見ると、与党は20%を下回る調査がある一方で、野党の保守党は40%を上回る調査もあった。
今回の自由党と保守党の支持率は足元で拮抗、距離感が分かれ目か?
この流れを受けて自由党が党首に選出したのは「危機の男」カーニー氏だ。依然高止まりする住宅価格などへの対応に期待があるようだ。カーニー氏は政治家としての手腕は未知数ながら、これまでの経験が期待を生み出しているようだ。
しかし、現在カナダ国民の関心が最も高いのは米トランプ政権との対応だろう。これまで、カーニー首相は報復関税を辞さない強硬姿勢を示している。また、首相就任直後の17日には早速フランスと英国を歴訪し、欧州との結びつきをアピールするなどトランプ政権と、決定的な対立は避けながらも、対峙する構えを見せた。トランプ政権はカナダに対し早々と関税の対象としたことや、「米国の51番目の州」と呼ぶなど、カナダ国民の対米感情が悪化するなか、これまでの米国への強硬姿勢は自由党の支持率を押し上げたようだ。
なお、トルドー前首相も米国と対峙する姿勢だった。ただ、あえて不正確を承知で例えるなら、トルドー政権の政策は左派寄りのバイデン政権と似た面もあり、トランプ政権とは水と油と思われる。
一方、野党の保守党は財政など基本政策については自由党と大差ないとみられる。しかし、トランプ政権とは適度な距離感を保つ方針だ。保守党のポワリエーブル党首はトランプ氏同様に「カナダ・ファースト」を掲げ、トランプ政権との関係も悪くはない。カナダには米国との対立を嫌う有権者もおり、この点で保守党は一定の支持を獲得している。一方で、最近のカナダ国民の感情を考えてか、ポワリエーブル党首は米国の関税政策に「言うべきことは言う」姿勢も示している。保守党は米政権との距離感が問われる選挙となりそうだ。
4月28日の下院選挙は小選挙区制で全343議席を争う。足元の議席数は自由党が153議席、保守党が120議席で、どちらも過半数を持たない。
4月の総選挙で自由党が単独過半数を獲得すれば、カーニー首相続投が濃厚だ。
自由党は過半数獲得に至らずとも、比較第1党となれば現状のように他の政党(新民主党が候補)と連立協議となるのだろう。反対に保守党が過半数となれば保守党政権が誕生する公算だ。
世論調査は拮抗しており選挙結果は読みにくい。そのうえ、両党の政策には似たところもある。そのような中、トランプ政権との距離感が選挙の1つの分かれ目になるのかも知れない。
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