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- 財政政策と金融政策の失敗が招く停滞
日銀が6月27日に発表した資金循環勘定統計は、民間企業と家計が資金余剰であることを浮き彫りにした。需要不足を埋めるため財政によるテコ入れが行われているものの、それがむしろ産業の新陳代謝を阻害し、日本経済の潜在成長率を低下させているのではないか。この財政政策と金融政策の失敗が続く間は、自律的な経済成長期待により円安を止めるのは難しいだろう。
資金循環:企業の資金余剰が示す金融政策の限界
2021年度の資金循環統計によれば、家計が31兆6,562億円、企業が8兆7,301億円、計40兆3,863億円の資金余剰だった。これに対し、政府は39兆1,322億円の資金不足である(図表1)。日銀が国債を購入して供給したマネタリーベースは、財政支出により企業や家計が受け取り預金されたマネーの量に事後的に一致する。日本経済の特徴は、1998年度から企業部門が24年連続で資金余剰となり、家計と共に財政を支える姿が定着していることだろう。
つまり、日本の企業は資金調達に支障があって設備投資を絞っているわけではない。従って、日銀が量的緩和を実施しても、それで企業の投資を喚起するのは困難だろう。
一方、家計の消費、企業の投資が不足し、これらの主体が資金余剰になっていることで、日本経済は有効需要が不足して需給ギャップが生じている。そこで、政府は国債を発行しつつ高水準の財政支出を継続してきた。受け皿は量的緩和を維持する日銀で、2022年3月末、発行済み国債の48.2%を保有している。この比率は、2013年4月、日銀が「量的・質的緩和」を採用する以前は11.5%に過ぎなかった。
問題はその財政支出が持続的な成長の機動力になっていないことだろう。例えば新型コロナ禍の下で2020年度に政府が給付を決めた「特別定額給付金」の場合、その過半が銀行に預金されたままで動いていない。つまり、巨額の財政支出は実体経済において新たな需要を生んでいないのである。これは、日本の財政政策、金融政策がともに失敗していることを示すのではないか。
財政問題:債務ではなく生産性への影響が重要
日本の財政政策と金融政策の失敗は、単に政府債務の拡大が問題なのではない。OECD加盟国のうち、2020年の政府債務対GDPが相対的に低水準の国を見ると、実質労働生産性の高い国と低い国が様々で、統計的に有意な関係を見付けることはできなかった。一方、政府債務対GDP比率が150%を超えているスペイン、ポルトガル、イタリア、日本、ギリシャの5ヶ国のなかに労働生産性が高い国はない。政府部門が肥大化すれば、経済効率が落ちるのは当然だろう。
不況下において財政による有効需要創出を説いたジョン・メーナード・ケインズは、1936年の『雇用・利子及び貨幣の一般理論』のなかで、「財政政策功を奏して完全雇用に近づけば、その時以降、古典派が再び面目を取り戻す」と指摘した。つまり、完全雇用状態になれば、資源配分を市場に委ねるべきと明確に書き残しているわけだ。
財政規律が重要なのは、国家債務の問題だけでなく、非効率的な資源配分が生産性の向上を阻害し、国の潜在成長率を低下させる可能性があるからだろう。財政政策と金融政策の失敗が続く間は、日本経済の生産性が向上し、円が好ましいかたちで上昇に転じることはないのかもしれない。
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