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中国不動産問題の根は深い
梅澤 利文
2022/11/28

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概要

中国の不動産市場は規制強化と、緩和を繰り返してきました。足元でも16項目からなる不動産市場支援策が通知されましたが、抜本的な解決策となるとの見方は少ないようです。不動産市場の下支えが投機とならないことなど、制約も多いことがその背景と思われます。



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  中国当局:長期化する景気回復の鈍化に対し、経済対策の公表相次ぐ

中国人民銀行(中央銀行)は2022年11月25日、市中銀行の預金準備率を0.25%引き下げると発表しました。預金準備率の引き下げは今年2回目です。新型コロナウイルスの感染拡大と不動産市場悪化の長期化に苦しむ国内経済への支援策の一環と見られます。なお、人民銀の声明によれば、準備率引き下げの実施は12月5日で、今回の措置により、5000億元(約9兆7200億円)の流動性が経済に供給されると見られます。

人民銀と中国銀行保険監督管理委員会は今月11日に、「金融による不動産市場の安定的で健全な発展のサポートを徹底する通知(以後、通知)」を発表しました(図表1参照)。また、中国指導部は20項目からなる新型コロナ対策の一部緩和を発表し、海外からの入国者の隔離期間が短縮されるなど微調整が行われました。

中国不動産問題:16項目の対策は流動性対策が主体

中国経済の下押し要因として、ゼロコロナ政策、不動産市場の悪化、米中対立などがあげられます。足元ではゼロコロナ政策への抗議活動が中国国内で異例の広がりを見せています。一方、中国の不動産問題は長期化しており、引き続き中国経済の下押し要因になることも考えられます。当レポートでは中国の不動産市場が直面する問題を改めて整理します。

中国の不動産市場は中国当局が20年から、特に21年夏に不動産市場の資金調達を引き締めた影響で軟調に推移しています(図表2参照)。この状況に対し公表された16項目からなる先の通知は7や8の未完成物件を引渡すための特別融資など中国の不動産市場が足元で直面する問題への対応が含まれます。中国不動産市場への不安や懸念が不動産問題の根底にあり、必要な対応と見られます。

また、建設会社向け融資や信託貸付などの導入は流動性確保の重視したためと見られます。今回の通知は、不動産問題が流動性不足による信用不安へ拡大しない意図があるとみています。

なお、通知の13に示した銀行の不動産融資の上限緩和は、21年に設定された銀行の不動産融資上限(2つのレッドライン)を短期的ながら緩和する内容です。20年に導入された3つのレッドラインと合わせたこれらの不動産市場の引き締め策が中国不動産市場下落の要因です。今後、レッドラインを本格的に緩和するのかに注目しています。

中国不動産市場の規制緩和と強化

中国不動産市場の過去を振り返ると、規制緩和と強化が繰り返されています。規制強化として09年末の価格抑制策や、14~15年の習近平政権による綱紀粛正策で不動産市場は下落しました。反対に緩和策として、15年~18年は主に担保付き補完貸出(PSL)による再開発計画などで(図表2参照)、不動産市場は急回復しました。

今回の通知はPSLの時のような直接的な効果というよりは、これまでのところ、流動性対策が主体のように思われ、今後の展開が注目されます。

中国の不動産市場が悪化した場合、経済全体への影響が懸念されます。様々な影響が考えられます(図表3参照)。土地を国有とする中国では、土地の使用権売却収入が地方政府の収入となります。額でみると、22年10月の累計額は約4.4兆元で、昨年の半分程度となっています。今年はこれまで前年と比べてマイナスということで、取引は行われていますが、土地の使用権売却収入は前年を下回る公算が高まっています。経済対策の主体となることが多い地方政府の財政悪化は中国景気の下押し圧力となることも懸念されます。

このような中、中国当局から不動産市場のさらなる悪化を抑制すべく、先の通知や、金融緩和など不動産市場を下支えする政策が打ち出されています。しかし、中国当局は15年~18年に見られた不動産市場の直接的な購入政策や、20年以降の不動産規制を廃止するまでには至っていないようです。不動産市場が深刻な局面となれば話は別かもしれませんが、当局が無理矢理市場を転換させる動きは控えているようです。

中国不動産問題は人口動態も考慮する必要がある

習近平政権が訴える、住宅を投機の対象とさせない方針は維持されていることが背景にあるように思われます。

中国は不動産投資が地方政府の収入となる中、土地神話が見られ、住宅は投機の対象となっている面があります。人民銀によると、住宅所有者のうち、1軒所有の割合は6割以下で、2軒が3割強、3軒以上の所有が1割程度となっています。加えて、住宅価格は大都市においては年収の10数倍と、庶民には入手困難となっています。住宅市場のテコ入れ策は、投機の抑制や、適正な住宅価格の維持が制約となっていると思われます。

より長期的な問題も考えられます。中国の人口は今後減少が予測されています(図表4参照)。住宅を最初に購入する年齢層も低下が見込まれており、潜在的な住宅購入の減少が懸念されます。そのような中で高水準の住宅価格を維持することは困難で、むしろ急落が懸念され、急激な変化は金融システムに悪影響を与える恐れがあります。中国当局にとって、住宅市場の正常化は、長期的というよりは、早めの対応が求められているのかもしれません。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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