Article Title
ユーロ圏のインフレ率
梅澤 利文
2023/01/06

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ユーロ圏の国債利回りは、インフレ率低下期待などを受け年初に低下がみられました。エネルギー価格の下落やユーロ高など、インフレ抑制を期待させる要因も確かに見られます。ただし、米国がサービス価格など粘着的な価格上昇に直面している状況は、程度の差こそあれ、ユーロ圏においても起こりえると思われ、今後の動向に注視が必要です。



Article Body Text

ユーロ圏国債利回り:インフレ率の低下を受けて年初から低下傾向

ユーロ圏の主な国の国債利回りは2023年は低下(価格は上昇)で始まりました(図表1参照)。ユーロ圏の国債利回りは昨年12月欧州中央銀行(ECB)の政策理事会で大幅利上げ継続などが示唆されたことから政策理事会後、上昇傾向となっていました。

しかし、ドイツのみならず、イタリアなど周縁国の国債利回りも年初から低下傾向に転じました。この背景の1つは、ユーロ圏のインフレ指標が市場予想を下回ったためと見ています。

ユーロ圏のインフレ率に低下の兆し

23年年初から22年12月のドイツ、フランス、イタリアの消費者物価指数(HICP、EU基準)が発表され、軒並み前月を下回りました(図表2参照)。例えば、ドイツの12月のインフレ率は前年同月比で9.6%と、市場予想の10.2%、11月の11.3%を下回りました。ユーロ圏の12月分は1月6日に公表予定ですが、ユーロ圏の主な国のインフレ率が低下したことから、12月分は11月の10.1%(確報値)を下回ることが予想されています。

もっとも、参考として表示した米国の11月のCPIは前年同月比で7.1%であることから、ユーロ圏のインフレ率は高水準とも見受けられます。一方で、ユーロ圏のインフレ指標であるHICPには、以下のように米国とはやや異なる点も見られます。

ユーロ圏のインフレ率の特色

ユーロ圏と米国のCPI(ユーロ圏はHICP)をインフレ率の物価指標として比較します。物価指標の構成を部門別(食料、エネルギー、財、サービス)の割合に分類すると、ユーロ圏はサービス部門の割合が米国に比べ低い一方で、他の3部門の割合は米国より高くなっています(図表3参照)。その分、ユーロ圏は食料、エネルギー、財の各部門の構成割合が米国を上回っています。

ユーロ圏のインフレ率は足元米国を上回る水準に迄上昇しています。その主な背景は天然ガスなどのエネルギー価格上昇と、ユーロ安がエネルギーや食料品価格を押し上げたためと見られます。

では、米国のインフレ率が7%台でもインフレ懸念が根強い一方で、ユーロ圏にやや楽観的な見方がみられる理由として、次の要因が考えられます。

プラス要因とマイナス要因

まず、明快なのはエネルギー価格が下落傾向に転じたことです。天然ガスなど主要なエネルギー価格は昨年夏をピークに大幅に下落しています。

エネルギー価格の下落を支える要因として欧州の記録的な暖冬が挙げられます。例えばスペイン(バルセロナ)の22年末から昨日(1月5日)までの最高気温を見ても15℃から20℃程度で推移しています。スカンジナビア半島など冬らしい気候の地域もありますが、欧州は全般に暖冬で、エネルギーの節約(これまでは)となっているようです・

ユーロ高に転じた点もインフレ抑制要因です。ECBが22年9月の政策理事会で0.75%の大幅利上げを決定してからユーロは底堅い展開となっています。

なお、エネルギー価格はドイツのように政府がガス料金を一部支援したケースなどもインフレ率抑制に寄与したと見られます。しかし、このような要因は持続性の点で注意が必要です。

新型コロナウイルスの懸念が後退する中、財からサービスに需要がシフトすることで財価格が低下傾向なのは欧米ともに見られます。

サービス部門の価格は米国では依然インフレ圧力が強く、特に賃金と住宅関連の物価が押し上げ要因となっています。これらの点をユーロ圏について振り返ると、ユーロ圏の賃金の指標である交渉賃金は足元前年比で2.9%と、過去に比べ高水準ながら、米国ほどの懸念とはなっていないようです。ただ、ユーロ圏の労働市場も引き締まっているため、米国のような物価上昇要因となる可能性もあり今後の動向に注意は必要です。


住宅関連では、ユーロ圏HICPには帰属家賃(持ち家を物価に反映)が含まれない点が米国と異なります。米国CPIで帰属家賃の構成割合は概ね25%と高く、上昇率も足元で前年比7%程度で物価に影響を与えています。ユーロ圏もHICPに帰属家賃(OOH)を組み込む計画です。ただ、公表資料を見る限り計画は4段階で構成され、現在2段階あたりと筆者はみています。第3段階で四半期、最終段階でOOHを組み入れた月次のHICPが公表される予定で、実現はまだ先のことと思われます。その意味で、HICPに対する帰属家賃の効果は米国のように高くないと見られます。しかし、ユーロ圏当局はペーパーで試算値を時々公表しており、見かけのHICPと異なる数字をインフレ率としてイメージしているかもしれず、ECBなど当局のトーンに注意を払っています。


関連記事


日銀植田総裁は想定よりハト派だった

スイス中銀はマイナス金利へと向かうのか?

米短期金融市場とQTの今後を見据えた論点整理


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら