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インド中銀デジタル通貨最新事情
梅澤 利文
2023/05/30

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概要

インドは高額紙幣廃止などを契機にキャッシュレス化が進行しています。経済活動に必要な金融サービスの利用を促進する金融包摂にキャッシュレス化が一役買っている中で、この流れの先に中央銀行のデジタル通貨(CBDC)も念頭にあるようです。インドは、暗号資産の利用拡大を抑制するという必要性なども含め、CBDC実用化に向けた歩みを進めているようです。



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インド中銀は中央銀行デジタル通貨を試験運用する段階

中央銀行デジタル通貨(CBDC)はバハマやジャマイカ、ナイジェリアなど主に新興国ですでに導入されています。一方で、調査や開発、試験運用に乗り出しているのは100ヵ国程度という調査もあります。主要新興国で試験運用している国として、北京オリンピックを契機とした中国が有名ですが、インドも試験運用を開始しています。インド準備銀行(中央銀行)はインドのCBDCの試験運用を銀行間などの「ホールセール」分野では9銀行により昨年11月に、また、主に個人取引のリテール分野では12月に試験運用を開始しました。

インドでは2022年2月月初にシタラマン財務相が22/23年度(2022年4月-23年3月)予算案を発表した際に、デジタル通貨(CBDC)を22/23年度に導入する計画が明らかにされました。21年後半でも、インドのCBDCの導入方針の具体策には不確定の面が多く詳細はこれからという印象でしたが、急速にプロジェクトが進んでいる模様です。

コロナ禍でキャッシュレスサービスを多様化する流れがみられる

インドがデジタル通貨を導入する目的はいくつか考えられますが、当局の発言などから以下の点が浮かびあがります。

まず、キャッシュレス社会の促進です。インドは現金主義の色合いが濃い経済でした。しかし、不正蓄財をあぶりだすとして16年に高額紙幣廃止を実施したことや、最近も2000ルピー札を流通停止(法定通貨としての地位は維持)としています。16年の突然の高額紙幣廃止は経済混乱を引き起こしましたが、副産物としてキャッシュレス社会を進展させたプラス面も指摘されています。

キャッシュレスのメリットはコロナ禍でも発揮されたようです。インドでは2010年に始まった個人認証番号制度(アーダール)と、保有者が増えてきた銀行口座、携帯電話を紐づけるプロジェクトが進行していました。インドの携帯電話の普及率は8割を超え、高いことで知られていますが、銀行口座の保有比率も14年ごろは50%程度でしたが、最近では8割程度と急上昇しています。これらのインフラを活用して、電子クーポンや電子決済サービスなどを通じて各種サービスを提供しています。このキャッシュレス化の流れのあとに、CBDCが位置するものと思われます。

別の背景として、以前は仮想通貨と呼ばれていた暗号資産への警戒感がインド政府には強いように思われます。インド政府は経済が発展するためには幅広く金融決済手段が利用できることの必要性(金融包摂)を論じてきています。一方で、その手段が暗号資産になることに強い警戒感を示しています。インド中銀は変動性の高い民間の暗号資産から国民を守るためには、CBDCを導入することがメリットであると説明しています。

インド政府は昨年、暗号資産の取引による所得に対して税金を課しました。また、暗号資産を法定通貨に交換する取引に対しても税金を課しています。禁止ではないにせよ、活発な利用には釘を刺すことが狙いと見られます。

インド政府がキャッシュレス化を進めるといっても、CBDCなどが提供されているわけではなく、国民の中には暗号資産に(変動リスクはあっても)利便性を見出す可能性も残されています。

クロスボーダー取引を見据えた中央銀行デジタル通貨に注目

暗号資産の犯罪利用対策は置いておくとして、利用拡大の可能性が残るのは海外送金などの分野と思われます。

現行の海外送金は基本的に銀行口座に紐づいた方法であることから、送金コストは高くなるとみられ、そこに暗号資産が入り込む余地が生まれる可能性もあります。そこで、インド中銀は海外送金など、クロスオーバー(国際)決済可能なCBDCを提供することを視野に入れていると思われます。

他の新興国の中央銀行はデジタル通貨という意味合いでのCBDCをすでに発行しています。しかしながら、これまでのCBDCは発行国内での利用に限られていると見られます。長期的な取り組みとはなるのでしょうが、クロスボーダー取引を可能とするCBDCが望まれます。CBDCのクロスボーダー取引は国際決済銀行(BIS)が仲介者的な役割で様々なプロジェクトが進められています。インド中銀もBISとクロスボーダー取引のテクノロジー向上に向けたプロジェクトを共同運営するなど、今後を見据えた活動を行っています。

インドや中国、その他多数の国々が進めるデジタル通貨のプロジェクトは、まだ未知の点は多くあり様々な試み(実験)が行われています。これらの試みは将来の通貨制度を見据えた面もあることから、その方向性には注意を払う必要があると見ています。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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