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あのSECがビットコイン現物ETFを承認
梅澤 利文
2024/01/26

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概要

これまで長いこと申請を却下してきた米証券取引委員会(SEC)は、24年1月10日に暗号資産であるビットコインを運用対象とする現物上場投資信託(ETF)の上場申請を承認した。早速ETFの取引が開始され売買代金は、21年先物ETF上場初日の金額を上回った。取引の容易さなどETFによる利便性向上に市場は期待していると見られるが、ビットコインなど暗号資産の役割には疑問も残っているようだ。



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SEC、これまでの方針を変えビットコイン現物ETFを承認

米証券取引委員会(SEC)は24年1月10日に代表的な暗号資産であるビットコインを運用対象とする現物上場投資信託(ETF)の上場申請を初めて承認した。これを受け11銘柄(ETF)の取引が11日から開始された。報道によると、11日の売買代金は合計約46億ドル(約6700億円)、と数字の上では堅調な滑り出しとなった。

ビットコイン価格はビットコイン現物ETF承認への期待などから上場前に47000ドルを上回る局面もあったが、上場後は下落する展開となっている(図表1参照)。なお、米国では現物ETFに先行して先物に連動するETFが21年10月に上場した。また21年春にカナダ、ブラジルでもビットコイン価格に連動するETFが承認された。

ビットコインの価格変動には様々な要因が考えられる

ビットコインに代表される暗号資産は過去には仮想通貨と呼ばれたこともあったが、その価格変動の大きさから通貨と呼ぶには疑問もあり、現在では暗号資産という呼称となっている。ビットコインの価格は、株式や債券など伝統的な金融資産との相関が一般的に低く、ヘッジ機能を期待する考えもあるが、そもそも何が価格変動要因なのかは不明のままと筆者は認識している。

なお、ブロックチェーンの技術をベースとするビットコインは半減期(マイナーが強制的に採掘を半減させられる仕組み。需給引き締まりから価格押上げ要因と一般に考えられる)のように構造的な価格変動要因も存在する。過去、2012年、2016年、2020年と3回半減期があり、今年春に4回目があるとみられている。

半減期は短期的にはビットコイン価格の重要な変動要因と見られるが、傍観者としてビットコイン価格の乱高下を眺めると、ETFの上場承認の影響が大きかったようだ。21年はブラジル、カナダにおけるビットコインETFの上場承認に続き、同年10月には米国でビットコインの先物ETFが始まった。この前後でもビットコイン価格は乱高下している。もっとも、下落要因には21年に中国当局が金融機関に暗号資産(仮想通貨)の取り扱いに様々な規制をしたことや、暗号資産の取引所の破綻などがあった。一方で、上昇要因には米大手電気自動車メーカーが自社の自動車購入にビットコインの使用を認めたことなどがあげられる。もっとも、ビットコインによる自動車購入は直後に停止されており、単なるお騒がせという面もあった。当時のビットコインの乱高下の要因の特定は容易ではない。つまり、ビットコインの理論的な価値が誰にもわからないため、様々なテーマがビットコイン価格に影響したようだ。

ビットコイン現物ETFの売買代金からは、滑り出し好調にも見えるが

そうした中、ビットコインの現物ETF上場は購入方法が容易となることから投資家層の幅が広がるとの期待には一定の説得力があるのかもしれない。通常ビットコインを売買するには暗号資産取引所の口座開設など、筆者のような素人には敷居が高い。ETFという形態であれば機関投資家なども抵抗感が少ないのかもしれない。また、ETF市場の広がりは取引の簡便化も期待される。金などもETFに組み入れられたことで取引が広がるという経緯が過去にはあった。

なお、1月10日に承認されたビットコインETFは現物が対象で、先に承認されていた先物ETFと比べ運用効率の改善が期待されている。先物ETFの場合、月毎にロールオーバーする必要がある。期先の先物価格の変動が取引コストとなることで運用効率の低下が問題点として指摘されていた。ビットコインの現物ETFを利用すれば、この問題は回避できよう。

1月11日に始まったビットコインの現物ETFの取引金額は合計46億ドルで、21年10月の先物ETFの取引金額(約11億ドル)を大幅に上回った。現物ETFへの期待から新規の資金が流入したのかもしれない。

なお、今回承認された11本の現物ETFの管理手数料を見ると1社の1.5%を除き概ね0.2%~0.4%に設定されている。手数料の低さが取引金額を増加させた可能性があるが、流入資金が新規のものなのか、既存商品からの乗り換えなのかなどは今後の動向を見守る必要がありそうだ。

さて、日本におけるビットコインETFの可能性を考えると、現状日本ではビットコインETFが組成されるハードルは高そうだ。そもそもビットコインなどは投資信託に組み入れ可能となる「特定資産」に入らず別枠扱いだからだ。また、今回SECが承認したETFを外国投信として購入するとしても、同様の問題に直面する可能性も考えられ注意は必要だ。要は規制や規則の問題であることから、正当な理由で需要が高まれば日本の当局が方針を変える可能性は考えられなくもないが、これらは今後の課題だろう。

今回、米国ではSECが現物ETFまで承認したが、その声明文を見ると、なぜ承認したのか疑問も残る。声明文では昨年8月にSECが、(先物ETFを)承認しながら現物ETFを長らく不承認としてきた裁判で敗訴したことが背景と説明し、積極的にビットコインを支持しているわけではないと述べている。同声明文で「ビットコインは投機的で、マネーロンダリング(資金洗浄)や経済制裁逃れなどの非合法活動(含むランサムウェア)、テロ活動資金にも使われていることに留意したい」と指摘し、ビットコインを認めても、推奨している訳でもないとまで述べている。もっとも米議会の調査報告などを見ると、テロリストの資金として過去にはビットコインが利用されたようだが、最近は価値が安定しているステーブルコインの利用が多いようである。それでもSECはビットコインが犯罪などに使われることに懸念を持ち続けているようだ。

ビットコインには送金手数料を低下させる役割などが期待されていた。しかし、同様のサービスは日進月歩で登場している。そうした中、ビットコインが投機目的にとどまり、その他の利便性を示せなければ市場のさらなる拡大には疑問も残る。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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