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大幅利下げとなった9月FOMCの解釈
梅澤 利文
2024/09/26

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概要

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17-18日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%と通常(0.25%)より大幅な利下げ幅で緩和サイクルを開始することを決定した。予防的利下げで労働市場の悪化を防ぎ、現在の堅調な米国経済を維持することが大幅利下げの理由だ。ただし、インフレ懸念は完全に払しょくできているとは言い難く、今後の利下げは比較的落ち着いたペースかもしれない。



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9月のFOMC:0.5%の利下げが決定されたが、ボウマン理事は反対を表明

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17-18日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%と通常(0.25%)より大幅な利下げ幅で緩和サイクルを開始することを決定した。

9月のFOMCではボウマン理事が、インフレ懸念が残るとして0.25%の利下げ幅を主張し、大幅利下げに反対した。政策決定にFRB理事が反対したのは2005年以来と異例の事態だ。ボウマン理事は20日に声明を発表し、反対票を投じた理由を説明している(図表1参照)。

労働市場の悪化を予防的に回避するため大幅利下げが決定された

9月のFOMCは直前まで市場の利下げ幅の見方が0.25%と0.50%で二分されていた。結果は大幅利下げとなったが、執行部の一員であるボウマン理事が反対するなど異例の決定となった側面もある。FOMC後の参加者のコメントや、最近の経済データを参考に、今回のFOMCを再考してみよう。

ボウマン理事の20日の声明などによると、反対の理由は最近の米国の経済指標が堅調で、労働市場も完全雇用に近い状況にある一方、インフレ懸念は後退したとはいえ消滅したわけではないことだろう。底堅かった8月の小売売上や鉱工業生産などをみても説得力はある。

これまでFRBは「金融政策はデータ次第」というバックミラー的な説明を繰り返してきた。この方針を維持するのなら、金融政策の引き締め過ぎを0.25%の利下げで微調整することに同意できても、大幅な引き下げ幅で利下げを開始することは、現状に照らして同意しかねたようだ。

一方、パウエル議長はFOMC後の会見で米経済の現状は良いと述べ、これを維持するためフォワードルッキング(予防)的な判断で大幅利下げを決定したと説明している。また、パウエル議長は政策が後手に回るリスクへの質問に対し「労働市場を支援すべきタイミングは労働市場が強いときであって、実際にレイオフが始まってからではない」とも述べている。

足元の経済指標か、それとも先行き重視かで意見が分かれたわけだが、他のFOMC参加者は大幅利下げに同意した。アトランタ連銀のボスティック総裁は利下げ後の政策金利が中立金利(景気を過熱させず冷やしもしない金利水準)を上回ることを念頭に、軟化の兆しが見え始めた労働市場への配慮から大幅利下げ支持に転じた。ミネアポリス連銀カシュカリ総裁も労働市場のさらなる悪化を防ぐことの必要性を指摘している。

異なるのはウォラー理事で、9月に発表された8月の消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)を取り上げ、「インフレが想定以上に軟化しつつある」ことを主に大幅利下げの理由としている。ウォラー理事の発言は影響力が大きいことから注目度は高いが、20日のインフレ軟化懸念発言に対し、筆者は切れ味がなかったとみている。カシュカリ総裁が、今後は小幅なステップ(0.25%)での利下げを支持しているのは、インフレ懸念が完全に後退したわけではないことの1つの証拠だろう。ウォラー理事は9月のFOMCのブラックアウト期間(FRB高官が金融政策の対外発信を控える)直前に、大幅利下げにオープンマインドと述べつつも、「労働市場は軟化はしているが悪化はしていない」と発言した後でもあり、大幅利下げの理由を労働市場とはしにくかったのかもしれない。

なお、9月のFOMCでは会合前に当局者から大幅利下げを示唆するコメントはほぼ聞かれず、ブラックアウト期間中の新聞報道で織り込みが進んだ印象だ。情報発信のあり方に疑問も残る。

FOMC後の国債利回りが示唆すること

次に、FOMC後の米国債市場を見ると、大幅利下げにもかかわらず、10年国債利回りはFOMC後、小幅ながら上昇した(図表2参照)。おそらくFOMC前に大幅利下げを織り込む過程で生じた利回り低下の反動なのだろう。

反動の背景は、大幅利下げで緩和局面が始まったものの、今後の利下げの道筋には大幅利下げが見込まれていないことが挙げられる。。また、中立金利の代替とみられるフェデラルファンド(FF)金利の長期水準が2.9%へと引き上げられたことも長期金利を下げにくくしているのだろう(図表3参照)。

利下げの道筋は、FF金利の年末水準から25年は4回、26年は2回と想定される。早めに大幅利下げして、その後は通常の利下げで、ペースも急がないイメージだ。仮に今後の経済指標で労働市場の悪化が示されなければ、短期金利はともかく、長期金利への下押し圧力は比較的小さいかもしれない。

長期FF金利の水準の上昇も長期金利を下げにくくしている要因だろう。利下げ局面の終了となるターミナルレートや今後の引き締め度合いの目安として長期FF金利が意識されるからだ。

ターミナルレートや、中立金利を市場がどの程度と見積もっているかは、スワップレートなどに反映されている。それを見ると、FOMC後、両レートとも上がっている。米10年国債利回りばど長期債レートも同じような動きをしている。年内の利下げ回数が市場では注目されるが、今後の利下げの道筋や、ターミナルレートの水準にも目配せが必要だろう。

なお、24日に発表されたコンフェランスボードの9月の消費者信頼感指数は、雇用市場の軟化などを含んで悪化した。このような気になる数字もあることや、利下げの効果が景気を押し上げるまでの時間を考えると、予防的引き下げは必要であったと筆者は考えている。一方で、インフレ懸念は完全に払しょくされたわけではなく、今後の大幅な利下げに対しては慎重に見ている。

現状の経済指標が大幅に悪化しないなら、年内は2回、来年は4回程度の利下げを見込んでいる。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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