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中国、一連の経済対策の効果は期待できるのか?
梅澤 利文
2024/09/30

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概要

中国人民銀行など三つの機関は9月24日に金融緩和、不動産対策、株式市場対策を含む経済対策を発表し、株式市場は大幅に上昇した。経済対策は従来の「小出し」から積極的なものに転じ、政策金利や預金準備率の引き下げ、不動産対策などを一体化が見られた。今後の経済対策として市場は財政政策の拡大を期待しているようだ。さらに、消費回復には消費者マインドの改善も求められそうだ。



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中国人民銀の経済対策を発表、今後の政策にも期待が高まる

中国人民銀行、中国国家金融監督管理総局、中国証券業監督管理委員会は9月24日に共同で金融緩和などを含む経済対策を発表した(図表1参照)。人民銀を中心とした経済対策は①金融緩和、②不動産対策、③株式市場対策の3本柱で構成されている。

人民銀の潘功勝総裁は①~③の政策を述べるとともに、追加政策の可能性も示唆した。26日には中国共産党中央政治局が9月の月例会議で経済政策の強化を示唆した。中国当局の一連の対応を背景に中国資本市場では政策への期待から株式市場が大幅に上昇した。

今回の人民銀の金融緩和は引き下げ幅などが今までと異なる

9月の中国共産党中央政治局の月例会議で経済対策がテーマとなったのは異例だ。政治局が経済状況に関する議論をするのは通常、4月と7月、12月だ。過去4年の9月の会議では主に党の規律などがテーマであった。今回経済対策をテーマにしたとの報道を受け、市場は当局の経済対策が今までとは違うと読み取ったようだ。

3本柱からなる経済対策の発表内容は、これまでの「小出し」と揶揄された政策に比べ積極性がみられる。例えば金融政策では政策金利としての重要性を高めつつある7日物リバースレポ(売却条件付き債券購入)金利が0.2%と、過去の0.1%に比べ大幅に引き下げられた(図表2参照)。そのうえ、預金準備率もこれまでと違い政策金利と同時期に引き下げられた。潘総裁は預金準備率の引き下げで1兆元(約20兆円)の流動性供給が見込まれることと、年内にさらなる預金準備率の引き下げを行う可能性があると指摘している。預金準備率の引き下げは24年2月以来だが、これまでの1回限りから、今回は効果を確認するまで断続的に緩和を続ける姿勢なのかもしれない。

また、人民銀は26日に1年物の中期貸出ファシリティ(MLF)金利を0.3%と比較的大きな幅で引き下げた。また20日に据え置きとした最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)については、今後引き下げる方針であることを示唆している。

中国はリバースレポ、MLF、LPRなど政策金利とみなされる複数の金利がある。これまでは、LPRだけ下げるなど、「小出し」の対応が見られたが、今回は一体感を演出していること、利下げ幅も拡大させたこと、預金準備率の引き下げとコラボさせたことなどで緩和効果の演出が図られた。

不動産対策を見ると、既存の住宅ローン金利を0.5%引き下げる効果について、人民銀は金利負担が1500億元程度減少すると述べている。

2軒目の住宅取得にかかるローン頭金比率も15%に引き下げられた。今年5月には1軒目のローン頭金比率が20%以上から15%に引き下げられており足並みを揃えた格好だ。ただ筆者の感想では、どれだけの効果を発揮するのかは未知数だ。

国有企業による住宅在庫買入れの再貸出の見直しとは、未完成住宅などを買い上げ、安価な住宅として提供することに関連した融資を行った銀行に対し人民銀が従来60%だった再貸出しの対象を100%に引き上げるというものだ。この対策も不動産問題への対応策ではあるが、このような調整が必要なのは手探りの段階だからかもしれない。

不動産対策については、正しい方向に向かいつつあるとみているが、決め手はなく、今回のように効果を見極めながら修正を進め、効果を確認できたら規模を拡大する流れの途上にあるのかもしれない。

人民銀による株式市場への流動性供給はカンフル剤的な効果

株式市場対策としては証券会社や投信会社(ファンド)、保険会社が株式を購入するため人民銀から流動性を引き出せるスワップ制度の創設が発表された。これまで人民銀から直接オペにより流動性を受けられるのは基本として銀行などに限られたが、対象が広がる印象だ。人民元の流動性支援はスワップの5000億元と再貸出しによる3000億元が発表されたが、段階的な追加支援の可能性を人民銀は示唆している。

株式市場にとって、流動性支援はサプライズであったとみられ発表を受け素直に上昇した。回復が鈍い経済指標や低迷を続ける不動産市場を横目に軟調であった中国株式市場にとって、流動性支援はカンフル剤の役割は果たしたようだ。

もっとも、中国の株式市場が軟調であったのは流動性不足が主要な背景ではなかったのではなかろうか。仮に今回の発表が流動性対策だけならば、市場はそれほど好感しなかったかもしれない。しかし、金融緩和など他の対策との相乗効果や追加対策への期待が今週になっても続く中国株式市場上昇の背景と思われる。

押し上げ続けている主役は、おそらく財政政策拡大への期待だろう

市場の期待を押し上げ続けている主役として忘れてならないのは今後の財政政策への期待だろう。24日からの一連の経済対策は金融政策や意外性という点で株式市場の流動性供給には従来との違いはみられる。不動産対策の方向性はよいと思うが、規模の点で不十分なことから本格的な財政出動による下支えが必要だろう。

足元では報道ベースではあるが、特別債の発行など財政政策拡大を意識した内容が伝えられている。最近の報道によると、中国政府は国有銀行へ最大10兆元の資本注入を検討しており、特別国債の追加発行によって資金調達を行うとの観測が伝えられている。その他の報道でも財政政策拡大を期待させるものが散見されるが、その規模は数兆元もしくはそれ以上の規模の本格的な財政政策の可能性を報道している。

ただし、あくまで報道である点に注意は必要だ。26日の政治局月例会議では、異例ながら経済がテーマとなったが、財政支出の規模への具体的な表明があったわけではない。

一方で、注目したい点もある。人民銀は流通市場における国債購入による資金供給に前向きな発言をしていることだ。国債の大量発行となれば、中国国債市場が影響を受ける可能性もあり、人民元の国債購入(QE)が求められるかもしれないことから、準備だけはしているのかもしれない。市場の期待には、当局の姿勢が柔軟となってきたことから「何でもあり」の視点となっているようだ。

今回の経済対策と、今後想定される経済対策の効果を図るうえで、規模も大切だが、消費者のコンフィデンスが回復するのかにも注目したい。不動産問題などを踏まえ、消費者マインドは相当に悪化したとみられるが、消費者マインドの回復なしには、消費の盛り上がりは期待できないだろう。一連の経済対策が消費者のマインドに火をつけるかに注目したい。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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