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マクロアップデート - 成長不安か景気後退懸念か
2024/08/08

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概要

ピクテのマクロリサーチ・チームが世界の投資環境について解説いたします。



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◆ 概要

・7月の米雇用統計では、雇用の伸びが市場予想を下回り失業率のさらなる上昇が見られ、サーム・ルールが発動されました。これにより景気後退懸念が急激に高まり、市場は年末までに約125ベーシスポイントの利下げを織り込み、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)前に臨時会合で利下げを決定する可能性も高まりました。

・ピクテでは、米国の経済成長率が2024年下半期にはトレンド以下に減速すると見ており、年内、複数回の利下げを予想しています。労働市場における需給の緩みとディスインフレーションの進行は、金融政策が過度に引き締められている可能性を示唆しており、より中立的な水準へ早期に戻すことが望ましいと考えます。

・現在の経済データは、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月のFOMC、またはそれ以前の臨時会合で利下げを決定する裏付けになるものではないと考えています。また、景気後退が基本シナリオであるとも見ていません。まず、8月の雇用統計では天候に関連し部分的な回復が見込まれます。次に、支出やバランスシートに関するデータは、1年以上軟調傾向にあり、労働市場が徐々に冷え込んできていることを示唆しています。加えて、大幅な利下げや、臨時会合での利下げ決定のためには、1ヶ月以上のデータを精査し、その必要性が確認されるか、または信用市場で大きな混乱が発生することが必要だと考えます。

・FRBの緩和サイクルは労働市場の救済ではなく政策の正常化であると見ています。しかし、完全雇用の状況で採用も解雇も少ない環境では、失業率が急激に上昇し始め、雇用と収入の損失が悪循環を引き起こすリスクがあります。解雇者数が増加したり、信用不安で金融情勢が予想外に引き締まった場合、過去の景気後退局面と似た緩和サイクルになる可能性が高くなります。

・欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)が今年中にそれぞれ複数回の利下げを行うと予想しており、さらなる緩和が見込まれます。スイス国立銀行(SNB)も年内に利下げを行うことが予想され、大幅な利下げやスイスフランの強さを抑えるための為替介入が警戒されます。



米国:サーム・ルールが発動 – 米国は景気後退へ向かっているのか?

米国では、過去数か月間失業率が上昇し続け、サーム・ルールが発動されました。これは、直近3か月間の平均失業率が、過去12ヶ月間の最低値を0.5ポイント以上上回った場合に景気後退が開始された確率が高い、という経験則です(図1)。このルールは完璧ではありませんが、過去の景気後退局面を示すという点では、非常に優れた実績を持っており、緩やかに上昇していき、その後急速に上昇する傾向がある失業率の性質を捉えています。過去にはこのルールが発動された後、平均で2%の失業率の上昇が見られました。

しかし、パウエルFRB議長の言葉を借りると、サーム・ルールは「統計的な規則性」であり、現在の経済サイクルにおいて、大量解雇や不況の波を予測するのには役立たない可能性もあります。というのも、このルールは失業者の急増の原因を解雇によるものなのか、労働力の供給増加によるものなのかを区別しないからです。実際、2024年7月には、25歳から54歳までの「プライムエイジ」と呼ばれる年齢層の労働参加率が、ここ数年間での最高値を記録しました。

また、以前から、現在の労働市場で移民が果たす重要な役割を強調してきましたが、新たに到着した移民の大幅な増加が失業率を上昇させている部分もあります。労働市場が冷え込むに伴い、移民の受け入れが勢いを失っているからです(図3)。労働力の供給増加が失業率の上昇を引き起こしていたとしても、この状況をすぐには解消できないかもしれません。しかし、これは、雇用の喪失が所得の喪失を招き、それがさらなる雇用の喪失を引き起こすという不況前の悪循環とは異なります。

最後に重要な点として、最近の失業率上昇に大きく影響を与えているのは一時解雇による失業であり、解雇の解消が期待されます。この指標は景気後退を予測する上での信頼度は高くありませんが、特に政策対応がなく、この指標が引き続き上昇する場合は、注目する必要があります。





天候は雇用統計に影響を与えたのか?

表面的には、7月の雇用統計は非常に軟調で、雇用増加は前月比11万4000人にとどまり、長期的に持続可能な雇用創出ペースとされる値を下回りました。雇用増加の広がりも縮小し、雇用を減少させた業種がやや増加しました(図5)。

雇用統計の調査週にハリケーン・ベリルが上陸したことで、全米で2番目の規模に当たるテキサス州経済に混乱が生じたことを考慮すると、雇用に悪影響を与えた、あるいは少なくとも労働市場の状況を正確に把握するのを難しくした理由があると考えられます。

労働統計局はハリケーンによる明確な影響は認識できなかったとしながらも、報告書には天候による典型的な混乱のパターンがいくつか見られました。家計調査によると、悪天候のために「雇用されているが就業していない」と報告された人数が急増し、7月としては過去最高を記録しました。生産労働者および非監督労働者の労働時間が減少し、回答率も低い範囲にとどまりました。




見通しではどのような緩和サイクルを想定するのか?

7月の雇用統計で、労働市場がコロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)前の水準にまで戻ったことが示された今、労働市場の下振れリスクが浮き彫りになりました。完全雇用の環境で採用と解雇が少ない状況が続くと、失業率が急激に増加し、雇用と収入の損失が悪循環を引き起こすことがあります。下振れリスクの増大、労働市場における需給の緩みの増加、およびディスインフレーションの進行は、金融政策が過度に引き締められている可能性を示唆しています。

また、ピクテではFRBの緩和サイクルを労働市場の救済ではなく、政策の正常化と見ていますが、どのような状況になれば見通しが変わるのでしょうか?

ピクテの予測は、経済データの悪化がなく、信用市場が緊張しないことを前提としています。8月には雇用の増加と労働時間の回復が見られる可能性が高いと見ています。しかし、来月のデータが予想に反し、解雇の増加を示唆するような内容であったり、信用不安が高まり金融環境が予想外に厳しくなった場合には、FRBは利下げの判断をし、過去の景気後退局面と似た緩和サイクルに陥る可能性が高くなります。

ピクテでは引き続き、新規失業保険申請数(夏季の季節調整問題やハリケーン・ベリルの影響を鑑みる必要があります)、信用市場のスプレッドや州ごとの内訳を示す地域別雇用統計などに注目し、天候不順の影響を見極めていきます。



欧州:緩やかな回復シナリオは依然として有効だが、さらなる緩和も懸念される


ユーロ圏については、緩やかな景気回復をメインシナリオとしていました。しかし、最近の米国労働市場の弱さにより、このシナリオが実現する可能性は半分程度まで落ちたと考えます。まず、米国経済の予想以上の減速がユーロ圏の対外貿易に影響を与え、欧州の製造業の回復をより不透明なものにする可能性があります。次に、市場の調整が続くと金融環境の引き締めにつながり、銀行貸出の回復を妨げる可能性があります。このような背景から、ピクテではECBによる年内の利下げを予想しており、さらに追加の利下げを行うことも予想しています。

英国についても、2024年には緩やかな景気回復が続くと予想しており、順調な回復が期待されます。これは最近の経済活動の改善と緩和サイクルの開始が下支えしています。この観点から、BOEによる年内の複数回の利下げを予想しています。

スイスでは、スイス国立銀行(SNB)が概ね中立的と考える水準まで、金利を引き下げると予想しています。一方、最近のスイスフラン高、緩やかなインフレ圧力、スイス製造業購買担当者景気指数(PMI)やスイスKOF景気指数(KOF)などの最近の調査が示す、成長モメンタムの弱まりを考慮すると、大幅な金利引き下げや年内の追加引き下げが予想されます。さらに、他の中央銀行、特にFRBやECBの政策決定が、SNBの決断に影響を与える可能性があります。為替レートがインフレ見通しにとって重要性であることを考慮すると、SNBは主要な政策手段として金利を使用する一方で、スイスフランの不当な上昇を抑えるために為替市場に介入することも考えられます。最近のデータによると、2024年6月にフランスの国民議会選挙を巡る政治的な混乱が金融市場に波及する中で、SNBは外国為替市場に介入しませんでしたが、今後の状況次第では介入の可能性も排除できません。




アジア:次の動きは?

日本銀行(日銀)は7月に再び利上げを行いました。ピクテでは、日銀は金融政策を徐々に正常化し、政策金利を名目中立金利に徐々に近づけ、2025年に次の利上げを行うと予想しています。金融市場が安定するか、またはインフレが想定を上回った場合には、より早い時期に利上げを行う可能性もあります。しかし、米国が景気後退に陥った場合、利上げのペースは鈍化する可能性があります。

中国では、2024年第2四半期に経済成長率が著しく鈍化しましたが、政府が年間成長の目標達成に強い決意を示し、成長促進派の政治局会議が示唆した下期の金融緩和政策強化に支えられて、今年下期には成長の勢いが回復すると予想しています。しかし、住宅セクターは安定化の兆しを見せておらず、中国の成長にとって最大の下方リスクであり続ける可能性があります。

 


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