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新型コロナウイルス対策による財政の振り返り
梅澤 利文
2020/04/23

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概要

ムニューシン財務長官のコメントが冗談なのか、本心なのかを確かめる術はありません。新型コロナウイルス対策に向け各国で財政政策が拡大されるなか、各国財務当局は、求められる資金の調達に苦慮する一方で、財政状況への不安も頭をよぎることと思われます。そこで、国際通貨基金(IMF)の予想を参照して世界の財務動向を振り返ります。



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財政政策:米国上院は中小企業救済融資プログラムの増額等を可決、下院も可決見込み

米国上院は2020年4月21日、中小企業救済融資プログラムの増額と病院支援などを盛り込んだ4840億ドル(約52兆1400億円)規模の包括的救済法案を可決しました。同法案は23日に下院で可決される見通しです。

中小企業が利用を申請できる政府支援金は、瞬間蒸発したことから今回の増額が必要となり、総額は最終的に6600億ドル程度が想定されています。ムニューシン財務長官は「これで足りることを願う」と述べています。

 

 

どこに注目すべきか:財政赤字対GDP比率、借換リスク、債務残高

ムニューシン財務長官のコメントが冗談なのか、本心なのかを確かめる術はありません。新型コロナウイルス対策に向け各国で財政政策が拡大されるなか、各国財務当局は、求められる資金の調達に苦慮する一方で、財政状況への不安も頭をよぎることと思われます。そこで、国際通貨基金(IMF)の予想を参照して世界の財務動向を振り返ります。

まず、財政収支対GDP(国内総生産)比率を主な国について見てゆきます(図表1参照)。グラフでは2012年、19年を実績、20年はIMFによる予想値を示しています。

世界全体を見ると財政赤字(マイナスは赤字)は19年のマイナス3.7%から、20年はマイナス9.9%と、ほぼ10%となることが見込まれています。特に、2兆ドル規模のコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)や流動性対策などで巨額の財政支出を決めた米国の財政収支(赤字)対GDP比率は15%を超える悪化が見込まれています。ユーロ 圏や日本は12年に比べ19年まで財政赤字の削減に努めてきましたが、20年は急速な悪化が見込まれます。

新興国は、中国やブラジルなど主要国が財政赤字を拡大させたうえ、原油価格の下落などを背景にロシアが財政赤字に転じることが見込まれていることから、同比率は高水準(悪化)となると予想されています。

財政赤字の拡大は、要資金調達額(借換債と財政赤字の合計)を通じて借換リスクが上昇することが懸念されます。要資金調達額の対GDP比率で見ると先進国では、日本に続き米国の比率が高くなっています。借換リスクは主な先進国では当面低いと思われますが、同比率で新興国の借換リスクを見ると、ブラジルやウクライナなどの比率が高くなっています。

次に、財政状況の目安として参照される債務残高対GDP比率を見てみると、世界全体でGDPと肩を並べる水準まで債務残高の増加が想定されています(図表2参照)。日本が債務残高では突出していることは、大胆な政策の足かせとなりそうです。また、08年のリーマンショック後に巨額の財政支出を実施した中国も、当時に比べると財政の余裕は低下していると見られます。なお、図表1や2の指標はよく参照されますが、単純な大小比較には注意が必要です。例えば新興国と先進国の資金調達能力の違いから新興国の債務残高の低さは「良い」を示さず、むしろ新興国に問題ありと見ています。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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