Article Title
IMF、ワクチン接種率の格差に懸念を表明
梅澤 利文
2021/07/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

今回の国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しでは、世界全体の成長率は4月時点の予測に比べ、21年は変化無く、22年は上方修正されました。ただ、成長率予測を地域別に見ると先進国は上方修正された一方で、新興国はやや下方修正されています。明暗を分けた主な要因はワクチン接種率です。なおインフレ率は来年の安定を見込んでいますが懸念も残ります。



Article Body Text

IMF世界経済見通し:全体的な修正は小幅国・地域ではワクチン接種率により差が拡大

国際通貨基金(IMF)は2021年7月27日に最新の世界経済見通し(WEO)を公表しました(図表1参照)。世界成長率予測を21年は6%に据置いた一方で、22年の成長率予測4.9%と、前回4月の予測である4.4%から引き上げました。

21年の地域別の予測を見ると、先進国は5.6%に上方修正された一方、新興国の成長率予測は6.3%と、4月時点の予測の6.7%から下方修正されました。

インフレ率について、IMFは大半の国で22年にパンデミック前の水準に戻ると予想、現在のインフレ率上昇は一過性との見方を示しました。一方、一部の新興国では食料品価格上昇を一因にインフレ率が上昇するとの懸念も示しました。

どこに注目すべきか:IMF、世界経済見通し、ワクチン接種率

今回のIMFの世界経済見通しでは、世界全体の成長率は4月時点の予測に比べ、21年は変化無く、22年は上方修正されました。ただ、成長率予測を地域別に見ると先進国は上方修正された一方で、新興国はやや下方修正されています。明暗を分けた主な要因はワクチン接種率です(図表2参照)。なおインフレ率は来年の安定を見込んでいますが懸念も残ります。

IMFの世界経済予想は、成長率予測の要因に旬のテーマを取り上げる傾向があるように思われます。米国がトランプ政権であった頃には米中貿易戦争が分析対象で、最近は財政政策など新型コロナウイルスへの対応などが選好されていました。今回は、新型コロナ関連の経済への影響が主要な分析対象ですが、特にワクチン接種の進展度合いが主要なテーマとなっている印象です。財政政策、インフレ動向、気候変動問題などは脇役の印象です。

ワクチン接種の状況は、米国や英国などが先行し、ドイツなどユーロ圏も追随する一方で日本は出遅れていました。足元のワクチン接種率(少なくとも1回した人の人口に対する割合)は英国が約69%。ドイツが約61%、米国は先行したものの伸び悩み約56%で日本は37%に上昇してきました。IMFによる4月時点の21年成長率予測と今回を比べるとワクチン接種で先行した国は上方修正(米国は財政政策も大きな押し上げ要因)、反対に出遅れた国は日本のように成長率予測が下方修正される傾向が見られます。

新興国におけるワクチン接種の拡大は鈍く、成長率予測が下方修正された要因となっています。加えて、回復が期待されていた東南アジア(インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム)でデルタ変異株の感染が急拡大したことも、足元の成長率予測に影響したと見られます。また、インドは足元では落ち着きが見られますが、デルタ変異株の感染が急拡大したことから21年の成長予測は9.5%へと大幅に下方修正されました。

新興国の低所得国におけるワクチン接種率は人口比で1%程度とIMFは指摘しています。ではどの程度まで接種率を高めるべきか?IMFを含む国際機関は21年末で40%、22年末で60%を目標としています。40%の目標ラインに達するのに必要な1日あたりの接種ペースと、最近の接種ペースを比べて足元の接種率が目標へのペースを上回る国(緑)と、下回る国(グレー)を色分けして図表2に示しましたが、接種率が低い国は全体の半数近くにのぼります(図表2参照)。今後、ワクチン接種支援が国際的なテーマの1つとなりそうです。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応