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- エルサルバドル、ビットコイン法定通貨の代償
ビットコインを法定通貨とした中南米のエルサルバドルの格付けが引き下げられました。格下げの背景として同国の債務返済リスクが指摘されています。エルサルバドルは資金調達先に乏しく、国際通貨基金(IMF)の支援が必要と見られますが、IMFは同国がビットコインを法定通貨にしたことに難色を示しています。格下げにビットコインの法定通貨化が影響したといえそうです。
エルサルバドル:ビットコインを法定通貨としたエルサルバドルが格下げ
フィッチ・レーティングス(フィッチ)は2022年2月9日、中米エルサルバドルの格付けについて、投機的水準(BBB-を下回る格付け)にあるB-からCCCへ引き下げることを発表しました。声明で引き下げの背景としてエルサルバドルが直面する債務返済負担を指摘しています。また、同国が昨年、暗号資産ビットコインを法定通貨に採用したことに伴うリスクを理由に挙げています。
エルサルバドルは21年9月7日にビットコインを世界で初めて法定通貨に採用しました。採用時点のビットコイン価格は概ね46800ドル程度でした(図表1参照)。ビットコインの価格はその後乱高下しています。
どこに注目すべきか:ビットコイン、法定通貨、格下げ、IMF、融資
最初に、エルサルバドルによるビットコインの法定通貨化を振り返ります。エルサルバドルのブケレ政権は昨年6月にビットコインを法定通貨とする法案を議会に提出、賛成多数で可決されました。その後法案が成立したことでビットコインが世界で初めて法定通貨となりました。
エルサルバドル政府は公式の電子財布(デジタルウォレット)である「CHIVO(チボ)」を設け、登録者には30ドル相当のビットコインを配り導入を進めました。なお、スペイン語のCHIVO(チボ)には様々な意味がありますが、動物のヤギの意味もあります。これは筆者の勝手な見解ですが、紙(紙幣)を食べることからこの名前にしたと想像しています。
エルサルバドルがビットコインを法定通貨とした後のビットコインの価格動向を見ると、通貨というには乱高下が激しくなっています。エルサルバドル政府は法定通貨としてからビットコインを購入したと報道されており、価格変動にさらされたこととなります。またエルサルバドルのブケレ大統領はビットコインの価格が下がった今年1月下旬に新たに追加購入したことも明らかにしています。エルサルバドルでは法定通貨であっても、国際的には暗号資産であるビットコインの価値の変動はやはり大きな課題となっています。
次に格下げについてです。今回のフィッチの前にも別の格付け会社であるムーディーズ・インベスターズ・サービスがエルサルバドルの格付けを引き下げました。格下げは昨年7月に行われ、理由としてビットコインの法定通貨の動きに懸念を表明しています。
フィッチの声明によればエルサルバドル格下げの背景は債務返済リスク懸念です。フィッチの推定では、エルサルバドルが債務返済などに必要な資金調達額は22年が約48.5億ドル、対GDP(国内総生産)比で約16%と見込んでいます。来年も54億ドル、対GDP比で18%程度と巨額です。一方、エルサルバドルは国際資本市場で資金調達する手段に乏しい上、国内市場からの資金調達も厳しい状況です。エルサルバドルが自力で返済資金を確保するのは困難と見られます。
そのため返済資金を確保するには、IMFの経済支援を求めることが(通常の)選択肢です。実際、エルサルバドルとIMFはすでに融資を巡る条件に関する協議を進めてきています。その中でIMFはエルサルバドルがビットコインを法定通貨としたことについて撤回、もしくは法制化の範囲を狭めることなどの再考を求めています。IMFも低所得者層の金融アクセスが高まる可能性などに一定の理解を示しています。同地域からは海外に出稼ぎをする人も多く、仕送りに海外送金が多く利用されています。エルサルバドルでもGDPに占める海外からの送金の割合は高く、その手数料の削減にビットコインが役立ちそうです。しかし、メリットは認めつつもIMFは金融の安定や消費者保護に大きなリスクがあるとしてあくまで反対の姿勢です。
一方、エルサルバドルのブケレ大統領は昨年11月に戦略都市「ビットコインシティー」を建設する計画を表明しています。また最近でも、エルサルバドル政府はビットコインを裏付けとする「火山債」を今年3月前半に発行する計画を表明しています。ビットコイン推進の立場に変化はないようです。
仮に、このまま議論が平行線となれば、エルサルバドルの債務返済リスクも懸念されるだけに、今後の協議の展開には注意が必要です。
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