Article Title
ブラジルレアル、足元は堅調
梅澤 利文
2022/04/01

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ブラジルレアルが堅調に推移しています。ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受け新興国通貨の中には下落した通貨もありますが、レアルへの影響は小幅で、足元まで上昇傾向を維持しています。レアルの上昇を支えた要因として、高金利政策、資源価格の上昇、交易条件の改善などがあげられます。ただ今後の展望を占うと政治動向が懸念要因と思われます。



Article Body Text

ブラジル:9会合連続で利上げ、インフレ率上昇懸念を受け次回の利上げも予告

 ブラジル中央銀行は2022年3月22日に今月15-16日に開催した金融政策決定会合の議事要旨を公表しました。会合では、政策金利を1.0%引き上げて11.75%にすることを決定しました(図表1参照)。利上げは9会合連続で、委員全員一致での決定でした。ウクライナ情勢の緊迫化でエネルギー価格に上昇圧力がかかる中、ブラジル中銀は5月に開催予定の次回の会合でも同程度の幅で利上げをすると述べ、タカ派(金融引締めを選好)姿勢を維持しました。

ブラジル地理統計院が3月25日に発表した3月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)は前年同月比で10.79%となりインフレ圧力の継続が示されました(図表2参照)。

どこに注目すべきか:資源国、鉄鉱石、政策金利、実質金利、ロシア

先進国と新興国の主要通貨の対ドルパフォーマンスをロシアの軍事侵攻開始から今日まででランキングすると、上位にはブラジルを筆頭に南米の資源国や南アフリカが並んでいます。また、オーストラリアやカナダなど先進国の資源国も上位に顔をそろえています。

そこでブラジルを取り上げ、レアル上昇の背景を振り返ります。レアル高要因を振り返るため、ブラジルの代表的な資源である鉄鉱石の価格を見ると昨年終わりから回復傾向です(図表3参照)。レアル高が進行した時期に先行して鉄鉱石価格は回復しており、レアルのプラス要因と見られます。

なお、鉄鉱石価格変動の背景には中国景気の動向が深く関連していると思われます。昨年前半は中国で不動産市場などでの規制強化が景気を押し下げました。これに沿うように鉄鉱石価格などが下落し、レアル安となりました。しかし昨年終わりごろから中国当局が過剰な規制を緩和したことは資源価格とレアルの回復に寄与したと見られます。

次に、レアルの(恐らく)最大の押し上げ要因はブラジル中銀の高金利政策です。「高い」水準は政策金利がインフレ率の約10.8%を上回っている点に見られます。今後を展望すると、ブラジル中銀は22年のインフレ率を7.1%、23年については3.4%と見込んでいます。また、市場の期待インフレ率は概ね5%半ば程度であることから、ブラジルの実質政策金利は6%程度と見られます。一方ブラジル中銀が推定する中立金利(引き締めと緩和の境目の目安)は3.5%程度で、レアルは名実共に高金利通貨と見ています。

最後に、ブラジルの輸出相手国を見ると上位25ヵ国にロシアは見当たりません。ロシアからの輸入は15位前後で多少存在感はありますが欧州などに比べ影響は相対的に少ないと見られます。市場でも通貨の選別をするうえでロシアとの貿易関係を重視しており、この要因もレアルにプラスです。

もっとも、レアルの今後の展開を占うと、高金利政策は景気下押し要因であることに注意が必要です。そして最大の懸念要因は秋のブラジル大統領選挙です。仮に選挙の争点が財政政策の拡大となれば、レアル安に転じる懸念もあるだけに今後の展開に注意が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応