- Article Title
- ブラジルレアル、利下げで大丈夫?
ブラジルレアルはメキシコペソなどと並んで高金利通貨として堅調な推移を維持してきました。インフレ率の低下を受けブラジル中銀は一足先に利下げに踏み切ったことはレアルの下押し要因とみられます。しかしながら、ブラジルの景気の底堅さ、財政改革の進展、利下げについても慎重に進めるブラジル中銀の金融政策運営などがレアルを下支えする要因となっているとみています。
ブラジル中銀、インフレ率の低下などを受け2会合連続で利下げ
ブラジル中央銀行は2023年9月19-20日に開催した金融政策決定会合で、市場予想通り政策金利を13.25%から12.75%に引き下げることを決定しました(図表1参照)。ブラジルの消費者物価指数(IPCA)の8月分は前年同月比で約4.6%上昇と、昨年ピークを付けた時の12%台から大幅に低下しています。インフレ率の鈍化傾向が続く中、2会合連続の利下げとなりました。
ブラジル中銀は声明文で今回の利下げは9人の委員が全員一致で決定したこと、今後数会合で同規模の追加利下げを予想すること、などが示されました。なおブラジル中銀の年内残りの会合は2回予定されています。
ブラジルの景気は底堅く、財政状況に改善がみられる
ブラジル中銀の声明文にあるフォワードガイダンス(政策金利の方針)から判断して、年内追加利下げを決定する可能性が高いとみられます。通貨レアルは利下げ開始に伴いやや軟調となっています。しかしながら、レアルが大崩れする可能性は、今のところ低いようにみられます。レアルの下支え要因を振り返ります。
足元の話として、ブラジル景気の底堅さが挙げられます。ブラジルの4-6月期実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比3.4%増と、前期は下回ったものの、市場予想の2.7%増を上回りました。高水準の政策金利は景気の下押し要因ですが、一方で堅調な労働市場、財政支援、クレジット市場の改善などが成長率の押し上げ要因とみられます。需要項目を見ると個人消費が前期比0.9%増と1-3月期の0.7%増を上回りました。輸出も前期比2.9%増と堅調でした。個人消費は低所得者向けの現金給付など財政政策による底上げがあった点は割り引く必要はありそうですが、高水準の政策金利下で底堅い成長率を見せたことから、急速かつ大幅な利下げが必要ということでもなさそうです。
次に、ブラジル財政の改善もレアルの下支え要因とみられます。ブラジルのルラ政権は左派のイメージとは裏腹に、財政改革に前向きです。ブラジル連邦議会下院は8月22日、市場が注目していた新たな財政規則を承認(上院はすでに通過)しました。この財政規則は歳入増加額の7割を歳出増の上限とするなど歳出抑制を意図しており、歳出増に一定の歯止めがかかることが期待されます。なお、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の目標を達成できない場合、歳出増の上限は歳入増加額の7割ではなく5割と一層厳しくなるよう設計されています。ブラジルの財政状況を債務残高対GDP比率でみると、コロナ禍で拡大(悪化)した同比率は足元70%台まで低下するなど改善がみられます(図表3参照)。
ブラジルの財政改革や景気回復を受け格付けも引き上げられた
ブラジルの格上げもレアルの支援材料です。フィッチ・レーティングスは7月にブラジルの信用格付けをBB-からBBに格上げしました。その他の主要格付け会社をみると、ブラジルの格付けは現段階ではBB格で、投資適格格付け(一般にBBB格)を下回っています。仮に格上げが続くようであれば、ブラジルへの資本流入も期待されます。
ブラジル中銀の金融政策運営もレアルの下支え要因とみられます。ブラジル中銀は昨年夏に12%台にまで上昇したインフレ対応として、大胆かつ透明性の高い金融政策運営を行ってきました。政策金利は昨年8月から利下げ前まで13.75%とい高水準に維持しました。
昨年後半にインフレ率は減速の兆しを示し始めましたが、年初に発足したルラ政権の財政運営を見定める必要があったことや、エネルギーなど変動の大きい項目を除いたコアインフレ率の減速は限定的であったこと、期待インフレ率の落ち着きがみられなかったことなど明確な理由を述べ高水準の政策金利を維持しました。最近の利下げも、財政改革の進展などを確認したうえで実施しています。市場のブラジル中銀のこれまでの運営手腕に対する信頼感は高いと思われます。
レアルに盲点はないのか?これまで下支え要因として説明してきた景気回復、財政改革、格上げ、金融政策への信頼感、このどれもが逆の動きとなった場合はレアルの悪材料になる懸念はあります。例えば、景気回復も個人消費は財政支援の下支えがあったからともいえますし、輸出は中国景気が悪化した場合、停滞する懸念も残ります。これらの悪材料が起こりうるのか、予測はできませんが、レアルの動向を占ううえで注目すべき要因と考えています。
ブラジルレアルはメキシコペソなどと並んで高金利通貨として堅調な推移を維持してきました。インフレ率の低下を受け一足先に利下げに踏み切ったレアルは、利下げが下押し圧力となるとみられます。しかし、今のところ大崩れを防ぐ要因も確かにあるようです。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。