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米雇用統計レビュー:メニューの多さに目移り
梅澤 利文
2023/10/05

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概要

9月の米雇用統計発表を前に、求人件数や、ADP雇用報告、その他の雇用に関連する指標が発表されました。全体としては米国雇用市場の堅調さが示唆される一方で、賃金などは緩やかながら減速傾向でメッセージは様々です。そうした中、雇用統計への注目が高まりますが、米国債市場の動向を占ううえでは米国債の需給や商品市場など関連する多くの要因に注意が必要です。




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米国8月の求人件数と、9月のADP雇用報告の主な指標は対照的な結果

米労働省が2023年10月3日に発表した8月の雇用動態調査(JOLTS)によると、非農業部門の求人件数(季節調整済み、速報値)は961万件と、市場予想の881.5万件、前月の892万件(速報値の882.7万件から上方修正)を大幅に上回りました(図表1参照)。

米民間雇用サービス会社ADPが4日に発表した米雇用報告で、非農業部門雇用者数(以降は雇用者数、政府部門を除く)は前月比で8.9万人増と、市場予想の15万人増、前月の18万人増(速報値の17.7万人増から上方修正)を大幅に下回りました。伸び幅は2021年1月以来、約2年8ヵ月ぶりの低水準となりました。

求人件数は市場予想を大幅に上回ったが、他の指標にも注意が必要

米10年国債利回りは4日のニューヨーク時間に一時4.8%後半で取引されるなど利回りは上昇がみられました。しかし5日の東京時間には4.7%前半で取引されるなど変動が大きくなっています。変動要因には原油価格の動向など様々ですが、最近の雇用関連データも一役買っているとみられます。最近の主な雇用関連データを振り返りながら、本丸である金曜日に米労働省が発表する雇用統計のポイントのプレビューとします。

まず、8月の求人件数は市場予想を大幅に上回りました。米国はこの夏、景況感指数など一部が改善していることとも整合的です。ただし、求人件数は月ごとの変動が大きいため、来月以降の動きを見ることも必要です。また、同時に発表された離職率(自発的な就職活動の活況度の目安)は2.3%と前月から横ばいでした(図表2参照)。加えて米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が参照しているとされる、失業者1人に対する求人件数は1.51件と前月を下回り労働市場の過熱感が緩やかながら減速が示されています。これは8月の失業者数が前月に比べ50万人以上も増加したためで、レイオフも一部あるとは思われますが、最近の労働参加率の上昇傾向から、労働市場への新規参入も想定されます。この想定が正しければ、タイトな労働市場に前向きな変化が起きていることも考えられます。

もっとも、先週発表された新規失業保険申請件数は市場予想を下回るとともに、低下傾向を維持し、労働市場がタイトであることが示されました(図表3参照)。また、2日に発表された9月の米ISM製造業景況指数、その構成指数である雇用指数が51.2と前月を大幅に上回りました。このように雇用に関連した指標が続いた後では、JOLTSでも、市場予想を大幅に上回った求人件数に目が向いてしまうのも、無理からぬことかと思います。

ADP雇用報告などを受け、米国債利回りは低下したが、持続性は不透明

ただし、4日の米国債市場には主に2つの指標、ADP雇用報告とISM非製造業景況指数を受け若干落ち着きが戻りました。 9月のISM非製造業景況指数は53.6と前月を下回り、構成指数の1つである雇用指数も53.4と、前月の54.7を下回り、小幅ながら雇用環境の悪化がみられました。

また、9月のADP雇用報告では、雇用者数が前月比8.9万人増と、市場予想を大幅に下回りました。規模別では大企業による雇用は前月比マイナスで削減が示されました。報道などで大企業のリストラが伝えられていることとも整合的です。一方で、部門別の雇用者数の増減をみると、9月は娯楽・接客部門が前月比9.2万人増と最も雇用を増加させています。しかし8月は先月、同部門は約3万人増にとどまるなど、月ごとの変動が大きくなっています。ADP雇用報告の雇用者数は月ごとのばらつきが大きい点に注意が必要とみています。

なお、ADP雇用報告による賃金データでは、同じ職にとどまった人、転職した人の賃金がともにこの2年ほどで最も低い伸びにとどまっています。賃金は緩やかな減速傾向にあるようです。

雇用関連の指標を順にみてきましたが、最後のADP雇用報告やISM非製造業景況指数は米国債市場のゲームチェンジャーになるでしょうか?筆者はおそらくその可能性は低いと考えます。労働市場のデータは金曜日に発表される雇用統計が本丸であり、確認したい点は多く残されているうえ、内容によっては9月の雇用統計でも不十分といったことも考えられます。

米国債市場の動向を占ううえでは、雇用関連の指標に加え、インフレ率や景気など他の経済指標や、国債需給、原油価格、FRBの政策姿勢に注目しています。原油価格は上昇が急ピッチであったことなどから昨日急落しましたが、上昇懸念はくすぶり続けると思われます。米国の財政状況が悪化する中、国債の消化を占ううえでも来週の国債入札に注目しています。金利上昇が他国の市場にまで影響を与えつつある中、FRBの発言に変化があるのかなど、今後の注目点は多く、筆者には米国債市場の動向を決め打ちできていません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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