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パウエル議長発言、FOMC前の注目イベントの結末
梅澤 利文
2023/10/20

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概要

次回の米連邦公開市場委員会(FOMC、10月31日~11月1日)を控えFRB当局者が金融政策を公式に発言することを控えるブラックアウト期間直前のパウエル議長の講演は市場の注目を集めました。パウエル議長は追加利上げを選択肢として残しつつ、最近の米国長期金利の上昇による経済などへの影響にも配慮を示しました。今後の金融政策はデータ次第の様相が強まりそうです。




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FOMC前、最後の発言として注目されたパウエル議長の講演

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2023年10月19日にニューヨークでのイベントで講演し(図表1参照)、今後の金融政策運営について「不確実性とリスク、これまでの道のりを考えて注意深く進めている」と発言しました。次回の米連邦公開市場委員会(FOMC、10月31日~11月1日)では政策金利を据え置く姿勢をのぞかせました。パウエル議長はまた、米国長期金利の上昇がもたらしている金融環境の引き締まりにも言及し、「金融環境の変化が根強く続けば、金融政策の道筋に影響を与え得る」と説明しました。

一方でパウエル議長は、経済の高成長や雇用の逼迫が続けば「さらなる金融引き締めが正当化される」とも述べ、追加利上げの可能性があることを強調しました。さらに、質疑のなかでパウエル議長は「今の金融政策の引き締め方がきつすぎるとは思わない」と述べ、安易に利上げ打ち止め観測が広がることに釘を刺しました。

市場では、次回FOMCでの政策金利の据え置き予想に対する確信度合いは高まった一方で、追加利上げ(12月もしくは来年1月)は選択肢として一応残すとともに、高水準の政策金利が長期間にわたり維持されるとの見方が強まり、米10年国債利回りは5%をうかがう展開となっています。

パウエル議長は次回FOMCの据え置きを示唆するも追加利上げ含み

仮に次回のFOMCで政策金利が据え置きとなれば、9月に続き2会合連続の据え置きとなります。そのため、市場に安易な利上げ打ち止め観測が広がる懸念もありましたが、その点について、パウエル議長は手綱を緩めなかったとみられます。しかしながら、全体的なトーンは、最近の他のFOMC参加者、例えばジェファーソン副議長やサンフランシスコ(SF)連銀のデーリー総裁などと同様に米長期金利上昇の金融引き締め効果に注意を払い、講演全体で、引き締め姿勢と引き締め過ぎの双方に配慮していることがうかがえます。

もっとも、インフレ率や賃金上昇に減速感を認めつつも追加利上げを選択肢として残す背景は、夏ごろからの相対的な米長期金利上昇の背景に、米国景気の想定外の強さや、インフレ率再上昇の可能性が最近のデータに表れてきたためと考えられます。この点を考えるため、18日のウォラー理事の発言を参照します。

米長期金利上昇の背景を慎重に確認する必要がある

ウォラー理事も、これまでの利上げによりインフレ率や賃金上昇が、水準は高いが、減速傾向であると認識しています。そのうえで、最近の米国景気の強さや、消費者物価指数(CPI)上昇に言及しています。景気についてはアトランタ連銀が算出するGDP NOWの予測では18日現在で7-9月期のGDP(国内総生産)成長率は前期比年率5.4%増となっています。インフレ率についても住居費と住宅関連を除いたサービス価格が9月に前月比で上昇したことなどに警戒心を示しています。

これに対し、どのように対応すべきか? 考え方として①この夏のインフレ率や景気の強さは再加速の出発点である、②一時的な改善である可能性があるため今後のデータを待って対応する、を示しています。①であるなら、すぐにも利上げが必要でしょうが、①なのか、②なのか判断できないため、データを待つ姿勢です。

②の一時的な改善の例は経済データでは時々見られます。ウォラー理事はPCE(個人消費支出)が今年1月前月比で1.6%増と急伸したことなどを引き合いに出しています(図表2参照)。消費の拡大は金融引き締め局面でも短期的に(維持不可能な)高い伸びを示すこともあるようです。なお、PCEは足元では前月比0.4%とPCEの長期平均と同等の水準となっています。ウォラー理事は単月や、GDPであれば1四半期の数字で誤った判断をしないことの大切さを指摘していますが、これはパウエル議長らの金融政策を「慎重に進める」との発言と整合的とみています。①であれば追加利上げも辞さない覚悟ながら、その判断は選択肢として残しているのが現在のFRBの基本的スタンスとみています。

では、市場が懸念する米長期金利上昇の背景は想定以上に強い景気とインフレだけでしょうか?

恐らく、エネルギー価格上昇と財政政策を要因に加えるべきと考えます。9月のCPIは住居費などの上昇が指数を押し上げましたが、エネルギーの寄与度は比較的小幅でした。最近の原油価格上昇の影響が気になるところです。

米国の財政政策は拡大傾向で、国債発行など懸念は山積みです。イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突で米国はイスラエルに対する全面的な支援を表明しています。また、ウクライナに対しても支援の継続を表明しています。軍事衝突の先行きが見通せない中、潜在的な財政赤字拡大懸念は根強いとみられます。FRBが直接、財政政策への懸念表明には消極的かもしれませんが、市場は米国財政政策の内容を注視していると思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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