Article Title
FOMCはややハト派寄りだったが、慎重姿勢は維持
梅澤 利文
2023/11/02

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

パウエル議長は急上昇した米長期金利が金融環境へ与える影響に言及し引き締めのスピード調整を試みました。また国債需給が不安視される中、米国債発行計画にも配慮が見られました。しかし物価の落ち着きはまだ先で、国債増発の根本原因である財政赤字拡大に至っては改善の兆しも見られません。FRBは安易に緩和姿勢を見せるわけにいかず、今後の展開を注意深く見守る方針と思われます。




Article Body Text

FOMCの声明文で、金融環境の引き締まりが指摘された

米連邦準備制度理事会(FRB)は2023年11月1日まで開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で市場予想通り政策金利の据え置きを決定しました。声明文には、米長期金利の上昇を念頭に置いたとみられる(図表1参照)、金融環境の引き締まりを示唆する文言が新たに加えられました。

政策金利の据え置きは今回で2会合連続となります。前回のFOMCでは年内1回の追加利上げが示唆されました。しかし今回の会見でFRBのパウエル議長はなお年内の追加利上げを見込んでいるのかとの質問に対し、「答えを求めているのは『さらに引き上げるべきか』という問いだと言えよう」と答えるにとどめ明確な方針を示さない一方で、利上げを今後の選択肢として残しました。

パウエル議長は米長期金利上昇による金融引き締めの効果を認める

今回のFOMC直前のパウエル議長やFOMC参加者の発言を勘案すると、FOMCでのテーマは、最近までの米長期金利上昇による金融引き締めが金融政策に与える影響についてとみられます。また、長期金利上昇の背景となった7-9月期の米国経済の回復は景気再加速の始まりなのか、それとも一時的かの見極めも関心のあるところです。なお、長期金利上昇の背景として米国債需給の悪化も重要な要因ですがこれは最後に述べます。

長期金利や信用スプレッドなどで構成される金融環境指数を9月末まででみると引き締まり度合いは強まっていました(図表2参照)。米長期金利は10月に一段と上昇する局面もあったことから、さらなる引き締まりも想定されます。なお、図表2の太実線はサンフランシスコ連銀が算出する代替レートで量的金融引き締め(QT)の効果などを加味したフェデラルファンド(FF)金利の水準を示す代替レートです。足元で代替レートが実効FFレートを上回っており、現在のFFレートは引き締め水準であることが示唆されています。

政策金利は引き締め水準とみられるものの、7-9月期の経済指標は追加利上げがあってもおかしくない堅調さでした。ただし、重要なのはこの堅調さが一時的なもののか、それとも再加速の始まりなのかの見極めです。筆者は声明文の雇用に関する文言に注目しました。何故なら雇用について9月は減速と表現し、今回は緩やかと最近の雇用の伸びを背景に上方修正しましたが再加速までは確信が持てない表現となっていたからです。

パウエル議長が会見で米長期金利の上昇による金融引き締めへの影響を明確に述べたことからも、長期金利の上昇が今回、政策金利の据え置きを決定した要因とみられます。もっとも、長期金利上昇の一因である7-9月期の景気回復が一時的なものなのか、それとも今後も継続するかの最終判断には至っておらず、追加利上げの選択肢を残しました。その意味で、利下げの時期についてはまだ考える段階ではないと筆者は認識しています。

昨日の長期金利の低下の背景にはFOMC以外の要因もありそうだ

11月1日の米国債市場では10年国債利回りが大幅に低下しました。FOMCのトーンがハト派(金融緩和を選好)的だったことが理由の一部ですが、他の要因がたまたま重なった面もあるようです。

まず景況感指数の悪化です。米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した10月の米ISM製造業景況指数は46.7と、市場予想、前月(共に49.0)を下回りました(図表3参照)。先行きを示す傾向がある新規受注は45.5と前月を大幅に下回りました。また、別の経済データでは、米民間雇用サービス会社ADPが発表した10月の全米雇用報告では、非農業部門の雇用者数(政府部門は除く)は前月から11.3万人増にとどまり市場予想を下回りました。またADP賃金データの伸びは鈍化傾向が続くなど、まだ判断をするには早すぎますが、景気回復は一時的であった可能性を示唆する指標が見られました。

最後に、1日の金利低下のおそらく最も重要な要因として米財務省の四半期国債発行計画が挙げられます。財務省の発表によると、来週の入札での3、10、30年債の発行額は計1120億ドル(約16兆9200億円)で、市場では1140億ドル(報道等を参照)程度が見込まれていました。

前回の四半期国債発行計画(8月2日)では、市場予想を上回る規模を示したことから国債利回りが上昇したことを教訓に、市場に配慮した可能性があります。しかも、確かに発行額の規模は前回の1030億ドルから増えてはいますが、内訳をみると3年債の発行規模をを前回から60億ドル増やした一方で、10年債は20億ドル、30年債は10億ドルの増加にとどめ長期セクターの利回り上昇に配慮を示す工夫をしています。もっとも、国債発行増の原因である財政赤字拡大に改善の見通しが示されたわけではなく、今後も注視は必要です。

FRBにせよ財務省にせよ、金利の急激な上昇に対しては注意を払いましたが、まだこの先も仕事は残されているようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、ルピア安定のための金融政策

メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う