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- ムーディーズ、米信用格付け見通しを引き下げ
米政府機関の閉鎖を回避してきた暫定予算が11月17日に期限切れとなるのを目前に、格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが米国の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。米国の財政状況は悪化しており、本来は与野党一体で財政の長期的課題に取り組むべきところですが、対立を繰り返すだけの米国政治に大きな課題が突き付けられた格好です。
ムーディーズ、米国の信用格付けの見通しを「ネガティブ」に引き下げ
大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス(ムーディーズ)は2023年11月10日、米国の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。なお、格付けは最上位の「Aaa(AAAに相当)」に据え置いています。
ムーディーズは発表文で、米国の信用格付けの見通しを引き下げた理由として、米国長期金利の上昇により、債務余裕度(debt affordability)が悪化することへの懸念などを指摘しています(図表1参照)。また、議会において民主党と共和党の間の二極化による政治的混乱が適正な財政政策の運営を阻害し、財政ガバナンスの低下を引き起こしていると指摘しています。
ムーディーズは信用格付けの見通し引き下げの背景に財政不安を指摘
米国の24年度(23年10月~24年9月)歳出法案に当面成立の見込みがない中、米連邦政府の政府機関の閉鎖を回避するため11月17日を期限に暫定予算の成立を目指し、共和党と民主党の政治的駆け引きが続いています。ムーディーズは9月25日に米政府機関が閉鎖に追い込まれれば、米国債は「信用面でマイナスだ」と既に表明していました。この表明から足元までの米国政治の動向を振り返ると、10月月初に共和党のマッカーシー下院議長(当時)の解任が決定され、現在のジョンソン米下院議長が選出されるまで混乱が続きました。ジョンソン議長は11日に暫定予算案を発表しましたが、17日の期限までに合意し、米政府機関の閉鎖を回避できるのか予断を許さない状況です。
暫定予算の期限切れとなるこのタイミングにムーディーズが米国の信用格付けの見通しを引き下げたのは政治的対立により二極化した議会や政府が、米長期金利上昇で悪化する財政問題に解決策を打ち出せないのではないかという懸念を表明したものと思われます。
財政悪化の尺度には債務残高対GDP(国内総生産)比率や財政赤字対GDP比率など様々ありますが、今回ムーディーズは債務余裕度(図表2参照)の悪化を指摘しています。長期金利の上昇が債務返済負担を増加させ、財政から余裕が失われる懸念を指摘しています。
ただし、金利上昇の背景は主に利上げですが、単に利上げを「悪者」にしているわけではないようです。過去の利上げ局面では利上げができる経済環境、つまり景気回復により歳入が増加し、財政が均衡する流れがあったと指摘しています。
しかし、米国財政は新型コロナウイルスへの対応などもあり財政状況は悪化しています。本来は、党派の対立ではなく、与野党が一体となって長期的に財政問題の解決に取り組むべき段階にあると思われます。ところが、暫定予算案の駆け引きを見ても、建設的な財政改善策は脇に置かれ、党派間の対立だけが表面化しています。
長期金利の構成要素として政策金利の見通し、期待インフレ率に加えてタームプレミアムが知られています。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は夏頃からの長期金利上昇の背景として、このあまり聞きなれない言葉であるタームプレミアムの上昇をあげていました。現局面でのタームプレミアム上昇は財政不安のリスクを反映したものである可能性が高いとみられます。パウエル議長は遠回しに苦言を呈したのかもしれません。
見通しの引き下げは必ずしも格下げを意味しないが、抜本的対応が必要
ムーディーズが米国の信用格付けの見通しを引き下げたことで、次のアクションとしては①米国財政状況が改善したと判断すれば再び「安定的」に戻すか、②格下げ、となることが通常です。また、比較的短期に格下げ判断をするネガティブウォッチと異なり、信用格付けの見通しをネガティブとした場合1年から2年程度の期間検討したのちに格下げを決定することが通常です。しかしながら、今回は暫定予算の期限切れ直前に発表された信用格付けの見通しの引き下げだけに、仮に暫定予算が成立せず、政府機関が閉鎖となった場合、ムーディーズがどのような対応をするのか予測しづらいというのが正直なところです。
米国の格付けはS&Pグローバル・レーティングやフィッチ・レーティングスからはAAA格を失っています。ただし、過去において米国がAAA格を失った際には、米国ドルや米国国債の金融市場における地位に影響はないとの見方などから、比較的早期に市場は落ち着きを取り戻しました。しかし、仮にムーディーズが米国をAAAから格下げすれば米国が最上級の格付けを大手3格付け会社すべてから失う事態となります。市場の反応はこれまでとは違ったものとなる可能性も考えておく必要がありそうです。
では当面、何に注目すべきでしょうか?まずは目先の暫定予算の期限である17日までに無事成立するかどうかです。仮に政府機関閉鎖などとなれば、米国財政不安の再燃が懸念されます。一方、無事成立してもおそらく短期のつなぎ予算で短期的な回避策が図られるだけであれば格下げ圧力は続くことが想定されます。このような短期的な回避策の繰り返しではなく、与野党一体となった財政改革がみられるかどうかが、今後の焦点であるとみています。
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