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パウエル発言で踊り続けるべきか
梅澤 利文
2023/12/05

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概要

12月のFOMCを前にした参加者の発言を振り返ると、12月のFOMCでは政策金利の据え置きが見込まれます。最近の経済指標も据え置きを支持する内容です。ただし、24年の金融政策運営となると、利下げに前のめりの市場と、データ次第の姿勢を維持する当局との間に微妙なずれもみられます。23年7-9月期の景気回復は一時的であった可能性もあり、景気動向の見極めが重要性を増しています。




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12月のFOMCを前にした当局のコメントは政策金利のピークアウト感を示唆

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2023年12月1日に、ジョージア州のスペルマン大学のイベントで講演し、利下げ議論は時期尚早と市場をけん制しました(図表1参照)。

FRBは12月12-13日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催する予定で、2日からはFRBが対外発信を控えるブラックアウト期間に入ることもあり、その発言内容に注目が集まっていました。

パウエル議長は利下げに前のめりの市場をけん制したが

パウエル議長の講演があった12月1日の米国債市場で利回りは大幅に低下しました(図表2参照)。パウエル議長が市場の利下げ観測をけん制したのは、先月ウォラー理事がディスインフレが続けば利下げは可能と踏み込んだ発言をしたことで、市場が(都合よい解釈で)利下げに前のめりとなっていたためです。しかしながら、パウエル議長の発言の中にも、引き締め不足と引き締め過ぎはバランスが取れていると述べていることや、足元の金融政策はかなり景気抑制的な領域に入っている、とも発言しており、前のめりの市場を説得するには至りませんでした。

他のFOMC参加者の発言を見ても、インフレ再加速に備え追加利上げの選択肢は残すものの、政策金利はピークに近いとの考えが大半です。従来タカ派(金融引き締めを選好)的とみられていたクリーブランド連銀のメスター総裁が政策金利の据え置きを支持しているのが象徴的です。また、以前は複数回の利上げを支持していたボウマン理事も利上げのトーンは和らいだ印象で、全体的にFOMC参加者のタカ派姿勢後退がうかがえます。

一方で、利下げを積極的に支持する発言も見当たらないように思われます。先のウォラー理事にしても利下げはインフレ率が低下を続けた場合という条件付きであることに注意は必要です。インフレ率の減速傾向は明確ながら、依然水準は物価目標を上回っています。金融環境をあまりに緩めすぎることに当局は警戒感があるように思われます。10月末までの米長期金利上昇局面に対して、パウエル議長は金融環境の引き締まりを指摘し、その後の金利低下を促した経緯があります。12月1日のコメント全体のトーンは、現段階で米長期金利が一気に3%台にまで低下するような動きには注意を払っているようです。

時として、市場は金融当局の意向から大きく外れることがあります。22年6月のFOMCでインフレ抑制に向け引き締め姿勢を強めるシグナルを送ったものの、市場は景気後退を織り込み、長期金利は大幅に低下したことがその一例です。金融当局の意向と市場の思惑が一致しないのはよくあることながら、極端な違いには注意が必要です。

足元に違いがみられるのは来年の利下げ開始時期と回数です。先物市場などに示される市場の利下げ予想によると24年前半の引き下げが見込まれています。当局の24年の利下げ想定は12月のFOMCのドットチャートに示されますが、市場の予想と違う可能性もあり、注目する必要があります。

最近の米経済指標は景気減速、インフレ鈍化を示唆

パウエル議長の1日の発言は、利下げ観測を強くけん制しなかったとして米国債利回りの低下要因となりましたが、最近の米経済指標も利回り低下を後押しする要因とみています。同日に発表された米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した11月の米ISM製造業景況指数は46.7と前月と変わらず、市場予想の47.8を下回りました(図表3参照)。景気拡大・縮小の目安となる50を13ヵ月連続で下回ったことから製造業は景気後退に直面しているともみられそうです。構成指数では、雇用が45.8と前月の46.8を下回り(悪化)ました。

製造業の先行きを反映する傾向がある新規受注は48.3と、前月の45.5は上回りましたが、これにより同指数は15ヵ月連続で50を下回りました。利上げの影響を受けやすい製造業には高金利は下押し圧力となっているようです。パウエル議長が述べたように金融政策はかなり景気抑制的な領域に入っているようです。

米国経済は7割程度が消費で占められますが、7-9月期の個人消費は想定を上回る強さでした。ただし、パウエル議長の講演前日に発表された10月の米個人消費支出(PCE)は前月比0.2%増と、前月の0.7%増を下回りました。これまで消費を押し上げてきた過剰貯蓄も減少したとみられ、好調だった個人消費にも陰りが見られ始めています。

筆者は来年の米10年国債の想定利回りを検討中ですが、3%台に低下するには、早期の利下げ開始と消費の減速が注目ポイントとみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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