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- 米大統領選だけでない、24年は新興国も選挙の年
24年、主要新興国で重要な選挙が予定されています。新興国といっても幅広く、依然債務問題が深刻で国際通貨基金(IMF)の支援頼りの国もある一方で、主要新興国は過去の(苦しかった)経験に対する反省から構造改革を進め、一部にその成果も現れ始めています。しかし構造改革は長期戦で政策の(体制が変わっても)継続性が求められます。この観点から来年の新興国の選挙に注目しています。
S&P、ブラジルの構造改革への取り組みを評価し格付けをBBに引き上げ
格付け会社S&Pグローバル・レーティング(S&P)は2023年12月19日、ブラジルの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)をBB-からBBに格上げしました。S&Pは格上げの理由として、ブラジル議会が税制改革を承認したことで、同国が16年から取り組んできた構造改革の有効性が裏付けられたためと説明しています。
ブラジルの信用リスクに対する市場の評価を測る目安として、同国が発行したドル建てソブリン債券利回りと、米国国債利回りとの格差(スプレッド)をみると、12月20日時点で201bp(1bp=0.01%)となっています。新型コロナウィルスによる影響を除けば、ブラジルの構造改革に対する取り組みを市場は概ね前向きに評価しているようです。
新興国の中には、過去の通貨安局面を機に構造改革に取り組む国もある
24年のイベントに思いを巡らせれば、最初に思いつくのは米国大統領選挙かもしれません。しかし、来年は新興国でも重要な選挙が予定されています(図表2参照)。先のブラジルの格上げでも示されているように、財政政策、もしくは政治は新興国経済の動向を左右する傾向があります。新興国の主な選挙について、最近の結果と今後のスケジュールについて注目点を振り返ります。
過去の選挙では22年10月にブラジルで左派のルラ氏が当選し、今年1月に就任しました。左派政権の誕生で財政改革路線の後退が懸念されましたが、これまでのところブラジルでは改革路線が概ね維持されています。
これはブラジルに限りませんが、2010年代は新興国全般に受難の時でした。フラジャイル5(2013年に米大手金融機関がレポートで経常赤字、高水準のインフレで苦しむ5ヵ国に対して命名)などという言葉をご記憶の方も多いことでしょう。多くの新興国で通貨安が進行し、結果としてインフレ再加速、景気は悪化、財政も悪化して、再び通貨安が進行するという悪循環に陥りました。
困難な事態に直面して、多くの新興国は構造改革に着手しました。例えば、今回S&Pはブラジル格上げの理由として、16年から取り組んだ財政改革の成果を評価したと説明しています。財政改革は長期にわたるプロジェクトでもあり、政策の一貫性が求められます。選挙は政治体制や政策方針を変えるリスクがあるため注視する必要があります。
なお、今年5月のトルコの大統領選挙では体制が変わらなかったことが市場を一時悪化させましたが、これはむしろ例外と見るべきでしょう。
新興国の選挙、国によりテーマは様々だが現政権の路線継承が焦点
政権の変化という観点で24年の選挙予定を見ると、インドネシアとメキシコは現職大統領が選挙に出馬できない点で注目されます。
インドネシアのジョコ大統領は庶民派で人気があり安定的な政権運営をしてきましたが憲法の規定で出馬はできません。来年2月に予定されている選挙戦は主に3人の候補の争いです。最大与党・闘争民主党が擁立するガンジャル氏はジョコ路線の継承を訴えています。一方、過去の選挙ではジョコ大統領のライバルであったプラボウォ候補は、驚いたことにジョコ大統領の長男を副大統領候補としてジョコ路線を訴えています。選挙は誰がジョコ路線の継承者なのかが争点とみられます。
メキシコは依然高い支持率を誇るロペスオブラドール大統領も出馬できません。来年の選挙は与党・国家再生運動(MORENA、左派)から出馬するシェインバウム候補と、野党3党の統一候補ガルベス候補の一騎打ちが濃厚です。メキシコはグローバルサプライチェーン再構築の主要国となっていまが、その背景はロペスオブラドール大統領が左派色の強い政策を繰り出しつつも、米国とは現実的な関係を保つ政権運営をしたからです。現政権の路線維持が選挙の争点となりそうです。
南アフリカは総選挙後、下院議会が大統領を選出するため、現与党のアフリカ民族会議(ANC)が過半数の議席を確保するかが焦点です。ANCはアパルトヘイト(人種隔離)廃止を先導したことから人気が高く、1994年に行われた全人種参加選挙から一貫して政権を維持してきました。しかし最近は電力供給不安など経済運営に対して国民の不満も高まっています。ANCが過半数を確保して安定的な政権が生まれるかに注目が集まりそうです。
インドはモディ首相が24年の総選挙(下院選)での勝利と3選(仕組み上は選挙後、大統領が任命)を目指しています。11月に行われた5つの州の州議会選挙では、主要3州でモディ首相の母体である国政与党のインド人民党(BJP)が総選挙で対立する国民会議派(INC)を破り、勢いがみられます。また、現地報道の世論調査によるとBJPが総選挙で過半数の議席を確保する可能性が指摘されています。モディ政権のこれまでの経済運営など実績が評価されていると見られます。
もっとも、BJPは5月に実施されたカルナタカ州の議会選で大敗しました。敗因としてBJPの強引ともいえる政策運営に批判がある点も見逃せません。また人気を維持するためなのか、モディ政権はこの夏インドのインフレ抑制を意図してコメ輸出禁止という、評判の悪い政策も実施しました。3選に向け順風満帆に見えるモディ政権ですが、政治リスクには常に目を向ける必要もあるようです。
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