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- 日銀、マイナス金利解除に向け一歩前へ
24年最初の日銀金融政策決定会合は市場予想通り金融政策は現状維持でした。しかし、展望レポートや、植田総裁の会見などから、今後のデータ次第ながらマイナス金利政策の解除に近づきつつあることも示唆されました。日銀の政策を占ううえで、これから本格化する春闘の動向が注目されます。当面はチャレンジングな状況が続くものと思われます。
日銀、1月の金融政策決定会合はマイナス金利解除に一歩踏み込む内容
日銀は24年1月23日まで開催した金融政策決定会合で市場予想通り一連の大規模金融緩和政策の維持を決定しました。しかし、同日に発表した、日銀政策委員の経済見通しなどを示す「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」(図表1参照)や、日銀の植田総裁の記者会見においては、マイナス金利政策の解除に向けて、従来に比べやや踏み込んだ内容が示唆されました。
展望レポートでは25年度のコア消費者物価指数(CPI)が前年度比で1.8%上昇と、前回(23年10月)の1.7%上昇から上方修正されました。24年度のコアCPIが下方修正された反動で、25年度が上方修正されたという面はあるものの、市場において注目された内容の1つです。
展望レポート、植田総裁の会見にマイナス金利解除の兆しも見られた
前回(23年12月)の日銀の会合ではマイナス金利解除のヒントは限られていましたが、今回の会合では解除近しを思わせる内容が含まれました。筆者のメインシナリオではないものの、場合によっては解除時期が次回の3月会合へ前倒しされる可能性もゼロではないようなものも含まれます。
マイナス金利解除に近づいたと見る主なポイントは報道などでもカバーされていますが、筆者は展望レポートと植田総裁の会見の中から、特に次の点に注目しました。
前回の展望レポートでは、物価の先行きについて「「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくと考えられる。」と表現されていました。しかし今回はこの表現の後に、「こうした見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっている。」という新しい文言が加わり、物価安定の確度が高まっていることが示唆されたのは目新しいと思われます。
展望レポートでは図表1にある政策委員の経済見通しからも「確度が高まっている」ことがうかがえます。物価について生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIを見ると、24年度、25年度ともに物価目標に近い1.9%で維持されました。時間が経過している中でのこの水準を維持することは、確度がが高まっていると考えられそうです。
次に植田総裁の会見の中で、マイナス金利解除が近いと思わせた点としては、総裁が次回3月会合での政策変更の可能性について問われた際、マイナス金利解除の有無については当然のことながら答えなかった一方で、3月までに「ある程度の情報は得られる」と述べています。これは前回の会合では次の会合(今回の会合のこと)までに「データはそれほど多くない」と述べ1月のマイナス金利解除の可能性を否定したのと対照的です。
なお、今回の会合では「確度は引き続き少しずつ高まっている」というキーワードに加えて、「不連続性が発生することは避ける」という言葉もキーワードと思われます。この言葉に対する市場の解釈の中には、マイナス金利解除導入時点のショックを和らげる短期的なとらえ方と、マイナス金利解除後も当面は金融緩和的な方針を維持するというやや長期的な解釈があるようです。筆者は後者のとらえ方をしており、マイナス金利を解除した後の政策金利の上昇は緩やかなものにとどまると見ています。いずれの解釈であれ、マイナス金利解除の地ならしを、この言葉で一歩進めた印象です。
植田総裁の発言でその他の注目点としてはマイナス金利解除の制約となると見られていた政治日程(4月28日衆議院補欠選挙)、米国金融政策、能登半島の地震の影響などについて現段階では金融政策の制約とならないと説明したことです。
今後のデータ次第ながら、年前半にマイナス金利解除の可能性がある
今回の日銀会合は、少なくとも前回の会合に比べマイナス金利解除への距離が近づいた印象ですが、何が変わったのでしょうか。植田総裁の会見からは、この点は明確とは言えません。しかし、賃金上昇が、確度を高めた要因として大きいように思われます。今年の春闘の賃上げ要求が明らかとなるのはこれからですが(図表2参照)、個別企業の賃上げ予定が一部すでに報道されています。不動産大手企業の中には定期昇給とベア、賞与を含め来年度の年収を平均10%程度引き上げる方針を発表したところもあります。また、流通や外食など人手不足が深刻な企業でも賃上げ方針が報道されています。日経平均がバブル後の高値も視野に入りつつある中、賃金上昇の確度は高まっている印象です。
次に、マイナス金利解除の有無を占ううえで、今後の注目点としては、まず今年の春闘の第1回回答集計(3月15日)があげられます。その前に組合側からの賃上げ要求などが報道されると思われることから、3月前半が1つの山場です。ただし、植田総裁は中小企業の動向にも注意を払っており、その場合は注目の時期は後ずれしそうです。
経済指標は幅広く注意する必要がありますが、4月1日の日銀短観の注目度は高いと思われます。昨年12月に発表された前回の短観では中小企業が改善し、特に製造業の業況判断指数(DI)が市場予想を上回りプラスに転じました。この勢いが続いているのかに注目しています。
今後の日銀会合の日程は、3月が18-19日、4月は25-26日に開催が予定されています。今後のデータ次第とはいえ、マイナス金利解除に近づいたことをうかがわせた今回の会合を受け、3月と4月の会合ではマイナス金利以外の政策も含め様々なシナリオを念頭に置く必要がありそうです。
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