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IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳
梅澤 利文
2024/04/22

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概要

IMFは24年の世界の経済成長率見通しを前回(1月)から0.1%上方修正しました。米国が大幅に上方修正され、新興国の一部も上方修正されました。世界的な中央銀行の金融引き締め姿勢にもかかわらず、短期的には景気の底堅さが示されました。しかし、中期的な経済成長率は低下傾向を示しています。その主な要因として、全要素生産性の低下と米中の対立による世界の「分断」が挙げられます。




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IMFの世界経済見通しで世界経済は24年は上方修正、25年は据え置き

国際通貨基金(IMF)は24年4月16日に四半期に一度の世界経済見通しを公表しました(図表1参照)。24年の世界経済成長率見通しを3.2%とし、1月時点の予測から0.1%引き上げました。なお、25年の成長率見通しは3.2%で据え置きでした。

個別国・地域について、先進国の中で大幅に上方修正された国は米国(24年2.7%、25年は1.9%と、各々0.6%、0.2%引き上げ)でした。一方、ユーロ圏は24年、25年ともに下方修正されました。

新興国では、中国の成長率見通しが24年、25年ともに据え置かれた一方で、ブラジルなどは上方修正されました。新興国全体の成長率は24年が小幅な上方修正で、25年は据え置かれました。

利上げの影響は懸念したほどでなく、世界経済見通しは短期的に改善

今回のIMF世界経済見通しの特色は、短期的な景気の底堅さとして24年の世界経済の成長率が上方修正された点に示されています。IMFの「底堅さ」が示唆するのは、利上げにもかかわらず思ったほど景気は悪化しなかったとことです。一方、IMFは中期的な世界経済成長率見通しが低下傾向するシナリオを示しています。

短期的な景気の底堅さは24年の世界経済成長率が前回(1月)から上方修正された点が象徴的ですが、上方修正に寄与した主な国は、先進国では米国、新興国ではインド、ブラジル、ロシアなどが挙げられます。これらの国々の成長率見通しを引き上げた主な要因として、米国は23年後半の景気の強さが続いているためと説明されています。インドは内需の強さと労働人口の増加が背景です。ブラジルは政策金利が高水準ながら前回の見通し程の低成長とはしませんでした。ロシアは投資の増加と堅調な労働市場を背景とした消費の強さが上方修正の背景とIMFは説明しています。

なお、日本の24年の成長率見通しは0.9%と、前回から据え置かれました。しかしIMFは23年の成長率1.9%から24年は0.9%へ低下する点を指摘しています。理由として23年の急回復を支えたインバウンド需要が落ち着くためと説明しています。

インフレを抑制するため、世界の多くの中央銀行が金融政策を引き締めたにもかかわらず世界経済が意外に底堅かった背景としてIMFは次の点を挙げています。

1点目は利上げ開始が遅れたことです。欧米各国の中央銀行は期待インフレ率が上昇を初めてから利上げを開始したため、実質金利は緩和的な水準が長く続いたと分析しています。

2点目は過剰貯蓄の消費下支え効果です。コロナ禍の消費抑制や財政支援などで「過剰貯蓄(過去の貯蓄のトレンドを上回る貯蓄の累積分をGDP(国内総生産)対比で算出)」が21年末頃までは積み上がりましたが、コロナの終息に伴い、過剰貯蓄を使用したため消費の押し上げ要因となりました。なお、米国のみ23年10-12月期まで示していますが、IMFの推定ではすでに貯蓄トレンドを下回っています(図表2参照)。

3点目は住宅ローン金利が、コロナ禍前の低金利時代に、幅広い家計で長期固定を選択していたため、金利上昇の影響が住宅市場や家計のセンチメントに波及しにくかったとIMFは見ています。

中期的な成長見通しは低下傾向で、世界経済に課題は残されている

利上げの影響をある程度回避できたことに加え、財政支出が想定を上回ったことなども世界景気を下支えしたとIMFは指摘しています。

しかし、経済成長率が「意外と」良好だったのは前回の見通しとの比較だけであって、過去の長期的な成長率の水準(2000年〜19年平均の3.8%)を下回っている点をIMFは強調しています。

その上、より懸念されるのは、中期的な世界の成長率見通しが低下傾向であることです。図表3は、横軸を予想地点として、IMFが想定する5年後の成長率を縦軸に示したものです。横軸の24年の上にある3.1%は、29年の世界の成長率見通しを示します。世界金融危機のあった08年頃を境に、世界経済の成長率見通しは先進国、新興国ともに緩やかながら低下傾向です。

IMFは成長率見通しが低下している背景は人口問題(高齢化や労働参加率の低下)だけで説明できないとし、(労働力や資本が効率的に使われているかの尺度である)全要素生産性(TFP)の低下を主な要因として挙げています。米中の対立で世界に「分断」が起き、特定産業を優遇する政策などが導入されていますが、これが労働力や資本の配分がゆがめるとして深い懸念を表明しています。また「分断」が世界貿易を縮小させていることは世界経済の成長率の押し下げ要因とIMFは指摘しています。中期的な成長見通しの悪化が想定される中、米国などにインフレ懸念が残されており、IMFは拙速な利下げにも警戒姿勢です。24年は上方修正でも、全体として高揚感に乏しそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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