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日銀短観、金融政策の決め手とはなりにくい
梅澤 利文
2024/07/02

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概要

日本銀行は7月1日、全国企業短期経済観測調査(短観、6月調査)を発表しました。大企業製造業の業況判断指数は改善し、非製造業は悪化しました。中小企業については製造業が横ばいとなる一方で、非製造業は悪化しました。設備投資計画は主に製造業にけん引され堅調さが想定されるなど企業の景況感にプラス面もありますが、個人消費に関連した項目には不安材料もあるようです。




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日銀短観の6月調査で大企業製造業の業況判断指数は前回を上回った

日本銀行は7月1日に全国企業短期経済観測調査(短観、6月調査)を発表しました(図表1参照)。大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は13と、前回3月調査の11から2ポイント改善しました。大企業非製造業の業況判断指数は33と、前回3月調査の34から1ポイント悪化しました。大企業非製造業DIが前四半期に比べて悪化したのは、新型コロナウイルス禍により景気が大きく落ち込んだ20年6月以来4年ぶりとなります。

中小企業製造業の業況判断指数はマイナス1と前回3月調査から横ばいとなりました。中小企業非製造業の業況判断指数は12と、前回3月調査の13を下回りました。

6月短観で、大企業製造業の業況判断指数は改善した

今回の短観(6月調査)の回答期間(5月29日-6月28日)に発表された1-3月期のGDP(国内総生産、改訂値)はマイナス成長でした(図表2参照)。一部自動車メーカーの認証不正問題による生産活動の停滞や、個人消費の手控え感がマイナス成長の背景とみられます。

そのような中、大企業製造業の業況判断指数は前回調査を上回るなど、企業の景況感には底堅さも見られます。この背景を振り返るとともに、短観の日銀の金融政策への影響を述べます。

大企業製造業DIを業種別にみると、原材料高の価格転嫁が進んだとみられる素材業に改善が見られました。また、円安の恩恵を受けやすい業務用機械、汎用機械なども改善しました。

一方で、自動車DIは前回調査を下回り、自動車産業の影響を受けやすい鉄鋼DIも前回調査を大幅に下回りました。認証不正問題が景況感に影響したとみられますが、製造業全体では、円安や価格転嫁などを背景に改善しているようです。

なお、全規模・全産業の24年度の想定為替レートは1ドル=144円77銭です。足元では想定レートより円安が進行していることから大企業製造業は為替に慎重な見方をしていたことが今後の景況感の下支え要因となることも想定されます。

設備投資は全般に堅調です。24年度の全規模・全産業の設備投資計画(含む土地投資額)は前年度比8.4%と、3月の前回調査での3.3%から上方修正されました。特に製造業がけん引役となっています。

企業の物価見通しは、全規模・全産業の平均について1年、3年、5年後で見ると、上昇傾向です(図表3参照)。企業は今後も価格転嫁を進めることが想定されます。この点を確認するため、販売価格判断DIを企業規模別にみると、これまで値段を引き上げてきた大企業は概ね横ばいで、先行き価格設定は抑制気味です。一方中小企業の販売価格判断は製造業、非製造業ともに上昇傾向で、先行きも小幅ながら上昇しており、今後販売価格の引き上げが示唆されます。価格転嫁の動きは意外としぶといのかも知れません。

大企業非製造業の業況判断指数は前回調査を下回った

6月短観には景気の先行きの懸念要因も見られます。大企業非製造業の業況判断指数は前回調査を下回りました。大企業非製造業の業況判断指数が悪化(前回調査を下回った)したのは17四半期ぶりです。ただし、業況判断指数は33と高水準であり、大企業非製造業は依然堅調とみられます。

ただし、業況判断指数を業種別に見ると気になる点もあります。

1点目はインバウンド需要などで好調であった宿泊・飲食サービスDIが49と前回の52を下回ったうえ、先行きについても悪化が見込まれている点です。依然高水準ながら、宿泊・飲食サービスに頭打ち感があるのかもしれません。

2点目は小売りDIが今回19と、前回の31から大幅に悪化している点です。物価高を背景に消費者の買い控えが想定されます。GDP統計でも個人消費は軟調に推移していることと整合的です。賃金は名目ベースではプラスの伸びを確保していますが、インフレ分を割り引いた実質ベースではマイナス圏で推移しています。賃上げが消費を押し上げる効果は、いまだ実感しづらいようです。

今回の短観は設備投資や価格設定など企業サイドには一部に明るい材料が見られました、しかしながら、個人消費に関連する項目には回復の鈍さを示唆する内容が見られました。そのため、日銀の追加利上げの時期を占う決め手には乏しかったように思われます。日銀の年内の金融政策決定会合は7月、9月、10月、12月に予定されています。足元の円安進行などから7月利上げの可能性も考えられますが、国債購入減額の発表と同時の利上げにはやや抵抗感があります。市場動向次第ながら、9月か10月の会合で追加利上げを行う可能性の方が高いと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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