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9月日銀短観、逆風を消化したものの、不安の種も
梅澤 利文
2024/10/01

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概要

日本銀行が発表した9月の短観では、大企業製造業の景況感は横ばいで市場予想を上回り、非製造業も市場予想を上回る結果でした。円高や米景気悪化の影響が景況感を押し下げるのか注目されましたが、景況感はそれらの悪材料を消化しました。逆風はあったものの、夏のボーナスの増加による消費回復などが背景とみられます。ただし、さらなる円高や今後の金利上昇の影響には注意が必要です。




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日銀短観、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は横ばい

日本銀行は10月1日に全国企業短期経済観測調査(短観、9月調査)を発表しました(図表1参照)。大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は13と、前回6月調査から横ばいでした。市場予想は12と悪化を見込んでいました。先行き指数は14と改善を見込んでいます。大企業非製造業の業況判断指数は34と、市場予想の32を上回り、前回6月調査の33から1ポイント改善しました。ただし、大企業非製造業の先行き指数は28と悪化が見込まれています。

中小企業製造業の業況判断指数は0と前回6月調査から1ポイント改善しました。中小企業非製造業の業況判断指数は14と、市場予想の11や、6月調査の12を上回りました。

利上げや円高進行などを大企業製造業の景況感に逆風も想定されたが

今回の短観(9月調査)の回答期間(8月27日-9月30日)を踏まえると、この夏の円高進行や米景気悪化懸念、日銀の利上げなど悪材料の影響が想定されました。市場予想をみても業況判断指数が概ね前月から悪化することを見込んでいました。しかし製造業、非製造業とも市場が想定したほどには景況感が悪化しませんでした。ただし、大企業非製造業の先行き指数は悪化を見込んでおり、先行きに不安も残ります。

大企業製造業の景況感を振り返るため、8月の鉱工業生産指数を参照し動向を確かめます(図表2参照)。生産指数は前月比で3.3%減と、市場予想、前月を下回り、生産活動の弱さが示されました。部門別にみると自動車が前月比で10.6%減と大幅に悪化した一方で、電子部品・デバイス、自動車を除いた輸送機械などは堅調でした。自動車は台風10号による生産停止の影響を受けた一方で、半導体の根強い需要を受け電子部品・デバイスは堅調であったとみられます。

生産悪化は天候という一時的要因が背景であったため、生産予測指数は9月が前月比2.0%、10月は6.1%と輸送機械主導による回復が見込まれています。鉱工業生産指数の8月の一時的な悪化から回復が見込まれるように、9月短観の製造業景況感は、懸念された悪材料に対し、冷静な判断があったとみています。

次に9月日銀短観で大企業製造業の景況感が底堅かった背景として想定為替レートの安定も考えられます。為替市場では7月半ばから8月前半にかけ急速な円高が進行しました。しかし、短観の企業の事業計画の前提となる想定為替レートは24年度上期が1米ドル146.00円で、今後を見据えた下期は144.31円でした。日銀が利上げをする前の6月短観で示された24年度下期の想定レート144.59円から小幅円高に過ぎず、企業は為替市場の動きを冷静にみているようです。ただし、さらなる円高には注意が必要と言えそうです。

利上げの影響を短観の「借入金利水準判断」(上昇と低下の差)で確認すると、全規模で9月調査が48と、6月調査の32から大幅に借入金利水準が上昇したと回答しています。規模別に6月調査からの変化幅を見ると大企業の8ポイントの上昇に対し、中小企業は19ポイントも上昇しています。日銀が繰り返し説明してきたように、政策金利は依然緩和領域にあり、市場が落ち着けば利上げを継続する姿勢です。筆者も適切な時期での利上げは支持しますが、金利上昇の影響は中小企業も含め十分に注意する必要があります。

大企業非製造業の先行きに慎重さも見られるなど不安の種もみられる

非製造業の業況判断指数は大企業、中小企業共に市場予想、6月調査を上回りました。賃金統計にもあるように夏のボーナスは増加したうえ、好調だったインバウンド需要などが非製造業部門の経済活動を押し上げたとみています。

9月の短観は製造業、非製造業とも向かい風の中、足元の景況感は懸念されたほど悪くなかったとみられます。ただし次の注意点もありますます。

まず、大企業非製造業の先行き指数は28と依然先行きに慎重な姿勢です。9月調査では個人消費が夏のボーナスの増加や、定額減税などにより押し上げられた可能性があります。しかし一過性に政策対応の効果などに対し企業はやや慎重なのかもしれません。

次に、企業の物価見通しを見ると、「物価全般の見通し」は1年後、3年後、5年後は各々2.4%、2.3%、2.2%で、6月調査からいずれも横ばいでした。また、価格転嫁の代替指数とみられる現状水準と比較した「販売価格の見通し」も全規模・全産業ベースでは6月調査からほぼ横ばいでした(図表3参照)。ただし一部のセクターに販売価格を引き下げる見通しもみられます。物価見通しは全体としてみれば安定しており、また5年という長期では価格を引き上げる意向も残っています。ただ、1年や3年先の価格を押し上げる意欲は前回調査に比べやや後退したようにも見受けられます。

9月の短観は全般に緩やかな回復を維持したものの、先行きにやや不安の種もみられます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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