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米ISM製造業景況指数と求人件数:まちまちの結果
梅澤 利文
2024/10/02

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概要

9月の米ISM製造業景況指数は47.2で市場予想を下回り、6ヵ月連続で50を下回りました。生産・新規受注指数は前月を上回った点で改善はしたものの、依然50を下回る縮小圏です。また雇用指数は悪化しました。なお仕入れ価格指数は低下し、インフレ懸念は和らいでいます。全体的に景況感は軟化していますが、景気悪化とまでは言えない状況で、FRBは大幅利下げの有無で判断を迫られています。




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9月の米ISM製造業景況指数は米国の景気回復が鈍いことを示唆

米サプライマネジメント協会(ISM)が10月1日に発表した9月の米ISM製造業景況指数は47.2と、市場予想の47.5を下回りました。前月からは横ばいでした。同指数は50が景気拡大・縮小の目安で、6ヵ月連続で50を下回りました(図表1参照)。

内訳をみると、生産指数は49.8、新規受注指数は46.1と、いずれも8月を上回ったものの、依然として50を下回り、生産活動の弱さが示されました。在庫指数も低下しており、慎重姿勢がうかがえます。雇用指数は43.9と、8月の46.0を下回り、製造業の雇用回復の鈍さが示されました。

仕入れ価格指数は48.3と前月の54.0を大幅に下回り、投入価格の上昇圧力が和らぎました。

新規受注や生産指数は前月を上回ったものの、依然50を下回っている

今回の米ISM製造業景況指数は50を下回っている点で、景気回復の鈍さが示唆されています。しかし、過去の景気後退局面で見られた45を下回る水準には幾分距離もあります。製造業の景況感は軟化していますが、悪化とまでは言い切れない状況と筆者はみています。

軟化とみる背景は、生産関連の指数が前月を上回ったとはいえ依然縮小圏にとどまるからです。また、在庫指数は9月が43.9と、8月の50.3から大幅に低下しており、企業は借り入れコストの先行き低下期待や米大統領選挙などのイベントを前に在庫の積み増しを抑えていることも考えられます。ISMも発表資料で不透明要因が在庫投資や設備投資を抑制(様子見)していると指摘しています。

雇用指数の悪化も、企業の様子見を反映して指数は悪化しました。米ISM製造業景況指数は企業へのサーベイに基づきますが、回答者のコメントも紹介されています。輸送業の中には「需要の悪化に合わせて雇用を調整している」というコメントがありました。一方で、新規増加はないが、欠員は順次穴埋めするという現状維持を示唆する企業の声もあります。積極的に人を減らすというよりも、雇用に慎重というのが現状なのかもしれません。

仕入価格の動向を示唆する仕入価格指数は9月が48.3と、前月を下回ったことは原材料など投入価格の上昇圧力が和らいだことがうかがえ、インフレ懸念後退要因です。このことは利下げ継続を支持する内容とみられます。

今回の米ISM製造業景況指数と米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策との整合性を考えると、軟調な生産活動や雇用指数、仕入れ価格低下から継続的な利下げは示唆されそうです。しかし、市場の関心は大幅な利下げ(0.5%以上の利下げ幅)が「いつ迄に」あるかに注目しています。先物市場などで市場の織り込み具合いを見ると、年内再度の大幅利下げを高い確度で見込んでいます。

米ISM製造業景況指数に限らず、米国の最近の様々な経済指標を振り返ると、インフレ懸念の後退はかなり明確ですが、景気や雇用については大幅利下げを必要なほど悪化しているのか、またより重要な視点として、今後悪化するのかを示唆する証拠は十分に揃っていないように思われます。

確かに景気悪化を懸念させる兆しもある程度みられます。7月の米雇用統計で失業率が4.3%となったことなどがその1例です(8月は4.2%)。景気悪化のサインを見落とさないように、幅広くデータを見守ることが今後も求められそうです。

ただし、パウエルFRB議長は9月30日の講演後の質疑応答で、11月と12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%ずつの利下げを支持していると述べています。さらに「利下げを急いでいない」とも発言しています。年内大幅利下げを暗に否定しているのは、労働市場が悪化するさらなる兆しがあれば、すぐにでも大幅利下げをするとしても、現段階は注視の状況と思われます。

求人件数は前月を上回ったが、労働市場の軟化を示すデータもあった

米労働市場の動向に注目が集まりますが、米労働省が10月1日に発表した8月の雇用動態調査(JOLTS)によると、求人件数は804万件と、前月の771.1万件を上回りました(図表2参照)。失業者一人に対する求人件数の割合は1.1で7月と変わりませんが、小数点以下2桁では7月の1.08から8月は1.13と小幅ながら上昇しました。部門別では建設業や、地方自治体の求人が伸びました。求人件数は22年3月をピークに低下傾向ですが、求人件数の割合が1に近づく中で安定化するのか、それともさらに低下を続けるのか注視が必要です。

自発的離職者の割合である離職率は1.9%に低下しました。離職率の低下は新しい職を見つけにくい兆候です。米ISMの雇用に関する企業側のコメントにあった欠員補充を除き新規採用は控えているとのコメントととも整合的です。

一方で、非自発的な退職や解雇などを反映する解雇率は8月が1.0%と前月の1.1%を下回り、最近の数字も低水準で安定しています。米企業は強制的な解雇を抑制していることがうかがえます。

同じJOLTSですが、離職率と解雇率で雇用市場のニュアンスが異なるようです。

筆者は「今の米労働市場は結局良いの、悪いの?」とお問い合わせを受けることがあります。ありのままをお伝えしようと、「良いところもあるけれど、どちらかというと悪いところが多いです。いずれにせよ、予断を持たずに今後の展開に注意しましょう」とお答えすることにしていますが、「わかりにくい」とのことで評判は良くないようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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