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「欧州の病人」とまで言われるドイツの論点整理
梅澤 利文
2024/11/26

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概要

ドイツは財政が健全過ぎるほどに健全なことで知られています。憲法で財政規律が守られている面と、これまでのロシアからの安いエネルギーと勤勉な労働力などを背景に製造業中心の産業構造が機能し過度な財政政策の必要性がなかった面もあるようです。しかし構造変化もありドイツの景況感は悪化しています。財政政策拡大への期待が高まる中、来年の総選挙が試金石となるのかもしれません。




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11月の独Ifo企業景況感指数などの景況感指数に悪化の兆し

ドイツのIfo経済研究所が11月25日に発表した11月の独Ifo企業景況感指数は85.7と、10月の86.5を下回りました(図表1参照)。市場が注目する期待指数は87.2と、市場予想の87.0を上回るも、前月の87.3を下回りました。ユーロ圏で経済規模が最大となるドイツ経済の不振はユーロ圏経済の回復にも影響を与えると思われます。

S&Pグローバルが22日に発表した11月のユーロ圏の総合購買担当者景気指数(PMI)は48.1と市場予想、前月(共に50.0)を下回り、景気拡大・縮小の境目となる50を下回りました。内訳では製造業PMIが45.2と前月の46.0を下回り、サービス業PMIは49.2と前月の51.6を大幅に下回りました。

ドイツは自動車産業の不振が続く中、サービス業にも悪化の兆しか?

ドイツの景況感に悪化の兆しが見られます。ドイツ経済が軟調な理由として、①主力の自動車産業の不振、②不安定な政治状況、③米トランプ次期大統領の関税政策への不安、④地政学リスクなどがあげられます。欧州中央銀行(ECB)の利下げやインフレ鈍化など景気を下支え要因はあるものの、足元では①~④の影響が大きく、景況感の改善にはさらなるテコ入れが必要です。

独Ifo企業景況感指数をセクター別にみると、全体の3割程度を占める製造業は、「良い」、「悪い」の境目であるゼロを大幅に下回っています(図表2参照)。製造業の不振はドイツの主力産業である自動車産業が苦境に直面しているからです。ドイツ大手自動車メーカーが最近になって国内工場の一部閉鎖と人員削減の方針を打ち出し、部品メーカーなどに同調する動きがみられます。ドイツの自動車メーカーが苦境に陥った背景として、電気自動車(EV)販売の不振、中国でのシェア低下、エネルギー費用の高止まりなどがあげられます。ロシアからの安価なエネルギーに依存していたビジネスモデルは、ロシアのウクライナ軍事侵攻以降、構造的な見直しを迫られました。しかし、脱原子力発電などを進める中で、コスト高解消の目途は未だに立っていない状況です。

セクター別景況感指数で5割程度を占めるサービス業に、11月は悪化の兆しが見られました。11月のユーロ圏PMIでもサービス業が悪化したのと整合的で気になる動きです。製造業の不振に加え、 ②~④に示した不安定な政治状況、関税政策、足元のミサイル攻撃を受け緊迫化するロシアとウクライナ情勢など地政学リスクへの懸念が消費者マインドを悪化させたとみられるからです。

政治状況も不安定です。国外ではトランプ次期大統領の関税政策が不安要因ですが、就任前の現段階では、トランプ氏の関税に関する言動で右往左往している状況です。

一方、国内政治では連立政権崩壊が不安要因です。ドイツのショルツ首相は、11月6日に連立政権の自由民主党(FDP)の党首でもあるリントナー財務相を解任し、FDP、社会民主党(SPD)、緑の党からなる連立政権は崩壊しました。崩壊の背景は景気悪化を受けSPDと緑の党が財政拡大のため憲法で規定される財務規律(債務ブレーキ)の一時緩和を主張したのに対し、FDPは順守を主張したことなどによります。連立崩壊を受け25年2月23日に総選挙の実施が予定されています。

ドイツ経済底割れの回避策が待たれる中、財政政策拡大への期待もある

これまで述べてきたドイツが直面する課題から、ドイツの景気回復は当面鈍いことが想定されますが、景気底割れ回避を支持する要因も見られます。ユーロ圏の7-9月期の妥結賃金は一時金という持続性に疑問のある要因ながら前年同期比で5.42%と急上昇しました(図表3参照)。ユーロ圏のインフレ鈍化も加味すると実質賃金は大幅なプラスで、消費を下支えする可能性があります。

ECBの利下げ姿勢も景気のサポート要因とみられます。金利低下による設備投資拡大への期待も一部にあるからです。もっとも、ECBはユーロ圏の金融政策を決定するため、ドイツの景気が悪いということだけで大幅な利下げをすることにECBは慎重になるのではないかと筆者はみています。スペインなど周縁国はドイツほどに景気は悪くなく、サービス業などは比較的堅調だからです。

したがって、その分を埋め合わせる個々の国の景気刺激策は財政政策で対応することが求められます。ところがドイツで財政拡大の障害として債務ブレーキ(新規借り入れをGDPの0.35%までに抑える)があります。ドイツの財務規律の象徴的なルールです。来年2月に予定されている総選挙で財政政策は間違いなく争点の1つとみられます。SDPや緑の党は景気回復に向け債務ブレーキ緩和に前向きなのは連立政権崩壊の流れから明らかです。世論調査で人気の高い最大野党のキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/CSU)の首相候補メルツCDU党首は13日に、これまでと異なり債務ブレーキ改革に前向きな発言をしました。総選挙でドイツの風向きが変わるかに注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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