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- 賃金動向:毎月勤労統計と支店長会議の注目点
日銀の追加利上げのタイミングを占ううえで、賃金動向は重要なファクターであろう。9日に発表された11月の毎月勤労統計と支店長会議で賃金動向を振り返った。特に支店長会議からは、人材確保を目的とした賃上げの圧力が根強く、賃上げは全体的に浸透しているようだ。しかし一部では「賃上げ疲れ」の声や、最低賃金引き上げに対する消極的な反応もあり、利上げの決定打とまではいえないようだ。
11月の毎月勤労統計:最低賃金改定が賃金押し上げ要因と見られる
厚生労働省が1月9日に発表した24年11月の毎月勤労統計(調査)によると、名目賃金を示す現金給与総額は30万5832円で3.0%増と、市場予想の2.7%増、前月の2.2%増を上回った(図表1参照)。名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月で0.3%減と物価上昇(持ち家の帰属家賃を除く総合消費者物価指数伸び率)に賃金の伸びが追いついていないため実質賃金はマイナス圏での推移となっている。しかし、実質賃金は市場予想の0.6%減、前月の0.4%減を上回っている。
内訳では、パートタイム労働者の時間当たり給与が前年同月比4.7%増と大幅に伸びており、最低賃金の改定が押し上げ要因とみられる。
11月の毎月勤労統計は最低賃金引き上げの効果が見られた
日銀は追加利上げを占ううえで重要なファクターとして賃金動向を挙げている(他は米国政策の不透明感)。そこで9日に発表された毎月勤労統計と、日銀の支店長会議において賃金に関連した部分の内容を振り返ってみよう。
まず、 11月の毎月勤労統計では日銀が注目するとされる所定内給与(共通事業所ベース)は前年同月比2.8%増と、10月の2.9%並みの伸びとなり、賃上げ基調が確認された。今回の毎月勤労統計で伸びが大きかったのはパートタイム労働者の時間当たり給与や特別給与(前年同月比7.9%増)だった。パートタイムの時給が上昇した背景は10月から適用が開始された最低賃金の引き上げの効果と思われる。また、特別給与の伸びは一部企業による冬季賞与の支払いや、最低賃金の引き上げの10月分を(10月は見送り)11月に遡及して支払った分が押し上げ要因であったと見られる。最低賃金の引き上げという政策の後押しが賃上げに寄与している可能性がうかがえる。
24年は春闘や政策的な後押しもあり、幅広い賃上げの機運が見られた。しかし追加利上げを占ううえで将来の賃上げが重要なのは言うまでもない。今年の春闘は試金石だ。植田総裁は、「春闘について大きな姿が分かるのは3月とか4月とかそういうタイミングになると思う」と12月の記者会見で述べた。しかし、必ずしもそのタイミングまで利上げをしないということではなく、「1ノッチ、見通しの確度を上げられる」ならば1月会合での利上げの可能性も残されているようだ。日銀は企業などからのフィードバックも重視しており、この集計を反映するとみられる支店長会議にも注目してみたい。
日銀の支店長会議のコメントから、賃上げは浸透してきているようだが
日銀は9日の支店長会議で「全体としては、構造的な人手不足のもと、最低賃金の引き上げもあって、継続的な賃上げが必要との認識が幅広い業種・規模の企業に浸透してきている」と報告をまとめた。この点については、支店長会議の公表資料の「各地域からみた景気の現状(2025年1月支店長会議における報告)」に示されている。
次に、支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約した「地域経済報告(以後さくらレポート)」の主な具体的な声を振り返ろう(図表2参照)。さくらレポートの「雇用・所得動向」に関するコメントから浮かび上がるのは、人材確保の困難さだ。図表2にあるように青森(運輸)、函館(スーパー)、新潟(卸売)と地域、業種は多方面にわたるが同様の問題に直面し、賃上げを迫られている状況が浮かび上がる。スペースの関係で図表2には記載していないが、旅行業などでも人材不足は深刻で、雇用確保に向けた賃上げ圧力は足元でも根強い。
もっとも、人材確保の必要性は深刻ながら、業績に不安のある企業からは懸念の声もあがっている。高知(建設)の例では、他の企業の様子を見て、無理をして追随するといった切実なコメントもあった。さくらレポートには多くの企業から同様の懸念がコメントされている。人材不足に賃上げで取り組む姿勢が浸透してきたことは確かとしても、積極的な賃上げ戦略とはいえないケースもあるようだ。
なお、人材の確保に向けては賃上げだけでなく、働き方改革や、省力化投資など様々な対応がさくらレポートの中に見られた。人材不足は構造的な問題でもあり、今後も賃上げ圧力の要因となるとみられる一方で、対応方法も多様化しそうだ。
一方で、「賃上げ疲れ」が一部でささやかれている。図表2では金沢(運輸)や福島(輸送用機械)を示したが、さくらレポートの中には同様のコメントが少なくない。筆者が気になったのは最低賃金引き上げに対する一部の消極的な反応だ。最低賃金を上げた分、一般社員の賃上げを抑える動きや、他の経費を削減して賃上げ費用をねん出したケースなどが報告されている。賃上げ目標として柔軟なものと異なり、法的に賃上げを「強制」するのであれば、幅広い声を聞く必要があるだろう。
足元の賃上げ動向が追加利上げの材料となるのかという視点からさくらレポートを見てきた。賃上げの浸透は追加利上げの支持要因であると見られるが、決定打となるのかまでは判然としない。市場の利上げ織り込みを見ても変化は小幅であった。来週の日銀の氷見野副総裁の会見など追加情報を消化する必要がありそうだ。
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