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- 日銀1月会合:利上げと植田総裁からのメッセージ
日本銀行は1月23~24日に開催した金融政策決定会合で、市場予想通りに政策金利を0.25%引き上げ0.50%とした。前回の会合で追加利上げを見送った理由とした賃上げ動向と、米国経済の不確実性について一定の進展があったと日銀は指摘した。実質金利が低いことなどから、日銀は今後も利上げ姿勢を維持する方針だ。一方、政策金利の水準を気にする声もあり、慎重な政策運営が求められそうだ。
日銀、2つの条件はクリアしたとして市場予想通り1月会合で追加利上げ
日本銀行は1月23~24日に開催した金融政策決定会合(会合)で、市場予想通りに政策金利を0.25%引き上げ0.50%とした(図表1参照)。日銀は24年7月に利上げを決定した後、3会合連続で政策金利を据え置いていたが、「展望レポート」に示してきた見通しに概ね沿って推移し(オントラック)、先行き見通しが実現していく確度は高まっていると判断したことを利上げの理由とした。
具体的には、賃金は人手不足感の高まりなどを背景に、本年の春季労使交渉(春闘)は、昨年に続き賃上げを実施する見込みと指摘した。海外経済は、不確実性が懸念されるものの、国際金融資本市場は落ち着いていると評価した。
展望レポートなど日銀の発表内容は概ねタカ派的だった
日銀の1月会合における利上げは、会合直前に正副総裁の利上げ示唆(「1月会合で追加利上げを行うかどうか判断する」)発言があったことなどからサプライズはない。事前の市場予想では「ハト派(金融緩和を選好)的利上げ」となれば円安との懸念もあったが、会合の前後で為替市場は落ち着いた動きだった。
日銀が発表した声明文「金融市場調節方針の変更について」や、「経済・物価情勢の展望(展望レポート、図表2参照)」はややタカ派(金融引き締めを選好)寄りであったことから、植田総裁の会見前はむしろ円高が進行する局面もあった。
今回の日銀の発表でタカ派寄りだった主な内容を振り返る。目立つのは、展望レポートのインフレ見通しが大幅に上方修正された点だ。図表2にあるように、25年度のコア消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の伸び率見通しは今回2.4%上昇と、前回(24年10月)の1.9%から大幅に上方修正され、数字上はインフレ懸念が示唆された。
実質GDP(国内総生産)成長率は前回とほぼ同じ見通しが示された。展望レポートでも、日本の成長率は潜在成長率を上回るペースでの推移が見込まれている。日銀は日本経済に前向きな見通しを維持しているようだ。
また、今回の展望レポートでは海外情勢や金融市場関連のリスクについて、依然注意は必要ながらも、落ち着いていると評価している。追加利上げの理由と整合的な内容だ。
今後の金融政策運営については、声明文、展望レポートともに、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると」、経済・物価がオントラックなら追加利上げが適切との考えが維持されたこともタカ派的であった。しかし、植田総裁の会見では、一部にタカ派を緩めた部分もあり、市場の方向感は定まりにくくなった。
今回の植田総裁の会見では市場の方向性が定まりにくかった
植田総裁の会見では、今回の利上げの背景として、今年の春闘でも昨年同様にしっかりとした賃上げ実施が見込まれると説明した。マイナス金利から脱却した24年3月の会合では、連合が春闘の第1回回答集計を発表した数日後に利上げを決定した。今回の利上げでは、連合の回答集計発表を待たずに利上げをした格好だ。最近の経営側からの賃上げに前向きなコメントや、ヒアリングなどで賃上げへの確信を深めたようだ。
利上げのもう1つの理由である海外経済、より直接的にはトランプ政権の政策に対する市場の反応について植田総裁はこれまでのところ落ち着いてるとの説明にとどまった。トランプ政権の政策は不規則で、影響も読みにくい。深刻な影響が懸念されない限り、日銀は過度にトランプ政権の政策を日本の金融政策に反映させないよう注意しているのではないかと、筆者には感じられた。
植田総裁は会見で、展望レポートにおける25年度のインフレ見通しの大幅な上方修正について説明した。展望レポートでは、米価格の上昇などコストプッシュが上方修正の主な理由で一時的とも受けとれる説明となった。植田総裁は基調的なインフレは緩やかにとどまっていると指摘した点は、タカ派度合いを若干緩めた面もある。
しかし、一方で植田総裁は円安に伴う輸入物価の上昇が、物価見通しの上方修正の1つの背景と説明した。前回の会合まで輸入物価の影響は小幅と受け取られるような発言をしたことで円安を進行させただけに、しっかり軌道修正を図ったようだ。
日銀は基本的に利上げ路線を維持するという意味ではタカ派寄りだと見られる。このことは植田総裁の中立金利(経済を加熱も冷却もしない金利)の説明にも示されたと見ている。日本の中立金利は1%~2.5%程度と見られているが、植田総裁は会見で、政策金利を0.5%に引き上げても、中立金利に対して相応の距離があると説明し、利上げの余地が残されていることが示唆された。
次の利上げで仮に日本の政策金利が0.75%になると、約30年ぶりだ。このような金利水準への抵抗感から、今回の利上げ局面は0.75%で打ち止めとの見方が市場にある。筆者もその可能性があると考えていた。しかし、中立金利に相応の距離があるという植田総裁の発言からは、経済・物価が見通し通りに推移するなら、次の利上げで終わりではない可能性を示唆しているようにも響く。
日銀は円安圧力を回避するためにタカ派姿勢を取り続ける一方で、過去の政策金利の天井ともいえる水準を意識する政策運営を迫られている。米国の政策など外的要因を別とすれば、市場の方向性は定まりにくいのかもしれない。
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