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- ユーロパリティ割れ懸念:幾分後退も安心に程遠い
ユーロ圏の景況感悪化や、政局不安などを背景に24年後半にユーロの先安観が強まり、1ユーロ=1ドルを下回る「パリティ割れ」の懸念が高まった。しかし、1月後半に若干の回復が見られた。足元で景況感に底打ちの兆しが見られることや、ECBの金融緩和が過度でない可能性、政治の落ち着きがユーロの下支え要因とみられるがいずれも不確実性は高く、パリティ割れ回避と安心するのは時期尚早だろう。
ユーロ圏の景況感の悪化などを背景に、昨年後半はユーロ安傾向だった
通貨ユーロは24年後半に先安観が強まり、市場では1ユーロの価値が1ドルを下回る「パリティ(等価)割れ」を見込む声が強まった。24年9月末にユーロは1ユーロ=1.12ドル近辺であったが、25年1月半ばに1ユーロ=1.02ドル台までユーロ安が進行した(図表1参照)。昨年後半のユーロ安の要因として、ユーロ圏の景況感悪化に伴う欧州中央銀行(ECB)の緩和姿勢、ドイツ(独)やフランス(仏)の政局不安などが挙げられる。
なお、ユーロは22年後半にロシアのウクライナへの軍事侵攻後の景況感の悪化などを背景にパリティ割れとなった。足元でユーロは1ユーロ=1.05ドル前後での取引となっている。
ユーロ圏の景況感や、ECBの緩やかな金融緩和姿勢はユーロを支えよう
1月後半、ユーロは1ユーロ=1.02ドル台から回復を見せている。昨年後半、市場ではユーロのパリティ割れは時間の問題という雰囲気もあったが、若干トーンダウンした。ユーロに対する悲観的な見方(あくまで若干だが)を変えた要因を振り返るとともに、ユーロ下支え要因の持続性を検討する。
ユーロ圏の景況感指数の一部に小幅ながら改善が見られたことは、足元のユーロの下支え要因と見ている。1月24日にS&Pグローバルが発表した1月のユーロの圏総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)は50.2と、前月の49.6、景気拡大・縮小の分かれ目となる50を上回った(図表2参照)。
別の景況感指数である独Ifo企業景況感指数(期待指数)は1月が84.2だった。独Ifo期待指数は通貨ユーロと連動性が見られるが、22年にユーロがパリティ割れとなった時の水準は80を下回っていた。同指数の現状水準はパリティ割れの安全圏からは程遠いが、(パリティ割れ)当時の水準から多少の余裕もありそうだ。
次にECBの金融政策の影響を考える。景況感の悪化などから、昨年後半、市場はECBが大幅利下げ(1回の利下げ幅が0.5%以上)に追い込まれるとの見方もあった。一方で昨年秋ごろから米国の利下げは緩やかとの見方が優勢となり、金融政策の姿勢の違いがユーロ安要因となっていた。
しかし、ECBの主要メンバーの最近の発言を見ると、利下げは0.25%の幅で段階的に進める方針で、大幅利下げは想定されていない。また、利下げの最終地点(ターミナルレート)は2%前後が想定されている。ユーロ圏の中立金利(景気を過熱も冷却もしない金利)の推定値近辺で利下げは十分だとECBは考えているようだ。ECBの金融緩和姿勢は基本的にユーロ安要因だが、過度な緩和が回避されるなら、悪材料とならない可能性もあろう。
ユーロ圏内外の政治要因に下支え要因も見られるが不確実性は高い
圏内外の政治動向にもユーロの回復要因が見られた。圏外要因ではトランプ政権のユーロ圏に対する早期の関税発動回避への淡い期待がユーロを支えている。しかし、トランプ政権の政策は不規則で期待はしないほうがいいだろう。
一方、ユーロ圏内の政治動向に若干の前進が見られ、ユーロの下支え要因と見られる。
独では昨年11月にドイツ社会民主党(SPD)、「緑の党」、自由民主党(FDP)の3党による連立政権が崩壊した。独政治の混乱はユーロの重荷となった。連立崩壊を受け2月23日に解散総選挙が予定されている。
世論調査を見ると、保守陣営のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が3割程度の指示で首位となっている。現少数与党のSPDは3位で15%程度の支持率である。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は2割程度の支持率で2位につけている。過半数を獲得し安定的な政治運営を行う政党は見当たらず、連立が模索されそうだ。その場合、独有権者が最も望ましい組み合わせと考えるCDU・CSUとSPDの大連立の可能性があり、その場合、独政治に多少の改善は期待される。
極右AfDが票を伸ばす懸念もあるが、他の主要政党はAfDとの連立を否定しており、連立与党として政策運営にかかわる可能性はなさそうだ。
仏政局は小康状態だ。昨年、仏首相は交代が相次ぎ、現在のバイル首相(24年12月選出)は昨年4人目の首相だ。前任のバルニエ首相は25年度予算案を緊縮財政としたが野党から猛反対を浴び退陣した。バイル首相は財政目標を緩和して予算案の成立を目指すが成否は綱渡りだ。仏政局不安はユーロ安要因であった。足元は仏政局が小康状態でユーロへの影響は限られるが、今後の展開次第でどちらに転ぶかは不確実だ。
ユーロ圏の景況感、金融政策、政治動向の一部にユーロ下支え要因はみられるが、不確実性も高く、パリティ割れが回避できると安心するのは時期尚早なようだ。
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