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据え置きが確実視されていた1月FOMCからの教訓
梅澤 利文
2025/01/30

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概要

FRBは1月28-29日にFOMCを開催し、市場予想通り政策金利を据え置いた。声明文において「2%の物価目標に向けて進展」の文言が削除されたことなどを背景に、市場は声明文をタカ派的と受け止めた。しかし、パウエル議長の記者会見ではハト派的とも考えられる発言もあり、市場は元に戻った。パウエル議長は記者会見で、「(利下げを)急ぐ必要はない」と繰り返し述べ、当面の据え置きを示唆した。




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1月のFOMC、事前の想定通りの据え置きで、市場への影響は限定的

米連邦準備制度理事会(FRB)は1月28-29日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場予想通り政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)を据え置いた(図表1参照)。FRBは24年9月から12月まで3会合連続で計1%の利下げを実施してきたが、今回、政策金利を据え置き、今後は政策判断を慎重に進める姿勢を示した。

声明文はインフレに関し、前回と同様に「幾分高止まりしている」とした一方で、今回は「2%の物価目標に向けて進展」という文言を削除した。このことなどを受け、市場はタカ派(金融引き締めを選好)と受け止めた局面もあったが、パウエル議長の会見を受け市場は落ち着きを取り戻した。

声明文はややタカ派ながらパウエル議長の会見がタカ派度合を緩和

1月のFOMCに対する市場の反応は、声明文をタカ派と見たものの、その後のパウエル議長の記者会見で軌道修正する内容でもあったことから、落ち着きを取り戻した。例えば、米10年国債利回りは当初上昇したが、記者会見後はほぼ元の水準に戻った。

声明文、記者会見の主なポイントを振り返る。

声明文では米国経済に対し前向きな評価をしている点でタカ派だった。労働市場について、12月の声明文では「労働市場の需給は緩和し失業率は上昇」としていたが、今回は「ここ数ヵ月失業率は低水準で安定し、労働市場は堅調」と労働市場の評価を上方修正している。

物価については、今回の声明文では「2%の物価目標に向けて進展している」というインフレ鈍化を示唆する文言を取り除き、インフレ再加速に注意が必要なことを匂わせた。

記者会見でパウエル議長は、この声明文の変更について問われ、「短くしただけ、シグナルを送ったわけではない」と説明した点はハト派(金融緩和を選好)寄りにも聞こえる。

また、政策金利の水準について、「中立金利(景気を過熱も冷却もさせない金利水準)を有意に上回る水準」と説明した。引き下げ余地があることを示唆した点でややハト派的とみられよう。

もっとも、ハト派と指摘した記者会見におけるこれらの発言も積極的な利下げを示唆するものではない。あくまで、声明文にあったタカ派度合いを弱める働きをしたに過ぎないだろう。

むしろ、記者会見では、政策金利の据え置きが長期化することを示唆する「(利下げを)急ぐ必要はない」が繰り返された。パウエル議長は「(これまでの利下げで)金融政策が景気を抑制する度合いは以前より弱まっており、経済は強さを維持していることから、金融政策の調整を急ぐ必要はない」と説明した。記者からの質問で、(次の会合である)3月FOMCでの利下げの可能性が問われた。パウエル議長は「利下げを急がない」と回答しており、当面の据え置きが示唆された。

利下げをするとした場合の条件について、パウエル議長は「インフレ鈍化の進展下、労働市場の軟化を確認したい」と、これまで同様の説明をしている。据え置きの期間を探るにはこれらのデータを丹念に追いかけることが今後も必要だ。

なお、米労働市場についてパウエル議長は堅調であるとの見方は維持する一方で、仕事の見つけにくさを示唆する指標などに悪化がみられるとしている。報道のヘッドラインで使われる非農業部門就業者数の前月比の伸びや、11月分が改善した求人件数は堅調な数字が続いている一方で、失業保険の継続受給者数が増加するなど(図表2参照)、悪化傾向を示唆するデータもある。パウエル議長は労働市場などについて幅広くデータを見る必要があると述べた。労働市場は全般に堅調ながら、どこか引っかかるものがあるのではないだろうか。「急ぐ必要はない」姿勢ながら、次の一手は利下げのようだ。

経済指標に加え、トランプ政権の政策にも注視が必要

「急ぐ必要はない」とは、「しばらく様子を見たい」という意味だろう。今後の金融政策には経済に加えて、財政を含めトランプ政権の政策の影響が大きいとみられる。パウエル議長は会見で注目すべき重大な政策として関税、移民、財政政策、規制緩和の4つをあげた。「(政策の行方を)辛抱強く見守り、理解し、私たちの政策対応がどうあるべきかを理解するまで急がないつもり」と説明した。過去のFOMCの記者会見でも、「政策が決定されてから政策を(経済)モデルに入力して影響を判断する」と似たような説明をしている。

政策の中には大統領令で対応可能なものから、議会の承認が必要なものまで幅広い。「急ぐ必要はない」といっても、そのすべての成立を待つことはないだろうし、その必要もないだろう。ただし、「理解」するまでは急がない、というのは今回パウエル議長が会見で「大統領令を検証しているが、より多くがわかるまで動かない」と述べたこととも重なるだろう。

その時期がいつになるか筆者も現時点ではわからないが、2月1日を示唆したメキシコやカナダなどへの関税発動や、移民政策などは参考になりそうだ。これまでのところ、さすがのトランプ大統領も、米国民がインフレを嫌っていることに対し注意を払っている様子だ。過度な関税や財政政策が回避できるなら、年内に追加利下げが行われる可能性があると思われる。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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