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トランプ関税発動と主な市場のこれまでの反応
梅澤 利文
2025/02/03

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概要

トランプ米大統領は2月1日、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に追加関税を課す大統領令に署名した。関税は2月4日から適用予定だが、各国は報復措置を示唆している。大統領令には報復関税があった場合追加関税の条項が盛り込まれており、関税がエスカレートする懸念もある。市場はリスクオフの動きとなり、為替や株式市場に影響が広がった。市場の反応を受けた米国政府の動きに注目したい。




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トランプ大統領、カナダ、メキシコ、中国に関税発動する大統領令にサイン

トランプ米大統領は2月1日、事前に繰り返した発言通り、カナダ(加)とメキシコからの輸入品に25%、中国に10%の追加関税を課す大統領令に署名した(4日から適用)。事前の一部報道で発動は3月1日と伝えられたが、ホワイトハウスのレビット報道官が1月31日にこの報道を明確に否定した。

カナダなどへの関税は不法移民や合成麻薬「フェンタニル」の流入等を理由とし、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき発動された。カナダ、メキシコは報復関税などの対抗措置の意向を表明した。関税発動を受け、カナダやメキシコ通貨は大幅安となったが(図表1参照)、影響は株式、債券、商品、為替など様々な市場に広がっている。

関税を国際緊急経済権限法に基づき発動したが、貿易赤字が関心事か?

トランプ大統領は就任前から不規則発言を繰り返していた。市場は不規則発言に対し一定の反応を示してきたが、所詮、不規則発言という面も見られた。今回の大統領令への署名はこれまでと違い本格的な貿易戦争の開始と位置付けられよう。

ホワイトハウスの発表(ファクトシートなど)によると、トランプ大統領は1977年に制定されたIEEPAに基づいた緊急事態宣言を一律関税導入の法的根拠とした(カナダからの石油輸入は10%の軽減税率)。IEEPAは米国の安全保障、外交政策や経済に対する重大な脅威があった場合、大統領が国家非常事態を宣言することで関税などの対応措置が行えるとしている。そこでファクトシートでは米国における「フェンタニル」蔓延の危機を訴えるとともに、メキシコ政府がメキシコの犯罪組織を手助けしたと述べている。またカナダの国境管理は不適切で不法移民の流入を許していると指摘し、カナダについても麻薬の問題を指摘している。

ファクトシートにはカナダ、メキシコおよび中国の貿易額がGDP(国内総生産)の各々67%、73%、37%を占めると指摘している。関税率がカナダとメキシコは25%、中国に10%と比率が似てるようにも見える。なお、米国の同比率は24%だが、貿易赤字が巨額で不公平と指摘している。貿易赤字解消への期待が見え隠れする。

大統領令に基づく関税は2月4日発効するとされ、関税対象国から関税回避の対応策が出されれば発効されない場合もある。市場の一部にはぎりぎりでの回避を期待する声もあるが、カナダ、メキシコ、中国は報復措置を示唆しており、事態がエスカレートする可能性にも注意は必要だ。

トランプ大統領の関税発動を受け市場はリスクオフで反応

3日の日本時間午前の市場はリスクオフの動きだった。為替市場では加ドル、メキシコペソ安が進行し、中国人民元もオフショア市場で人民元安となった(本土市場は春節)。トランプ政権は貿易赤字が大きい欧州連合(EU)に対しても関税の可能性を示唆していることもあり、ユーロ安が進行した。

日本円は上下に変動したが結局1ドル=155円台半ばへ円安が進行した。関税発動に対する事前の予想では、リスクオフの円高や関税回避への期待から円高との見方も一部にあったが、米国のインフレ懸念、金利上昇観測で円安が優勢となった。

米国債は米国取引時間前という点は割り引く必要はあるが、小幅な動きとなっている(図表2参照)。関税が景気を押し下げるとの観測からリスクオフは国債の買い(利回り低下)要因で長期債利回りは小幅低下した。一方、インフレ懸念は国債の売り(利回り上昇)要因だ。市場で観察される期待インフレ率は関税発動を受け上昇した。米国のサプライチェーンの要であるカナダやメキシコ、日用品の輸入先である中国への関税発動はインフレを悪化させる可能性もあり、売り買い要因が相殺した。

悪性インフレと景気への影響が懸念されるなか、株式市場は下落した。今回の関税のように週末欧米でイベントが起きると、主要株式市場の中で最初に開かれる日本は市場の変動が大きくなる点を割り引く必要はあるが、日経平均株価は4営業日ぶりに反落し、一時前週末比1100円と大幅に下落した(図表3参照)。自動車などを含む輸送用機器や半導体関連などに売りが目立った。

米国株式を先物市場(ミニS&P500先物)で見ると、東京時間に前週末比で2%前後下落した。日経平均株式が終値で2.7%程度下落したのに比べ、ショックはやや小さかったが、米国株式にも相当ネガティブな影響がみられた。もっとも米国取引時間になると米国株式の様相が変わる可能性もあり、米国時間での取引に注目する必要がある。

商品市場では原油先物価格(ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引される原油先物価格が関税発動を受け上昇した。カナダ産原油に10%の関税が適用され、WTIへの需要が増えるとの思惑かもしれない。しかし、原油は景気悪化に対し下落する傾向があり、先行きは不透明だ。

市場の反応を見たトランプ政権の反応に注目だ。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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